[2]樹皮を広げて製作する類
ヒエを乾燥させる際に使った浅い入れ物である[かばとうか]は横剥ぎに取った樹皮の木口側の縁に一つかみのムギやヒエの稈を束ねたものを固定して作る。この時、別の二縁には丸まろうとする力が働いてある程度起き上がるから、結果的には四方に縁のある皿形容器として機能した写真(51)。写真(52)の[かすり]も丸まろうとする樹皮の性質をうまく活用した例である。
[3]箱形容器の製作
円筒形あるいは円形の樹皮製品に比べると樹皮製の箱は著しく少なく今では用途も判らなくなっている。写真(53)、(54)はいずれもヤマザクラの幹から横剥ぎに厚く剥いだ幅広い樹皮で作られている。樹皮の木口側の縁から二筋の切り込みを入れて折り曲げ、立てて箱形に成形したもので、折り立てたことによって重複する樹皮を綴り合わせる紐は撚りを掛けないシナノキの内皮やクズ蔓かフジの材を割いたものなどである。中には蓋を伴うやや丁寧に作られた例もある写真(55)。
以上のような作り方をする箱形容器の場合は底と側壁とが同時にでき上がる。このことは底板を別に支度しなければならない円筒形容器とは大きく異なる特徴である。樹皮の一枚皮で手軽に製作できる箱形容器は古くから多用されたのではないだろうか。
写真(51)
写真(52)
写真(53)
写真(54)
写真(55)
写真(56)
写真(57)
写真(58)
写真(59)
写真(60)
写真(61)
(51)かばとうか(岩手県立博物館蔵 ケヤキか)
(52)かすり(上村四郎氏蔵 ケヤキ)
(53)樹皮製箱(長内三蔵氏蔵 ヤマザクラ)
(54)樹皮製箱(長内三蔵氏蔵 ヤマザクラ)
(55)蓋付き樹皮製箱(油谷満夫氏蔵)
(56)樹皮製穂摘み具[がんぎ]伊藤常次郎氏蔵 ケヤキ)
(57)ねこがき(長内三蔵氏蔵 ヤマブドウ)
(58)背中当て(やすらぎの家資料館蔵 シナノキ内皮)
(59)ねこ(やすらぎの家資料館蔵 ヤマブドウ)
(60)物入れ(岩手県立博物館蔵 シナノキ)
(61)やじがれ(むつ市教育委員会蔵 ヒバ内皮)
[4]箕
脱穀した穀物を選別するために用いられた樹皮製の[かば箕]写真(3)は幅広く内皮まで厚く横剥ぎにしたケヤキ、クルミ、ヤマザクラの樹皮で製作された。樹皮で箕の形に作った製品は東日本から九州まで広く分布している。
[5]樹皮製穂摘み具[がんぎ]
むかし北陸地方の焼畑で耕作したヒエやアワを収穫する際に、鎌のように使って穂の下部を引き切った穂摘み具である写真(56)。ケヤキの分厚い樹皮が取れた時にでも切れ端で作っておいたのであろうか。現品は刃部がかなり中に入り込んでいるが最初は真横からほぼ直角に切り込んで製作したらしい。使っているうちに摩耗すると新たに刃を削り出すということを繰り返しているうちにこのように後退したのである。金属器が普及する以前の穂摘み具の一種を推測するうえで貴重である。
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