貴方の身近な
海洋学
【第2回】
社団法人 中国船舶養成協会
理事長 不島元節
●海と太陽エネルギー
海は地球の表面を71%にわたって覆っていますから、海の性質は地球の環境に主要な役割を果たしています。
海水は塩類を3.5%含んでいますが、全体で水(H2O)と考えてよく、従って地球は水の性質に大きな関わりを持つことになります。水は酸素と水素の簡単な化合物ですが、他の化合物には見られない色々と特殊な性質があります。
“水”は0℃以下になりますと氷(固体)となって流動することは出来ません。しかし、水が氷になると密度が10%ほど軽くなるため、水面に突出して浮流することが出来ます。
“水”は比較的強い表面張力で覆われていますが、水分子の熱エネルギーの吸収力は大変強く、その表面では容易に気体(水蒸気)になることができます。このことは、固体(氷)の状態からも同じ事が生じます。逆に水蒸気から熱を奪われますと簡単に水の微粒子となり、空気中を浮遊することができます。さらに、これが氷点下になりますと他の浮遊物を核としてその周囲に集結して氷片を作ります。しかし、374℃以上になりますと“水”は液体として存在することができず、すべて乾燥した水蒸気となってしまいます。
地球の表面は太陽からのエネルギーのお陰で大体−30℃〜+30℃の範囲にあります。この温度領域では“水”は固体である氷と、気体である水蒸気の三相が共に存在できる状況にありますが、地球表面の温かい所の面積が広いこと、海の面積が広いこと、大気が移動することもあって平均的には+15℃と見積もられています。
地球上に“水”の三相を持つことが出来ることは、太陽からの適当なエネルギー照射によるものであり、地球上に生物を発生させ、その育成と発展が可能であったことを考えてみると驚きという他はありません。さらにこの地球上にのみ発生・育成した生物が、原子地球時代には存在しなかった石炭、石油、天然ガスなどの太陽エネルギーを蓄積した、いわゆる化石燃料を生産し、長い年月の間にこれが地下に埋蔵され、現在、人類がエネルギー源として活用していることは、もう一度、地球上の“水”について考える必要があると思います。
更に、忘れてならない事は、現在の地球表面を覆う大気の中の酸素分子は、生物の所産であると言われています。そうだとすると、この酸素分子はその原料が“水”であり、生産動力は太陽エネルギーであって、生産工場が生物のうちの主として植物であると言えるでしょう。また、その消費者が現在地球上に生活している生物、主として動物であり、特に人間がその大消費者であるということであります。
これらはすべて地球表面に海があり、陸地や大気と共に偉大なる太陽エネルギーが丁度よい割合の環境の中にあったからに他なりません。
これらの事はさて置くとしても、我々の身近には風が吹き、雨が降り、海上は絶えず波が立ち、海流や潮流があり、汐の満ち引きがあるなど、地球の表面は絶えず変化しています。
この変化を発生させているエネルギー源は言うまでもなく、殆どが太陽からのエネルギー、即ち太陽からの光線(電磁波)によって維持されています。太陽以外のエネルギーとしては、月と地球自転による潮汐エネルギーや、地球に残留する放射怪物質の自然崩壊によるエネルギー、地球自体の熱エネルギー、他の天体から侵入する宇宙線、隕石などがありますが、これらを全部合計したとしても、太陽エネルギーの10,000分の1程度と試算されていますから、如何に太陽が偉大なものかが判ります。
この偉大な太陽は表面温度が5,800K(K:ケルビン度、−273.15℃=0°K)と言われる猛烈に活動している流体の層(コロナ)があり、これから宇宙のあらゆる方向にエネルギーを放射していますが、その大部分は光線であり、それは比較的長い波長の電磁波であって、X線やγ(ガンマ)線などの高いエネルギーのものは少ないのが特徴であります。
この太陽エネルギーは水素原子が、ヘリューム原子に変わる時に生ずるエネルギーだと考えられていて、言わば太陽は天然の核融合炉だと言われています。太陽は直径が14×105kmあり、地球の直径は12×103kmですから、地球の117倍の大きさとなり、太陽の大部分が水素原子核だけで出来ているとしても、太陽の中心温度は15,000,000kになることが予想され、中心圧力は2,500億気圧程度ではないかと考えられています。この超高温、超高圧、更に高磁場の存在が確認されていますから、この環境下では容易に水素原子核の四個を一組としてヘリューム原子核2個を生成することが出来ます。この時ヘリューム原子核は質量が生成前の水素原子核に比べて0.7%程減少しますから、余りの質量はE=mc2による膨大なエネルギーとなって太陽の周外に飛散することになります。
(注)Eはエネルギーの量、mは質量、Cは光速を表しています。
試算によりますと、水素1グラムが核融合で生ずるエネルギーは1.5×1011calですが、これは石油1グラムの100万倍、即ち石油1トンに相当します。
また、現状の太陽のエネルギー量から逆算しますと太陽は水素原子核を毎秒400万トン消費している事になりますが、太陽の大きさから考えますと、今後40億年の先までは太陽エネルギーの恩恵にあずかることが出来るようです。
ちなみにこの太陽の放射するエネルギーの総量は5.5×1027calであると推量されていますが、このうち、地球に到達できるのは僅か22億分の1程度であります。この僅かではありますが、地球に到達する貴重な太陽エネルギーを地球はどの様に受け止めているのでしようか?
