日本財団 図書館


◎二、樹皮の採取・加工方法◎
 樹皮を手に入れようとする人々が刃物を持って山に入るのは梅雨どきから夏の土用前までのことである。というのは樹木の動きが最も活発で水分の吸い上げが著しいその時期を逃がすと樹皮が木質部に密着して取れなくなるからである。樹皮を得る方法には大きく分けて二種類ある。一つは刃物で樹皮の表面に切り込みを入れ、そこを手掛かりとして樹皮を引き剥がす「剥離法」である。これに対し樹皮の外面を切り開かずに外から叩くことによって内皮と木質部を分離させ、樹皮を抜き取るのが「抜き取り法」である。
 
【三種類の剥離法】
 
 樹皮の剥離法は樹皮を引き剥がす際の方向の違いにより三種類に分けられる。第一は必要とする樹皮の上下を刃物で切り回し、さらに側面を縦方向に切り下げ、その切り口を手掛かりとして樹皮を横方向に剥ぐのが「横剥ぎ型剥離法」である写真(42)。幅広い樹皮を必要とする時にこの方法で剥いだ。第二は刃物で樹皮に横方向の切り込みを入れその切り口を手掛かりとしてその幅の樹皮を縦方向に引き剥がす「縦剥ぎ型剥離法」である写真(43)。細長い樹皮や蔓皮を必要とする時にこの方法で剥いだ。第三は樹幹または枝から螺旋剥ぎに取る方法で、樹皮に刃物で螺旋形に切り込みを入れそれを頼りに樹皮を剥ぐか、または切り込みを入れずに指先だけで外皮を剥ぐのが「螺旋剥ぎ型剥離法」である写真(44、45)。サクラのテープ状の表皮は後者の方法で取った。このように樹皮は採取方法の違いによって幅広く取ったり紐状やテープ状に取ったりすることができ、時にはそれをさらに加工して繊維のようにすることもできた。人々は使用目的によって樹種と樹皮の採取方法を決めたのである。
 
写真(42)
 
写真(43)
 
写真(44)
 
写真(45)
 
(42)横剥ぎ型剥離法(小川栄二氏 シナノキ)
(43)縦剥ぎ型剥離法(高屋喜多男氏 シナノキ)
(44)螺旋剥ぎ型剥離法(佐藤基三氏 オニグルミ)
(45)螺旋剥ぎ型剥離法(水無辰巳氏 ヤマザクラ)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION