リネットからの返事はまたすぐに来ました。
『あなたからメールをもらったこと、 パパに言ったの。そうしたらおもしろい夢だねって笑うのよ、ひどいでしょう?』
ぷんぷん怒るリネットの顔が見えるような気がして、ぼくはくすっと笑いました。
『しかたないよ、今はもうぼくみたいなロボットはほとんど残っていないはずだから』
それどころか、まともに動いているコンピューターだってあんまり無いかもしれないのです。
どこかの島にロボットが住んでいて、無線で呼びかけたり、メールを送ったりしているなんて、リネットのパパには信じられなかったのでしょう。
リネットのメールは続きます。
『夢でもなんでもいいわ。だってあなたとおしゃべりができてとてもうれしいんだもの。ねえ−−わたしと友達になってくれる?』
ぼくはものすごくびっくりして、しばらくモニターをじっと見つめました。
(友達?)
(ぼくに友達になってほしいだって)
そんなことを言われたのは生まれて初めてです。
『だからあなたの名前も教えてね。ロボットさんじゃ変だから』
ぼくはしばらく考えてから、かちかちとキーを叩いてメールを書きました。
『ありがとう。ぼくもリネットと友達になれたらすごくうれしいです。ぼくはウミヒコ。君の部屋の窓から見える海と同じ名前です』
『海と同じ名前なんてステキ! それじゃ、これからあなたのことウミって呼ぶわね』
そんなはずはないのに、ぼくはニンゲンみたいにほほが赤くなったような気持ちがしました。
ぼくたちはそれから毎日、メールをやりとりしました。
『ハロー、ウミ。元気ですか? 今日は朝からずっと雨が降ってます。外で遊べないから本を読んで過ごしました。すごいのよ、昔はゾウとかキリンとか、サイとかいう大きな動物がいたんですって』
『ハロー、リネット。それだけじゃなくて、もっともっと動物がいたんだよ。ぼくもホンモノは見たことはないんだけど』
ハカセが生きていたころに、写真を見せてもらったのです。
ライオン、らくだ、パンダにツキノワグマ。
陸地が海に沈むとニンゲンだけではなく、たくさんの動物たちも死んでしまうのだとハカセは悲しそうに言っていましたっけ。
『いつかまた見られるかもしれないよ。水が引いて、元のように陸地が広がるようになったら』
『そうね、でもそのころにはきっとわたしはおばあちゃんになっているわ』
さびしそうなリネットの言葉に、ぼくは今すぐにでもその動物たちを見せてあげたいと思いました。
また別の日にはこんなメールも届きました。
『こんばんはウミ。今日のメールがこんなに遅くなったのは、朝からずっとパパとママのお手伝いをしていたからです。昨日はすごく風が強かったでしょう? こんな日は海辺に色々なものが流れつくから、みんなでそれをひろうのよ』
『ハロー、リネット。ぼくは体が錆びるから、ほとんど家の外に出たことがありません。海辺ではどんなものがひろえるの?』
『いろいろよ。なんだかわからないビニールのゴミとかきれいな色のビンとか。パパたちはプラスチックのケースを見つけるととってもよろこぶの。くさらないし、かるいから、物を入れておくのにいいんですって』
その日ぼくは目を閉じて、リネットと二人で海辺を歩いている姿を想像してみました。
よせてかえす波の間に、貝がらや、青い小さなガラスの小瓶なんかが転がっていて、それをひろって歩くのです。
(貝がらでペンダントを作ってあげたら、リネットはよろこぶかな)
ぼくの指ではそんな細かいしごとなんかできるはずないのに。
でも、想像するとぼくはなんだかほこほこした、あったかい気持ちになるのでした。
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