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【川】
 河川湖沼における誘い込み漁は多彩で、その漁具の変化も多様です。これは、敷設時と回収捕獲時にかかわれば済むというこの漁法の特質が、農業などの他の仕事と組み合わせて従事できるということから、より多くの人びとによって営まれたことによると思われます。漁具の呼称も地域によって多様で、世代による差、同種異名、異種同名、呼称の逆転まであります。ここでは、大利根博物館の所在する佐原市周辺の水郷地域での呼称によります。
 ズは竹を細く割って円筒形に編んで横置きで使用するもので、入った獲物が逆行できないようにアゲと呼ばれる逆刺しが付けられます。ドジョウズ・ウナギズ・カニズ・エビズ・ナマズズ・フナズとありそれぞれを対象とします。ガラス製のビンズや金属製、プラスチック製のものも使われるようになりました。
 ドジョウズは水田の水路などを中心として、50個ほどを朝農作業の前に仕掛け、夕方回収捕獲するという方法などで使用されました。水田の取水排水という農作業の動き、ドジョウの繁殖などの動きと密接に絡まった漁でした。水田地域では広範に行なわれました。ビンズを除きズの中では最も小さなサイズになります。
 
117. ドジョウズ(千葉県立大利根博物館)
 
 ウナギズは河沼床に仕掛けられるもので、幹縄に100〜300個程繋がれ、ミミズなどの餌がつけられます。
 
113. ウナギズ(千葉県立大利根博物館)
 
119. エビズ(千葉県立大利根博物館)
 
 カニズはモズクガニを対象として、胴の部分をワラで囲み、暗いところを好むカニが入りやすくします。餌は使いません。
 エビズはテナガエビを捕るのに使われます。中に入ったエビが傷まないように他のズと違い筒の両方が平らになっています。100〜200個を幹縄に繋ぎ仕掛けられます。餌は干鰯・大豆・イモが使われました。
 竹簀(たけす)で誘導路をつくる簀立て漁の、集魚部に仕掛けるバカズという大型のズやタテドウもありました。テナガエビ・モズクガニやウグイなどが対象にされていました。ウケは、竹ヒゴや竹を細く割ったものを円筒形に編んで縦置きで使用し、開口部に片押戸式のカエシが付けられます。コイウケ・フナウケ・ヤギウケがありそれぞれを対象とします。
 
114. カニズ(千葉県立大利根博物館)
 
 コイウケは、水路や沼のマコモやガマの間に仕掛けられ産卵などで浅瀬に入り込んだコイを対象としました。岸側に入り口を向け、篠竹でしっかり固定した。4月から6月の産卵期は餌を入れずに使用し、この時期が最も捕れました。産卵期にはメス・オスのペアで入ることも多く、メスをおとりに入れておくことも行われました。冬期には麦を煮て餌として使用することも行われました。ライギョもこのウケに入り対象とされました。
 フナウケは、マブナを対象としたもので、コイウケより小型になり、開口部は横の下部に設けられカエシは上から下げた片押戸式になる。泥の中を餌を探して移動するマブナが入りやすくしたもので、ウケの底部は網代(あじろ)で組まれます。仕掛ける時には網代の上に泥を入れこの中にゆでた麦や大豆を混ぜて餌としました。
 
115. ヤギウケ(千葉県立夫利根博物館)
 
 ヤギウケは、モツゴの方言名である「ヤギ」からきたもので、ザコウケと言うこともあります。竹ひごとシュロ縄で作られ、構造的にはフナウケと同じですがはるかに小型になります。餌は米糠と粉(しんこ)を熱湯で練り2〜3cmの団子を作りゆであげて溶けにくくしたものを使いました。春・夏は浅場に、秋・冬は深場に仕掛けて年中使われました。樹脂製のものも昭和50年代からあります。
 
120. フナウケ(千葉県立大利根博物館)
 
23. オダガマ(千葉県立大利根博物館)
 
 タカッポは、孟宗(もうそう)竹や太めの真竹を1.2〜1.5mに切り節を抜いた単純な漁具で、ウナギを主な対象としました。夏場は水中につるし、そのほかの時期は水底に仕掛けました。
 ササビデ漁は、笹やナラなどの雑木の枝を束ねて沈め、テナガエビ・ウナギ・ヒガイなど狭い隙間を好む魚を集める漁法です。4〜5日間放置し、魚が集まった頃に静かに引き上げ、下からササビデアミですくいササビデを揺らし網の中に落とします。ササビデは縄に50個以上も連ねて沈められます。
 オダ漁は、ササビデ漁の大規模化したもので、コイ・フナなどが寒中に水底の物陰に隠れる性質を利用し、大量の材木や枝を沈め人工の漁礁を作り、魚が入り込んだ時期に周りを網で取り囲み、中の枝などをオダガマを用いて取り外し魚を捕りました。「ひとオダあてる」とコイ・フナなどが1トンもとれたといいます。
 
121. コイウケ(千葉県立大利根博物館)
 
オダ漁の模式図
 
(大原 正義)







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