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【横剥ぎ型剥離法】
 
[1]円筒形容器の製作
 
 幹からこの採取法で剥いだ樹皮は自然に丸まろうとするから、人々はしばしばその性質をそのまま利用した。写真(46)は切り開いた部分を突き合わせて綴じ、底板を入れた樹皮製筒形容器で穀物の貯蔵にでも用いたかと思われる。穀物をすくい取る写真(6)の[かすり]も同じようにして得た樹皮の性質を生かした作りだった。写真(47)は取っ手が付いたケヤキの樹皮製容器で、やはり丸まろうとする性質を生かした製作である。同様の製品は四国にも分布している。写真(48)は鋸や鉞を初めとする山仕事に使う諸道具を入れて運んだというヤマザクラの樹皮製容器だが、横剥ぎに剥いだ縦長の樹皮を二つ折りにして器体側面で綴り合わせている。これも樹皮の丸まろうとする性質を生かした製作といえる。
 ところで、先に挙げた円筒形容器の諸例のように剥いだ樹皮の丸まろうとする性質をそのまま利用して製作するかぎり、樹皮が幹に付いていた時よりも大きな口径の器を製作することは物理的に不可能である。では大口径の容器が必要な場合にはどうしたか。例えば写真(49)の[粟干し籠]の口径は約八〇センチ前後、深さが約四一センチだが、この樹皮は口径に等しい大木から剥がれたものではなかった。実は一升瓶より一回り太いだけの樹木から横剥ぎに剥いだ縦長の樹皮を横に倒して使っているのである。同様の例は幾つもあって、写真(50)の入れ物も写真(9)の[だんのう]もそうして製作されたものである。
 
写真(46)
 
写真(47)
 
写真(48)
 
写真(49)
 
写真(50)
 
(46)樹皮製筒形容器(上村四郎氏蔵 ケヤキ)
(47)樹皮製取っ手付き容器(上村四郎氏蔵 ケヤキ)
(48)樹皮製容器(上村四郎氏蔵 ヤマザクラ)
(49)粟干し(大迫町教育委員会蔵 サワグルミか)
(50)筒形容器(長内三蔵氏蔵 ウダイカンバか)







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