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【抜き取り法】
 
 片手で握ることができるぐらいの太さの幹や枝から樹皮を「輪」の状態で取り出す方法である。まず輪として取り出すことに決めた樹皮の端の部分から枝や幹を切断する。もう一方の端は作業がし易いようにやや長く切断する。取り出そうとする部分を区画するように樹皮を切り回してから、その区画内を木槌のようなもので外皮に傷をつけないように力を加減しながらまんべんなく叩く。叩いたらタオルを搾る時と同じように握って力を入れて搾る。初回で取れなくても叩いては搾ることを二回、三回と繰り返しているうちについには目的の部分が抜けて樹皮の輪を得ることができる写真(71)−(1)、(2)。そうして得た輪は次のように対象物にはめられた。
 
写真(71)-(1)
 
写真(71)-(2)
 
写真(72)
 
写真(73)
 
写真(74)
 
(71)抜き取り法と樹皮の輪、筒(水無辰巳氏 ヤマザクラ)
(72)切り刃の鞘(やすらぎの家資料館蔵 ヤマザクラ)
(73)やすり入れ筒(岩手県立博物館蔵 ヤマザクラ)
(74)鋤の柄にはめられた樹皮(軽米町歴史民俗資料館蔵 ヤマザクラ)
 
 例えば牛方が腰に着けた[切り刃]の鞘は木を合わせて作られたが、その鞘にはめられたヤマザクラの樹皮の輪は合わせた鞘を強固に締めている写真(72)。写真(73)はそんな輪を竹筒にはめて補強した例だが、これは山で鋸を使う人々が[やすり]を入れて持ち運んだ筒である。写真(74)は踏み鋤の柄に生じたひびがそれ以上広がるのを防ぐためにはめられたもの。これら、はめられたヤマザクラの樹皮の輪はいずれも時間の経過につれて徐々に乾燥し対象物を堅く締めると同時に、磨けば光沢が出るところから装飾も兼ねたのであった。それだけに樹皮の輪の大きさは対象物の寸法と完壁に合致しなければならないわけだが、それはどんな方法で探し出されたのであろうか。
 実はその方法は案外簡単だった。まず樹皮の輪をはめようとする対象物の部分に糸を一巻きして必要な樹皮の輪の円周を知る。その糸を持ったまま目星を付けたヤマザクラの枝に廻してみることを繰り返して、過不足のない最適の太さの部分を見つけ出すのである。見つかったら抜き取り法の手法で木質部から抜くだけだった。







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