二、蝋搾り
漆木は、ウルシ科ウルシ属の喬木、雌雄異株の木で、実は「木の実」と呼ばれ、女木から秋に収穫される。実から蝋をとる工程−蝋搾りを、以前、その作業に従事した経験者の話と作業の再現(昭和四四年)によって、以下概略を紹介する。農作業が一段落し、樹々の葉が落ちてしまう晩秋に、木の実を採取する。ツバクロガマと呼ばれている燕の尾に似ている三日月形の鎌を、長い竿の先につけて房状についている実を、房ごと採取する。実は直径七〜八ミリ位の小粒で茶褐色を呈している。これを屋根裏にむしろの上に広げて陰干しにして保存する。
蝋搾りの作業は、厳寒の頃、農閑期を利用して行われる。
房についている実は、樫や欅の棒で叩いて粒状にする。棒はベイと呼ぶ。長さ一メートル位の湾曲した手頃の枝をけずって形をととのえる。刀のように平らにけずったものなどもある。稲の脱穀のときの籾打ちに似た作業で、一日、十七、八貫位をたたき、落ちた実は、これを荒目のトオシにかけて、小枝や塵などを丹念にとりのぞく。
この実を臼に入れて搗いて粉砕する。これを目の細かいトオシにかけ、白い果肉部分の粉をとり出し、堅い種子を除去する。この種は、馬の飼料に混ぜ喰わせるという。製粉するのに、円筒形の堅木の木摺臼を用いたところもある。米の籾摺り臼と同じように磨り面に放射状の目を立ててある。
篩にかけて実粒と小枝をはなす
実を臼で搗いて粉にする
セイロで蒸す
粉を麻袋に入れる
搾り台でヤを打ちこんで搾る
台を横にして蝋鍋を取り出す
蝋搾りに使われた道具
粉にしたものは、セイロに入れて蒸し、これを麻の袋に入れる。藁製のジョウゴを袋の口に当て、柄杓とへらを使いながら一斗位の量をつめ込む。袋の口は二本の棒を使って堅く締める。
搾り台は、欅材で作った長さ二メートル位、縦横四〇センチ位の大型の角材で、ドウとよばれている。中央部には四〇センチと二五センチ位の四角い穴があけてある。この穴に、粉の入った麻袋を入れて両側からコマ(締め板)ではさみ、外側にヤ(クサビ)を打ち込んで締めてゆく。重い横杵(カケヤ)で二人が交互にヤを打って圧縮すると液状の蝋が搾り出てくる。ドウを据える作業小屋の土間には、石で組んだ四角い穴が設けられ、この中に鉄製の鍋を置いて、搾り出される蝋を受ける仕組みである。完全に搾り上げると、ドウを横に倒し鍋を取り出す。蝋はすぐに固まるので、火にかけて温め、溶かしたものを四角い蝋マスに流し込む。こうして漆の木蝋ができあがるわけである。
木の実を粉にし釜で蒸してしぼり、蝋汁を採取する方法は、江戸時代には各地で行われていたもので、農書などにも紹介されている。
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