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体全体で感じる施設独自のカラー
永冨・・・さて、私が報告書を読ませていただいて、一番面白かったのは調査員のみなさんの感想部分(本書の団体レポートのトップにある文章)なんです。ここをお書きになるとき、調査員の方々は結構悩まれたんじゃないかと思うんですが、いかがですか?
小川・・・実は、最初の報告書のフォーマットには、調査員の印象や感想を書く部分がなかったんです。大まかな質問項目は協力4団体の話し合いで決められていましたが、報告書の詳細なフォーマットを作るために、初期の段階であらかじめその4団体を試験的に相互調査しました。工藤啓くんと河野久忠さん(調査員の一人)と僕とで先行調査をしたわけです。僕はYSCを担当させてもらって、「さぁ、まとめよう」と思ったとき、自分の印象や感想を書く部分がないことに気づいたんです。それで、調査員が施設を訪れ、その場で感じたことは自由に書いてもらおうということになりました。そういう経緯があったんです。
 さまざまな施設には、その施設が持っている独特の雰囲気があるわけですが、それはその施設を知る上でとっても大事な部分じゃないでしょうか。どんなにその施設の代表がかっこいいことを言ったって、何となく子どもが萎縮しているように見えたり、元気がなかったりするのを目の当たりにした場合は、そういうことも報告書に盛り込みたいと思いますよね。だから、直接感じたもの、肌で感じたことを書くということは、情報を伝える上でとても大事なことだと思いましたね。
永冨・・・なるほど。でも、私はみなさんの報告を読ませていただいて、「あぁ、すばらしい施設ばかりなんだな」と感じましたけれど。
小川・・・それは基本的に、「どういう部分がいいのかを伝えよう」という気持ちで、報告書を書いたからです。
山田・・・私もその団体のよいところをピックアップして書きました。その施設に合った人がそこへ行くのが一番いいことですから、あまり私情は混ぜないようにしましたね。
 ただ、私が小川さんの感想部分を読んで、子どもが萎縮しているような雰囲気だということを読みとれるかといえば、それは難しいと思うんですが・・・。
工藤・・・私もその辺を中心に、調査員の方にお聞きしたいんですよ。「よい」部分を「よい」と表現するのはいいと思うんです。その姿勢はわかりますが、“正確”な情報というには少し足りないんじゃないか、判断の基準にはなりにくいんじゃないかという気がしています。この報告書のどういう部分を読みとれば、より“正確”な情報を得られるのか、そのコツが知りたいんです。
山田・・・うーん。それはすごく難しいと思いますね。他の方の報告書も読みましたが、やはり難しいと感じます。
 たとえば、私が調査したある塾では、子どもにまったく何も指示せず、すべて子どもの自由意志に任せていました。朝、彼らが起きてこなくても、ごはんを食べなくても、まったく何の指示もしない。私自身は「そこまで子どもに任せてしまうのはどうなんだろう?」とも思いますが、そういったやり方に合う子もいるんだと思うんです。だから、報告書の中では「まったく子ども自身が経験したことのない自由意志を尊重してもらう空間」というような書き方をしています。
小川・・・我々が作った報告書をホームページ上で公開する前に、あらかじめ施設側にチェックしてもらいましたよね?その段階で、先方から修正されました。それで、その施設にとってあまり都合のよくないことは削られてしまい、まるで絶賛しているかのような美しい文章になってしまったというケースも中にはあるんじゃないですか?
 
