窓の外に見える空と海が何回色を変えたでしょうか。ぼくは自分が少しずつ錆びてきていることに気がつきました。
ずっと前、はじめてリネットからメールをもらった朝に寝過ごしてから、調子が悪かったのですが、それは体の中から錆びてきていたからだったのです。
海の近くに住んでいると、気をつけていても金属は塩にやられてしまうのです。
(こまったなあ。リネットを待っているって言ったのに)
このままでは約束を守れなくなってしまうかもしれない。
ぼくは完全に動けなくなってしまう前に、リネットと、返事をくれたみんなにメールを書きました。
『今までありがとう。ぼくはもうすぐ壊れてしまうみたいです。みんなに会えて、おしゃべりができてとても楽しかったです。もし・・・いつか、ぼくの友達のリネットが目を覚ましたら、この島に来るように言ってください。ぼくからのプレゼントがあるからって。ごめんねリネット。待っていてあげられなくて』
そのメールをちゃんと出せたのか、ぼくはあんまり覚えていません。ただ次に気がついた時、ぼくの目の前には見知らぬ女の人が立っていました。
「ハロー」
その人はぼくの顔をのぞきこむと、そばかすだらけの顔でにっこりと笑いました。
「ハ・・・ロ・・・」
ぼくもあいさつをしようとしましたが、喉の奥がひっかかってうまくしゃべれません。
「オイルをさしたばっかりだから無理しないで。すっかり錆びてしまっているのよ」
(この人はだれだろう)
会ったこともない人なのに、その人はよく知っている所のように家の中を歩いています。
「―さっき地下の施設を見せてもらいました。あれだけたくさんの動物たちの遺伝子サンプルが残っているなんて驚いたわ」
「あ・・・れは・・・ハカセがいつ・・・か海の水が引いて、地球が元・・・にもどった時のために・・・って」
陸地は海に沈んでしまいましたが、今度はその海が空気を暖かくする原因の二酸化炭素を吸収してくれるはずだとハカセは言っていました。もちろんものすごく時間はかかるでしょうが、いつか地球は元にもどるのです。
ぼくの頭がゆっくりとまわりはじめました。
「今・・・はいつで・・・すか? 地球はどう・・・なってます・・・か?」
「あなたやわたしが眠る前よりは少しはよくなっていると思うわ」
(えっ)
錆びた体のずっと奥で、動力炉が一度に動き始めました。
「待っていてくれてありがとう」
女の人は窓に引いてあるカーテンを引くと窓を大きく開きました。波の音と一緒に、気持ちのいい潮風がぼくのほほをなぜました。
「ちょっとだけ。すぐに閉めるから。・・・あなたの錆びを全部落としてしまったら、ゆっくり話をしましょうね」
ぼくはうれしさでいっぱいになりながら、なんとか声を出しました。
「ハ・・・ロ・・・、リネット」
女の人はあたたかい手でぼくの錆びだらけの手をつつみこむと言いました。
「ハロー、ウミ」
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