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協力:日本財団
 
ホームヘルパー3級養成講座
報告集
 
主催
NPO文化学習協同ネットワーク
〒181−0013 東京都三鷹市下連雀1−14−3
TEL 0422−47−8706 FAX 0422−47−8709
e-mail center@npobunka.net
 
不登校・中退・引きこもり経験者、進路を模索するフリーターのための
「ホームヘルパー3級養成講座」
(全15回)について
 9月15日から始まった、NPO文化学習協同ネットワーク・日本労働者協同組合連合会センター事業団共催による不登校・中退・引きこもり経験者、進路を模索するフリーターのための「ホームヘルパー3級養成講座」が、1月12日の修了式をもって終了しました。
 この講座は、不登校や中途退学、引きこもり経験者や進路に悩むフリーターの青年などを対象として開催されたものです。一度学びや学校から遠ざかってしまった不登校や中途退学の経験者は、勉強に対する拒否感を持ち、再び学びに目を向けるのはなかなか困難な状況にあり、また学歴上のハンディキャップを抱え、将来に強く不安を抱き自己否定感に陥っていることが少なくありません。同様に、引きこもりやフリーターの青年からも、社会参加への足がかかりや自分の進路がなかなか見つけられず、将釆への展望がもてずに苦悶する様子が伺えます。
 このヘルパー養成講座は、資格の取得はもちろんですが、そうした彼らが新たな学びのきっかけをつかみ、学ぶ感覚を取り戻すことを目標に始まりました。心と体を使った学びの楽しさを発見する中で、新たな自己を見つめ自己肯定感を感じるような体験をすること、また学ぶ機会は学校以外にもあることや学歴に囚われない働き方や生き方があることを発見し、いろいろな現場で働く人と出合うことで、人と人とのつながり方を感じることなどが目標でした。福祉の分野に対する興味を感じ、働くことに対する視野が広がることも大きな目標のひとつでした。
 講師には、三鷹近隣地域で活躍しているヘルパーさんや、保健婦さん、作業療法士、医師の方などをお迎えしました。
 講座の内容は以下のとおりです。この講座は日本財団の助成金を受けて行われました。
 
第1回(9月15日)「レクレーションの視点と実際」 講師 堀川進(作業療法士)
第2回(9月15日)「介護概論」 講師 檜谷照子(保健婦)
第3回(9月22日)「高齢者福祉の制度とサービス」 講師 小関潤一(三鷹市役所職員)
福祉機器展示場見学
第4回(10月6日)「障害者(児)福祉の制度とサービス」 講師 萩原勤也(三鷹市役所職員)
第5回(10月20日)「ホームヘルプサービス概論」 講師 鴨下富美子(サービス提供責任者)
第6回(10月27日)「医学の基礎知識」 講師 伊藤浩一(医師)
普通救急救命法講習会 三鷹市消防署
第7回(11月10日)「サービス利用者の理解」 講師 橋本みさお
第8回(11月10日)「サービス提供の基本視点」 講師 露木悦子(高齢者施設所長)
第9回(11月17日)「家事援助の方法」 講師 河島かず(ケアマネージャー)
第10回(12月1日)「ホームヘルプサービスの共通理解」 講師 三田久子(介護福祉士)
第11回(12月15日)「介護技術入門」 講師 三田久子(介護福祉士)
第12回(12月16日)「介護技術入門」 講師 三田久子(介護福祉士)
第13回(12月22日)「共感的理解と基本的態度の育成」 講師 露木悦子(高齢者施設所長)
第14回(12月25、26日)「デイホーム池尻見学」
第15回(1月12日)「修了式」
※福祉機器展示場見学と普通救急救命法講習会は資格の取得に関係なく取り組んだものです。
 
レクリエーションの視点と実際
●2001年9月15日(土)前半
●講師 堀川 進さん(杉並区役所保健福祉部 高齢者在宅サービス課 在宅支援係 作業療法士)
● 全休の流れ
・ 作業療法士の仕事の紹介
・ 堀川さん自身が福祉に携わったきっかけ、動機について
・ 咋日の自身の仕事について
・ 実際のアクティビティー体験(一億円ゲーム、リハビリ体操、フーセンバレー)
 