和田重弘さん
 
工藤啓・・・いいえ、それはないです。みなさんの感想・コメント部分は先方に送っていません。先方にチェックしてもらったのは、事実関係に間違いがないかどうかを見るためのものでした。まぁ、団体概要(団体の特徴)部分が美辞麗句だらけの“キレイ”な文章に修正されたケースはありますが(笑)。特に、団体概要の部分は、そこが作っているパンフレットに掲載されている言葉に修正されたりすることもありました。
小川・・・なるほど、そうなんですか。
 僕自身は、はじめ塾以外の場所は本当に知らなくて調査に出向きましたから、ある意味では不登校の子どもを抱える親と同じような気持ちで行ったと思います。その施設で1泊していろいろな話を聞き、施設の様子や場所を実際にこの目で見て、その上で「ここはよい部分だなぁ」と思ったところを中心に書いていったんですよ。先ほどから何度もお話が出ているように、どこも非常に個性が強くて、「個性が強い」ということが不登校・ひきこもりを対象とした宿泊型施設の基本的な特徴だということがよくわかりました。公立学校の校長などとこういう施設の代表者の感覚はまったく違っていて、代表者の性格や考え方が如実に施設に表れているわけです。ところが、僕にはそれがいいか悪いかという判断ができない部分もあるんですよ。ただ、僕自身はきれいごとばかりを書いているつもりはなくて、「ここの子どもたちの場合には心がケアされていないんじゃないか」とか、例えば「構造上この施設はやばいんじゃないか。古すぎて危ないんじゃないか」と書いた施設もありました(笑)から、短所や欠点についても―やんわりとではありますが―最低限は報告書に盛り込んだつもりなんですけどね。
工藤・・・子どもたちの表情についてのコメントは正確ですか?僕が施設を訪ねるときには、代表者の個性はどうでもよくて、子どもたちの表情や行動を観察するということが重要な課題だったりするんだけど・・・。のびのびとしてるのか、鬱屈してるのか、偏った明るさがないか・・・。
小川・・・おっしゃる通り、それは最重要項目の中の一つだと思いました。だから、僕は体全体をできる限り鋭敏にして、子どもたちの雰囲気や様子をすべて感じ取ろうとしてきました。たとえば、子どもたちが活発にしゃべらないとしても、抑圧された静けさと、安心感からくる静けさは違いますよね?そういった部分をできる限り感じ取ったつもりです。
工藤・・・それに、食事風景というのも重要なポイントだと思うね。オレなんかは、必ず子どもたちと一緒に食事させてもらって、「いつもこんな感じなの?」と子どもたちに必ず聞くもの。
山田・・・食事風景も施設によって違っていましたね。実際、ちょっと暗い雰囲気のところもありましたし。
沢辺・・・それは、山田さんご自身の評価軸と合っているんですか?
山田・・・合っていました。やっぱり、食事のときに暗い雰囲気のところは、私自身が「どうかな?」と思ったところです。
沢辺・・・僕はタメ塾(現YSC)にしか行ったことがないんですが、じゃあタメ塾の塾生が明るく元気で朗らかなのかといえば、とうていそうは思えない。彼らは、ホームドラマに出てくるような明るい青年じゃないですよね。でも、それとは違った意味で暗いんですよね?
小川・・・簡単に言えば、和やかで明るいところの方がいい場所であることは間違いないと思うんです。その一方で、一概には言えないと感じるのは、たまたま僕たちが調査に訪れたその時期に居合わせた子どもたちの状況なんです。すごく具合の悪い子が入ったばかりだとか、どうしてもそりの合わない何人かが居合わせてしまっていたりとか、その時々の状況はありますからね。たった1人の子どもの状況が、施設全体の雰囲気を変えるものだと思いますから、簡単には言えないんだなぁ。
永冨・・・つまり同じ施設でも、見る時期によって雰囲気は変わるかもしれないということですね。
工藤・・・でも、スタッフがきちんと支えていてその上で暗くなっているのか、それともやみくもに暗いのかということは肌で感じるんじゃないですか?
小川・・・もちろん、そうです。スタッフが子どもたちをしっかりと支えているのがよくわかりました。
 その他、僕が重要視したのは代表者の方のお話(代表者インタビュー)です。10数時間じっくりと話を聞いた上で書いているのもあります。代表者があの通りの受け答えをしたわけではなく、じっくりと聞いた内容をあのコーナーに凝縮しているんです。
永冨・・・山田さんにもお聞きしたいのですが、絶対に報告書の中に盛り込もうと思われた、重要なポイントはありますか?
山田・・・ほとんど小川さんと同じようなことです。代表の方のキャラクターが、その施設を作っているんだなということを、私は強く感じました。スタッフにいろいろな方がいらっしゃっても、やはりどこかに代表者のカラーが感じられましたし。
 
工藤定次さん
 
24時間の“日常”を調査するということの意味
和田・・・今回のこの調査で、非常に意味があったなと思うポイントがあります。それは、宿泊型施設の“日常”を調査したという点なんです。
 我々は24時間の共同生活をしてます。それが日常なんです。イベント的なものや派手な話題は、TVに取り上げられるなどしてとかく話題になります。でも、そういったものは誇張されることが多いんです。そして、親御さんはそういった“派手”な援助団体に飛びついてしまう。でも、本当は、日常生活の方が主。だって、育つ場は日常なんですから。
 今回、調査員は日常を見てきてくれました。本当に役立つ情報を得ようとするなら、非日常を見に行ったって何の意味もない。逆に、「日常を見られるのはちょっとイヤだな」と考える団体もあったと思う。「調査員を迎える」ということは大きいからね。
工藤・・・そうですよ。1泊して1日24時間という一つのクールを第三者にすべて見られるというのは、調査される団体にとって非常に大きいことですよ。日常の生活はごまかそうと思ってもごまかせない部分が出てきてしまうからね。「ある時間帯ならOKだけど」と考えた団体もあったかもしれないと思う。
小川・・・「日常をどうぞ見てください」と施設側が言ってくれたこと自体、それができるだけの何かがある施設だと思うんです。「すべてを見せよう」としてくれた団体だったからなのか、僕が行ったところは取り繕いがないように感じましたね。代表と子どもたちの会話、スタッフと子どもたちの会話、子ども同士の会話を長時間聞いていれば、「これは演じてるな」とわかりますからね。
山田・・・そうですね。それは私も感じました。
工藤・・・じゃあ、我々の調査を受け入れてくれた、これらの施設はある段階をクリアしていると言ってもいいんでしょうか?
小川・・・ただ、調査に行ったときに在籍生がいない施設もあったんです。そういった施設はちょっと判断できないですね。
工藤・・・そうはいっても、「公開してもいい」という開かれた意識構造はあるわけだよね。この点はすごく重要だと思うの。少なくとも情報公開という点ではクリアだよね。
 そうすると、どうして他の団体は調査させてくれなかったのかという疑問が残る。
工藤啓・・・その施設なりの理由があったところもありますよ。例えば「心身症中心の施設のため、外部の人が来ると塾生が動揺するので困る」「来られると本人たちがパニックになっちゃうので困る」というところが5、6件ありましたね。
工藤・・・つまり調査を断った団体の内訳は、事情があって調査を断った団体、たぶんYSCをはじめ協力した4団体が嫌いだから協力したくないという団体(笑)、「見られちゃヤバイ」という団体。この3パターンぐらいなんだな。
和田・・・「嫌いだから協力したくない」という点に関して言うと、例えば「はじめ塾は嫌いだけど、川又さん(P174=北陸青少年自立支援センター代表)のところが入っているからしょうがない。協力しよう」というところもあったんじゃない?協力した4団体は、それぞれ個性がまったく違う団体だったから、「あそこは嫌いだけど、こことはおつきあいがあるから調査を受け入れるか」といったケースもあったと思うよ。それは4団体が集まってよかったことの一つだね。
工藤・・・いやいや、15年以上やっている老舗の4団体だからこそ、「目障りでイヤだ」ということもあったかもしれないよ。老舗VSベンチャー企業みたいな感じで、さ。
和田・・・こういう施設は、代表者が“お山の大将”気分でやっていますから、組織化しようとしてもなかなかできないという面がありますよね。今まで、いろいろな人が組織を作ろうとチャレンジしてきたけれど、一つとして継続した例がないですから。
 まあ、いずれにしても、こういう事業に与することはできないという人たちもいたと思いますよ。
小川・・・「調査を受け人れてくれた」という部分は評価しようというお話の続きで、“日常”の話に戻りますが・・・。
 宿泊型施設というのは、自然体でしかあり得ないと思うんです。「よい」なら「よい」なりに、「悪い」なら「悪い」なりに、自然体でやっているところは、ちゃんと運営できているんだなと感じました。だから、それを代表者が悟っているところは、調査を受け入れてくれたんだと思うんです。
 僕が調査に行ったところで、在籍生たちが、自分たちのいる施設のことをめちゃくちゃに文句言うところがあったんです。僕は、それを正直にそのまま報告書にまとめて施設側のチェックを受けましたけれど、そこの人たちは気にしないんです。これは懐が大きいというよりも、こういった仕事の本質が何であるのかをわかっているから、施設側は手を入れなかったんだと思うんですよ。
 だから、ぜひ、ここで伝えなておかなきゃならないと思うのは、在籍生に対するインタビュー部分の読み方です。たいていのところではインタビューを受けてくれた子は模範生なのかもしれない。しかし、たとえ在籍生がひどいことを言っていたとしても、イコール「この施設はダメだ」というわけじゃないということです。
 
