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貝漁
 貝漁は、縄文時代の貝塚に見られるように、早くから行われていたことが知られる漁でした。
 ところで、貝類にはその生息場所が淡水・汽水・海水という棲み(すみ)分けのほかに、砂泥、岩礁のそれぞれに適応した種類があります。これらはその両方において採集の対象となるものがありました。これらの貝類を採集するには、貝類が生息している状況に応じての工夫された道具が作られました。


 淡水・汽水域の砂泥底においては、シジミやタニシ・ヌマガイ・タガイなどがあります。主にはシジミが好んで漁の対象となりましたが、砂泥を手などで掘って採集する以外に一度に多くの貝を採集する手段として、シジミカキと呼ぶ熊手を、歯の形を大型にして、この熊手の後ろ側にザルのようなカゴ状の装置をつけたシジミフルイが作られました。このシジミフルイは、歯を立てるようにして、人や船がシジミのすむ砂泥の上を引き回して歯が探り当てたシジミを後方の袋にため込んで獲るものです。シジミミフルイは、これを引き廻せるだけの場所を要するために、狭い小川等では使いませんでした。下総地域の印旛沼や利根川等の比較的規模の大きな湖沼や川で行われた漁でした。
 
142. コシマキカゴ(千葉県立安房博物館)
 
 海水域で行われる貝漁は、砂浜でのアサリやハマグリ、バカガイ、キサゴ類などを獲る漁と、岩礁地帯でのサザエやアワビ、バテイラなどを採集するものに分けることができます。そしてさらに岩礁地帯での貝漁については、岩場を歩いて行うものと海面に浮かべた船の上から行う漁、水中に潜って採集する方法とに分けることができます。
 砂浜での貝漁は、淡水域での採集方法とほとんど変わりません。潮の干満があることから、干潮時にいわゆる潮干狩りを行ったり、アサリマンガ、コシマキ等と呼ばれる、人が引き廻して獲るような採貝器を使っての漁が行われました。この場合、採貝器の歯の隙間やその後ろにつくカゴの目の大きさを粗くすることで、稚貝などが獲れても自然に隙間から抜け落ちるように工夫がなされ、資源の保護や選別の容易さがなされました。その後、動力船が導入されると、船で曳く採貝が行われ幅が2mを越す大きなマンガとよぶ採貝具も登場しました。
 岩礁地帯では、岩にとりついているような貝類を剥がす(はがす)ようにして採集することから、砂浜で使うような道具は用いませんでした。ここで主に使われる道具は、イソガネと呼ぶ貝類を岩から引き剥がしたり、岩の隙間から引き出すためのものです。イソガネは、片手で扱うもので、細板状で先端をやや薄くしてアワビ等に差し込んで引き剥がし易くしてあります。イソガネは、ナガエ、オオノミとも呼ばれ、手のひらに収まる大きさのものをコノミ、後端を鍵の手状に曲げたものをヤロウイソガネなどと呼んで使い分けています。
 
136. コノミ(千葉県立安房博物館)
 
 これらイソガネ類を使っての貝漁は、採集をする貝類が潮間帯以下に生息するアワビやサザエ類であったことから、アマによる潜水漁として行われました。
 
130. イソガネ(右)
131. ヤロウイソガネ(左)
(千葉県立安房博物館)
 
ナガエの持ち方
 
コノミの持ち方







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