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【縦剥ぎ型剥離法】
 
 樹木や蔓からこの方法で得られた細長い素材を利用する技術はきわめて多様だった。巻く、折り畳んで綴る、束ねる、「三つ編み」にする、縄に綯う、編む、縄で編む、組む、織る、などの加工技術が単独であるいは組み合わされてさまざまな器物が製作された。それらの中で目にする機会が多いのは背負い籠、腰籠、縄などの類である。
 
[1]背負い籠類
 
 山仕事用の諸道具を入れて背負う籠類にはヤマブドウの蔓皮、シナノキの樹皮製が多い。写真(57)の[ねこがき]は間隔を空けながら編んだ平面を繋ぎ合わせて底を綴じたものである。写真(58)の[背中当て]は表面に「ハ」の字が見えるような平面的な編み物を作り、それを二つ折りにして端どうしを連結させてから底を入れたものである。写真(59)の[ねこ]は組んだヤマブドウの蔓皮が斜めに走る珍しい例である。写真(60)の物入れはシナノキの外皮を付けたままの厚い樹皮を切り揃え、底部から体部へと組み上げた入れ物である。全体的にきわめて頑丈であり、瓦礫を入れて背負ったとしても背中は痛くないのではないかと思わせるほどである。写真(61)はヒバの内皮を組んで作ったかばん型の大型の入れ物で、山仕事の諸道具を入れ縄を掛けて背負った。
 
写真(62)
 
写真(63)
 
写真(64)
 
写真(65)
 
写真(66)
 
写真(67)
 
(62)こだし(長内三蔵氏蔵 ヤマブドウ)
(63)縄こだし(岩手県立博物館蔵 ヤマブドウ内皮)
(64)腰籠(照井定子氏蔵)
(65)小物入れ(長内三蔵氏蔵 シナノキ)
(66)縄打ち具[てちょろ](九戸村公民館蔵 シナノキ内皮)
(67)峡谷に架けた綱(致道博物館蔵 ヤマブドウ蔓皮)
 
[2]腰籠類
 
 写真(62)はヤマブドウの蔓皮を編んだ普通の製作だが、写真(63)の[縄こだし]の場合は相当手が込んでいる。ヤマブドウの蔓皮を灰水で煮て柔らかくしたものをよく揉んで繊維状にし、それで細い撚り縄をなう。その縄を材料として籠に編んだ入れ物である。これに対して写真(64)は樹皮を用いてかなりおおざっぱに組んだものである。なお腰籠の中には何かの実を樹上に登って採ることを想定して、紐を肩にも掛けられるように作ったものもある。
 
[3]小物入れ
 
 写真(65)は炭俵に炭を詰める際に使う木の針を入れて室内に掛けていたもので、シナノキの樹皮縄を材料として作られている。
 
[4]縄類
 
 樹皮製の撚り紐、縄類の素材はすべて縦剥ぎ型剥離法で得たものだった。これまで挙げた用例には[むしろ]の経糸、荷縄、釣瓶縄、[はるび]や[はなぎ]、[くちご]、[つけ縄]や手綱、[縄こだし]の材料などがあった。このほかには漁網の材料にしたり水汲みに使う[担ぎ棒]に付けたり、大量に煮た大根を揚げる[たも]の網を編んだりした。増水時に折角架けた土橋が流されても基礎となる二本の丸太だけは失うまいと傍らの立木などに繋ぎ留めておく綱も樹皮を利用して作った。人々はそんなさまざまな用途に対応するため太さを違えた素材を準備しておいた写真(66)。[火縄]は銃ばかりではなく、マッチが容易に入手できるようになるまでは煙草の火種としても使ったらしい。
 なお、たぶん日本一太い樹皮縄は鶴岡市にある致道博物館に展示されている太さが一一センチもある綱である。ヤマブドウの蔓皮で作られており、峡谷に架け渡して橋の代わりにしたものという写真(67)







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