<講義の内容>
1. 作業療法士の仕事について、またそこに至った動機
 堀川さんは杉並区の保健福祉部で作業療法士の仕事に携わっている。ホームヘルパーを含めた福祉の仕事の中にはいろいろな役割、仕事がある。その中で、作業療法士という仕事は、O.Tと呼ばれていて、似た仕事として理学療法士(P.T)がある。共に障害を持った方や高齢者の方々のリハビリをするのだが、O.TとP.Tのちがいは、P.Tがいわゆるトレーニング、訓練のような形でリハビリを進めていくのに対して、O.Tは革細工、陶芸、農作業、パッチワークなどの様々な作業を通じて、リハビリを進めていく。例えば、肩が動かない人がいたとすると、P.Tは、「イチッ、ニッ」という感じのトレーニングで、O.Tはカンナがけなどの作業を介して肩のリハビリをするという感じ。
 O.Tの作業は専門の学校に行って勉強したのだが、P.TもO.Tも、同じ学校でも学科が違う。そのなかでもどうしてO.Tを選んだのかというと、なんだかこれという、やることが決められていない、もやもやした感じがおもしろそうだと思ったから。それまでは大学の薬学部で研究をしていた。抗生物質なんかをしていたのだが、深海の土から菌を培養して新しい抗生物質を探すなどの仕事だった。でも当時、研究は競争だった。世界中に競争相手がいるという感じで、研究成果を競い合っていた。数日遅れで、他の人に自分の研究したのと同じ抗生物質を発表されたこともあった。そういう競争的な研究室だった。でも、まわりまわって人のためになるような仕事の方が自分にとっては良かったので、途中で止めてしまった。そのとき、父親がパーキンソン病でその介護をしていて、そんな介護の仕事もいいかなと思った。
 そこで、27歳で学校に行きなおし、リハビリの病院で2年間働き、現在の杉並区での高齢者のリハビリに至っている。今ではこの仕事は天職だと思っている。とても楽しく、自由にやっている。でも、介護保険制度の導入以降、制度自体がややこしく、大変な時代になっていると感じている。
 
2. 堀川さんの一日の流れ(咋日のこと)
 8時45分に出勤。P.T2人とO.T(自分)の3人だけだった。9時15分には訓練室で掃除の仕事をしている女性のお父さんのおむつの相談を受けた。リハビリに参加するお年寄りは車で迎えに行くのだが、昨日は10時には到着した。午前中は革細工や陶芸の作業をした。この作業は手の訓練になる。半身麻痺の人だと、利き手が麻痺してしまった場合、利き手の交換をする必要がある。その際にもこのような作業を使用する。それから、車椅子の人のトイレ介護をした。痴呆の人の車椅子は大変。例えば、車椅子に乗ってもらおうと思っても、車椅子のブレーキがかかっていない。だから、「左のブレーキがかかってませんよ。右もです。」「ステップがしまってませんよ」とか準備だけでも大変なことになる。手伝ってしまえば早いんだけれど、どこまでその人が作業を出来るのか見極めて、リハビリのポイントを絞って対応していかないと、その人の可能性、能力を奪ってしまうことにもなる。
 例えば、Kさんというおじいさんは、デイホームなどで「〜してもらう」ことに慣れすぎている。だから、何も自分で決めることが出来ない。たとえば、「どの色がいい?」と聞くような場合でも、「この色のほうがにあいますよ」などといわれて、自分で選んでいるように見えても、結局は人に決めてもらっていることが多い。自分で食事も出来るのに食べなかったりする。
 それから、リハビリの体操をした。筋トレというと、お年寄りには関係のないもののように感じるが、お年寄りでも、3ヶ月ぐらいで筋肉がついてくる。そうすると体のバランスも良くなって外に出る自信もついてくる。
 3時に終わってから、自宅に送り返しても、それで仕事は終わりではない。それからお年寄りの家に訪問調査に出かけた。訪問は、お年寄り本人の体の機能をよく見て、「ここに手すりをつけた方がいいですよ、トイレはこういう風にした方がいいですよ」とアドバイスする仕事。その人が快適に生活するために何が出来るのかを判断することはとても大切なこと。昨日はあるお年寄りのうちに手すりをつけるようにアドバイスしたのだけれど、その人の旦那さんが「玄関に手すりなんてかっこ悪い」なんて言われて納得してもらえなかった。でも、ここからが勝負で、何とか理解してもらえるように努力する。わかりにくいが、このような仕事をしている。
 
