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◎五、民俗に残るさまざまな古式技法◎
 紙数の関係で詳しく述べることはできないが、実は縄文時代から近現代まで伝承されてきたと考えられる民族的古式技法にはさまざまなものがある。例えば堅果類の利用方法に関することだが、縄文時代の諸遺跡からは「あく抜き」しなければ食べられないものを含めて堅果類が検出される例が多い。一方民俗例にもミズナラ、コナラやトチの実など「あく抜き」を要するものを含めて堅果類を食べる(あるいは食べた)例は多い。民俗例にみられる、これらを食べる(あるいは食べた)文化は縄文時代から受け継がれてきたものであった。特にクリを乾燥させ、それを搗いて果皮を除く搗栗を作る技術は、縄文時代早期以前から現代民俗例まで一万年以上も長い間受け継がれてきている写真(88)縄文時代の遺跡から発見されるクルミの殻の多くが縫合線からきれいに割れており、しかも尖端部が破損している場合が多い。民俗例では先端を上にして、あるいは下にして反対側から叩くが、そのように割ったクルミの殻の様子は発掘された殻と近似したものとなる。民俗例のこの割り方も縄文時代から続いてきたものだった。写真(89)
 一方植物性素材の各種組織方法も縄文時代から伝承されてきたものが多い。例えば現代竹工芸などに見られる籠の底を作る網代底、菊底、縄目編み底などの技法は縄文時代例とよく共通する。器体部を形成する、四つ目組み、石畳組み、ござ目(ざる目)組み、飛びござ目組み写真(33)(90)、木目ござ目組み、六つ目組み、網代組み、縄目編写真(25)(91)み、ねこ編みなどの素材組織方法も同様に共通している。このような技法で製作した籠類の口縁部を始末する、縄目返し縁、巻き縁、返し巻き縁も同様である。籠類を製作する領域に認められるこれほどまでの濃密な共通性は、縄文時代の技法が幾百世代にもわたって受け継がれてきている現れのひとつなのである。
 このようなかたちで縄文時代と近現代民俗例との関連性を追求する分野は未開拓の領域であり、今後さまざまな例について検討が行われるはずである。樹皮素材の利用もその一例であり、他の多くの要素とともに関連性が追究され、近現代民俗例の各種の文化が縄文時代から受け継がれてきたものであることが明らかになっていくであろう。
 なお、ここに紹介した縄文時代の樹皮製遺物の写真、図はそれぞれの発掘報告書等から引用させていただいたものである。
・・・〈物質文化研究所一芦舎〉
 
写真(88)
 
写真(89)
 
写真(90)
 
写真(91)
 
(88)縄文時代中期の搗栗(岩手県森ノ越遺跡出土)
(89)縄文時代後期のクルミの殻(北海道忍路上場遺跡出土)
(90)縄文時代前期の網代組み(青森県三内丸山遺跡出土)
(91)縄文時代中期の縄目編み(富山県桜町遺跡出土)







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