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 九州では山仕事に携える水筒を太いタケで製作し、サクラの樹皮を巻いて補強した。刃物の鞘にはシナノキやサクラの樹皮、ヤマブドウの蔓皮で組んで作ったもの写真(33、34)のほか木で作った鞘にサクラの樹皮を巻いたものがある。後者は全国的に分布している。炭や薪を背負うのに用いる台にはヤマブドウの蔓皮を巻いたものがある写真(35)
 
[9]漆採取に用いる樹皮
 
 漆掻き職人が漆を掻き取る[漆かんな]の入れ物にはヤマブドウの蔓皮で組んで作ったもの写真(36)や編んで作ったもの写真(37)がある。また掻き採った漆を溜める容器の[たかっぽ]もホウノキの樹皮で作った写真(38)
 
[10]漁労用具
 
 海に潜ってウニやアワビなどを捕る人が腰に着ける網袋の[やずがり]はむかしはシナノキの樹皮で作った写真(39)。写真(40)の樹皮製箱にはイカ釣り用の骨製の仕掛けの類が入っていた。写真(41)は内陸部で使われたヤマブドウの蔓皮製の[びく]である。
 
写真(33)
 
写真(34)
 
写真(35)
 
写真(36)
 
写真(37)
 
写真(38)
 
写真(39)
 
写真(40)
 
写真(41)
 
(33)鉈の鞘(三戸市教育委員会蔵 シナノキ)
(34)山刀の鞘(浄法寺町教育委員会所蔵 ヤマブドウ)
(35)背負い台(照井定子氏蔵 ヤマブドウ)
(36)漆かんなの入れもの(安代町教育委員会蔵 ヤマブドウ)
(37)漆かんなの入れもの(雫石町教育委員会蔵 シナノキ)
(38)たかっぽ(浄法寺町教育委員会所蔵 ホウノキ)
(39)やずがり(田野畑村教育委員会蔵 シナノキ)
(40)樹皮製箱(田野畑村教育委員会蔵 ヤマザクラ)
(41)びく(田沢湖町教育委員会蔵 ヤマブドウ)
 
 これまで挙げた樹皮利用例はすべて有形の「もの」を製作した例だが、樹皮には成分や性質を利用する分野もあった。漆にかぶれた時の薬にはシナノキの樹皮を煮た汁、胃腸薬にはキハダの樹皮、内服薬や駆虫剤にはユズリハやセンダン、モクレン、ニガキの樹皮、洗眼薬にはメグスリノキの樹皮を煎じて使った。サンショウやクルミの樹皮は川漁に使った。オニグルミ、ハンノキ、ヤマモモ(褐色)、モッコク(茶褐色)、キハダ(黄色)などの樹皮は染料にした。モチノキの樹皮から取り出した[とりもち]で小鳥を捕ったり、蠅取りにしたりした。ガンピ、カジノキ、コウゾの樹皮は和紙の原料にした。アブラチャンの樹皮からは照明用の油を取った。







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