工藤啓さん
 
工藤啓・・・子どもへのインタビューに関して言うと、施設側から修正されたところは数カ所あります。でも、ほとんどのところは修正なしです。つまり、調査員が聞いたまま、掲載されていると考えていただいていいと思います。
工藤・・・在籍生がやばいことを言っているのに、修正することなく「そのままでOKですよ」と言ってくれた施設には、信頼感を持っていいのかな?
工藤啓・・・在籍生へのインタビュー部分は、非常に重要だと思っています。
 もちろん、その施設に入って1O日とか2週間ぐらいの在籍生のコメントには「この子たちは施設のことをしっかりわかって言っているのかな」という疑問を持ちますが。
山田・・・私は、在籍生たちは自分がいる施設のことを悪くは言わないという印象を受けましたね。私の場合は、代表者の方に「在籍生にインタビューさせてください」とお願いして、代表の方が選んだ子どもなんです。そういう理由もあったのかもしれませんが、私がインタビューした在籍生たちは、悪口を言わないタイプの子が多かったように思います。
小川・・・僕の場合は2パターンありましたね。在籍生たちに直接頼む場合と、代表者の方にお願いする場合と。インタビューの中で、その施設のことをひどく悪く言う子ってそんなにいないんです。たいてい常識的なコメントを言いますから。
 この在籍生たちへのインタビューというコーナーに関して言えば、施設の特徴を理解するというよりも、不登校・ひきこもりの具体例として読んだ方がいいのかな、と思います。不登校・ひきこもりの子どもはどんな子どもたちなのか、自分が施設に入ったことをどう受け止めているのかを知りたかったら、この欄だけでもざっと読んでみるといいと思いますね。やはり、施設に入って2週間の子どもと2年の子どもでは、その施設に対する印象が変わってくるんじゃないでしょうか。ですから、あのコメントだけで施設の評価を下すことはできないと思います。それに、2年も在籍している子はそこがよくて2年もいるわけですから、いいコメントを出して当たり前だという気もします。
和田・・・そうだよね。実際にはその子どもがその施設を選んで、入ってきているわけですよ。強制的に入れたわけじゃなく、子ども側の選択で入っている。それは大前提じゃないですか。僕らのところには「体験」というシステムがあるし、タメ塾には「訪問」という手段があって、ある程度人間関係ができて納得して入塾している。
工藤・・・そうだなぁ。インタビューに答えてくれた在籍生の在籍期間という点に関しても、最初は「イヤだ」と思った子もいれば、最初から「ここはいい」と思った子もいるだろうし。在籍期間というよりも、そいつの過程でまた違ったりもする。
和田・・・うん、そうなんだよね。うちなんか、朝は「ずっとここにいたい」って言ってた子どもが、夜になるとなぜか「もうこんなところにはいたくない」と言い出すケースなんかしょっちゅうありますよ(笑)。
 それに、代表者が選んだ子どもがしゃべっているのか、調査員が選んで在籍生本人に直接お願いしてしゃべってもらったのかという違いもあるだろうしね。
工藤・・・話を元へ戻すと、在籍生がその施設に対してあまりいいことを言っていない、どちらというと悪口を言っている、それでもそれをオープンにするという施設側の姿勢は、評価できるんじゃないの?
山田・・・それは工藤さんのおっしゃる通りだと思います。
 ただ、私は「田舎すぎて何もない」とか「スタッフがえこひいきする」といった程度のことしか、在籍生たちから聞いてないんです。むしろ、自分のいる施設のいいところを見つけて、そこでがんばっていこうという姿勢の子が多いように思いました。
和田・・・そうかもしれない。うちの場合、第三者が取材に来たときには、子どもたちが率先してはじめ塾の宣伝活動をしますね。これは、きっとタメ塾とは違うんだろうね。理由はたぶん年齢差だと思います。うちは年齢が低いでしょ?だから、「ここが最高だ!」と思って入ってきますからね。子どもたちはうちに来ることを誇りに思っていますから。「はじめ塾に在籍したことが人生の誇りだ」って思ってる。これは、そういう方針で塾を運営してるからなんですよ。
小川・・・「自分からその施設を選んで入っている」という点は重要だと思います。自分でその施設を選択した人間が、本当にそこにいて、そこで生活しているという点に、「在籍生インタビュー」の最大の意味があるんじゃないでしょうか。







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