3. アクティビティー
「一億円ゲーム」(自己紹介ゲーム)
 単に言葉だけの自己紹介だと物理的な距離が縮まらない。物理的な距離を縮めていくことがポイント。ルールは、準備してきた1億円札を1人に五億円分ずつ配る。参加メンバーたちは、1億円を賭けてじゃんけんしていく。その際自己紹介と握手をする。その時、物理的な距離がゼロになる。ゲーム時間を何分か決めて、終了後、いくら持っているかを発表する。「ゼロ枚や一枚の人は第二回目のゲームの時に狙い目、たくさん持っている人はつぎは避けた方がいいですね」などと声を掛けて、いろんなひととであわせると同時に、「じゃんけんの強い〜さん」というふうに、特徴づけることによって名前を覚えやすくする。
・ 参加者の様子
 最初はとまどいながらだったが、ゲームが進むにつれて、「また負けたよ」などと声が出てくるようになる。握手することへの抵抗感も薄れていき、心と体の両方がほぐれていくのが見て取れた。
 
リハビリ体操(筋力トレーニング)
 おもりをつけて腹筋をしたり、足を上げたり、バランスをとったりと、お年寄りの身体に無理な負荷がかかりすぎないように工夫されたトレーニングメニューを参加者全員で行う。高齢になるにつれて、衰えてくる部位を考慮しつつもしんどすぎないものになっている。
 1人でこのようなトレーニングをしたら、しんどくて続かない。みんなでやるから楽しくやれる。みんなでやっているから自分だけバランスがうまくとれないと悔しくて、家で練習してきたお年寄りもいた。そういう、いい意味での競争心は必要な気がする。筋力が付いてくると自信になるし、外に出ようという気にもなってくる。つまり、身体だけでなく、精神的にも解放されていくことになる。
 
 
・参加者の様子
 お年寄り向けのトレーニングだったため、比較的楽にこなすことが出来るのかと思ったが、結構苦労している参加者が多かった。「確かに1人じゃ続かないよね、こんな苦しいこと」と、堀川さんの話の内容を自分のからだを通じて理解していくことが出来ていた。また、みんなでやることによって、独居の人たちもその孤独感や不安感が楽になるのだろうと思うと話す参加者もいた。
 
風船バレー
 ルールは、6人のチームを作り、両チームがネットを挟んで椅子に座る。二つの風船を打ち合う。床に風船が着いてしまったり、椅子から腰が上がってしまったら負け。今回は3チーム総当たりで試合をする。お年寄りにとっては、これでも十分にハードな運動となる。どこのお年寄りでも対抗戦が出来るように、ネットの高さも120cmと決まっている。やってみるとわかるが、体操よりも複合的な筋肉を使う。
 
 
・ 参加者の様子
 アクティビティー自体が、とても楽しいもので、試合も白熱したものとなった。その中で、いろいろな場所の筋肉や、バランス感覚がやしなわれることだけでなく、参加者のチームワークが必要であることも実感できた。このアクティビティーに身体的なリハビリだけではなく、お年寄り同士の人間関係づくりがねらいにあることも感じ取ることが出来た。
 
<全体を通して・受講生の様子>
 講義よりも、アクティビティーが中心だったこともあり、参加者たちの集中力や興味、関心もとぎれることがなかった。なによりも、参加者からも、「自分の仕事を楽しそうに話すことが出来るのはいいなと思った」と感想が出たように、講師自身が自分の仕事を生き生きと話していたことが講座を活性化させていた。
 一見、楽しんでいるだけに見える作業にも必ずしっかりとリハビリ的な意図が隠されていること、また、お年寄りの生活の中に、人間同士のふれあいをつくっていこうとしている講師の姿勢が参加者たちにも伝わっていたように思う。







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