[4]住まいとその周辺で用いる樹皮
社寺建築の桧皮葺きは有名だが、一般でもむかしは外壁に杉皮を張った建物をしばしば見かけたものである。炭窯を覆う小屋や、物置の屋根を樹皮で葺くことも珍しくなかった写真(22)。釣瓶井戸に使う綱は水濡れに強いシナノキやヤマブドウの蔓の皮で作った。台所ではヤマブドウの蔓皮を束ねた[たわし]が使われたし、台所の水場で樋が必要になった時には、幅広く取った樹皮の丸まろうとする力を利用して縦に切って作った。桶や風呂桶などの漏水止めには樹皮繊維を搗きこなし柔らかくしたのを隙間に詰め込んだ。親が仕事のために幼児をみていられない時に入れておくものには藁製品や箱があるが、福井県、石川県、岐阜県などの山間部にはこれをケヤキの樹皮で作った例がある。
写真(22)
写真(23)
写真(24)
(22)シラカバの樹皮を葺いた屋根(岩手県山形村小国)
(23)松とうがいと焚き付け(照井定子氏蔵 カバ)
(24)松明(浄法寺町教育委員会所蔵 ヤマブドウ外皮)
[5]照明に使われた樹皮
電気が普及する以前、室内で蝋燭の代わりに松脂を燃やす家があったが、その焚き付けに利用されたのがダケカンバの樹皮である写真(23)。屋外での照明用具として用いられた[松明]はヤマブドウ、シナノキなどの樹皮で何かを作った時に出た不要な外皮をまとめたものだった写真(24)。ある人はむかしダケカンバの樹皮で作った松明の明かりを頼りに[やす]でイワナを突いた。
|