[2]畜産、牛馬に用いる樹皮
真夏の朝夕の畑の草取りや山で牛馬の飼料にする草を刈る時には身にまとわりつく蚊が煩わしい。そのため幅広く取ったアオタモやヤマザクラの樹皮で[だんのう]を作り、中にヒエの糠を入れてから、おき火を乗せ煙をくゆらせて蚊除けにした写真(9)。そうして刈って干した草を山野から家まで運ぶ[草しょい]や[背中当て]にはヤマブドウの蔓皮を巻いたりシナノキの内皮を編み込んだりした写真(10)。北部北上山地で牛を使って荷を運んだ牛方たちは、荷鞍を牛の背に固定させるためにひときわ強靱さが要求される[はるび]を作る際には必ずヤマブドウの蔓皮を使った写真(11)。またその牛を思うままに操るために鼻環として使う縄である[はなぎ]や、それに付ける手綱、荷鞍に荷物を結わえ付ける[つけ縄]などはシナノキの内皮で作った。荷を積んだ牛が道草を食ってばかりいては道中がはかどらないし好物に目が向いて不意に横道にそれても厄介である。そこで牛が初めからそんな気をおこさぬよう、荷を負わせる時には牛の口に必ず[くちご]写真(12)を被せたが、それもヤマブドウの蔓皮かシナノキの樹皮で縄をない、それを編んで作るものだった。そんな時アブやカ、ハエなどから牛の首を守るために掛けた[前打ち]は、表側をシナノキの樹皮で、牛の首に触れる面には藁を付けて編んだり、ヤマブドウの蔓皮を灰水で煮てから揉んで繊維状にしたものを編んで作ったりした写真(13)。牛方たちが持ち歩いた刃物である[切り刃]の鞘の合わせ目を堅く締めたのはヤマザクラの樹皮である写真((72)。
写真(11)
写真(12)
写真(13)
写真(14)
写真(15)
写真(16)
(11)はるび(やすらぎの家資科館蔵 ヤマブドウ内皮)
(12)くちご(やすらぎの家資料館蔵 シナノキ内皮)
(13)前うち(長内三蔵氏蔵 ヤマブドウ内皮 シナノキ内皮)
(14)みの(ウリハダカエデ内皮)
(15)前けら(やすらぎの家資料館蔵 シナノキ内皮)
(16)腰みの(盛岡市中央公民館蔵 シナノキ内皮)
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