地球は太陽の周囲を約150×106km離れて、円に近い楕円軌道を一定の速度で回転しています。さらに地球はこの軌道面に対して66.5度の傾斜角をもって自転しています。
地球自転の一回転には24時間、太陽を一周するには約365日を要します。このため、地球は全体的に幅広い範囲にわたって太陽光線に浴することが出来ます。その上地球の軸が傾斜しているため、太陽の受ける光の角度が一日づつ変化しますから、特定の地帯だけ高温にさらされる事はなく、また、ある場所だけが極度に太陽光線を受けずに暗冷になることが少ない事になります。これは地球だけに与えられた恩恵であって、太陽系の他の星を見ますと、水星は0度、金星は3度、天王星は98度があり、この場合冷暗地帯の存在が生物の生存を否定的にしています。
地球が太陽を回る軌道は、殆ど円に近い楕円であってその離心率は0.017ですから、地球の遠日点と近日点では太陽エネルギーの差は僅か0.7%程度しか影響を受けることはありません。従って地球が近日点で、強力な太陽エネルギーに曝されたり、遠日点付近で僅かな太陽エネルギーの恵みしか受けられないと言うことはなく、地球が太陽の回りを一周する一年間を通じて、同じ様な太陽エネルギーを享受する出来ることになります。
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これに関連して、地球の陸地と海の分布を見ますと、北半球に陸地が偏っていて、地球表面全体の70%が北半球にあります。従って南半球の地球表面は、“海”が広い範囲にわたって覆っていますから、丁度、近日点付近の幾らか強い太陽エネルギーは主に海に照射され、吸収されることになり、南半球に陸地が少ない事から地球を一周するような比較的強い海流によって照射された太陽エネルギーは地球表面の至る所に運ばれ、大気の循環もあって、地球表面の穏やかな、温度分布に貢献していると言ってよいでしょう。
地球の回転軸が軌道面に対して傾斜角をもっていることは、地球表面の特定場所について、太陽からの放射エネルギーの照射が周期的に強弱を繰り返し、同時に照射時間についても長短を繰り返すことになります。これを我々は“季節”と呼んでいます。
冬は太陽の光が薄く感じられ、日照時間も少なくなり、例えば北緯40度付近では円周が赤道の円周の約1/3になり、12月頃には日照時間が9時間程度ですから、太陽から受ける放射エネルギーは赤道付近と比較すると1/10以下となります。その結果、地表温度が氷点下となって河川と海水の一部を凍結させ、極の近くでは雪が堆積して氷山を形成します、このことは地球上の生物に大きな意味を持っていて、大きな動物に移動の機会を与えることになり、また、海水の凍結によって生ずる淡水化や河川からの氷塊、氷山の流出によって、海水の一都が淡水化し、海水成分の栄養化が進むために、気温の上昇と伴に膨大な量のプランクトンの発生を引き起し、生物連鎖の原点となっています。
夏は太陽の光がまばゆく感じられ、日照時間も非常に長く、北緯40度付近では赤道の1/3の円周を15時間にわたって照射されますから、赤道付近の気温に較べても暑い気温を記録することになります。このことは、高い緯度のヨーロッパや、中国大陸の北部でも夏の間に充分な太陽エネルギーを享受することが出来ることとなり、小麦や牧草などと伴に生物の育成を支える大きな恵みとなっています。
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地球の赤道付近は一年に2回の夏が来ることになり、地球の軌道面に対する傾斜角の影響も比較的少なく、強い太陽エネルギーを受けることになりますが、この一帯は97%が海に囲まれていて、照射される太陽エネルギーは、大部分が海水に吸収されて海水の温度を上昇させます。しかし幸いなことに、この一帯に常に吹いている貿易風の効果もあって、海水表面から大量の水蒸気が蒸発しますから、海水から大量の蒸発潜熱を奪うことになって、海水の温度も36℃を越えることはなく、従って赤道付近の気温は常に温暖を保つことができていると考えられています。
このように考えてきますと、地球が享受している太陽エネルギーの恩恵は、地球の表面の71%を覆う“海”が如何に重要な役割をしているかが判ります。今、仮に海洋に降り注ぐ太陽エネルギーの様態が変わり、海洋の形態が変わるようなことがあれば、地球の気象状況が大きく変わり、地球上の生物に重大な影響を与える事になるかもしれません。これらのことが理解できる地球上の生物は、唯一人類だけですから、責任をもって注意深く観察し、異常が予測されれば、その対策を考えなければならないと思います。
最近の、CO2(二酸化炭素)への対応や、NOx(窒素酸化物)への対策、海洋の原油汚染への取組は、こうした地球の危機に対する人類の模索に他なりません。
(以下次号)
船舶職員法の一部を改正する法律が平成14年6月7日公布され、公布日から1年以内の政令で定める日から施行されることになりました。その概要を紹介します。
1 資格体系の分離
小型船舶の船長でもある「小型船舶操縦者」と、大型船舶の船長や機関長などの「船舶職員」の資格体系を分離し、法律名も「船舶職員及び小型船舶操縦者法」と改められました。
2 資格区分の再編成
図のように再編成されます。
資格区分の再編成
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*小型船舶操縦士の試験については、安全に配慮しつつ、できる限り簡素なものとすることとし、旅客を扱う小型船舶操縦士については、人命救助の知識等の要件を付加することとされました。
3 遵守事項の明確化
小型船舶操縦者が遵守すべき事項として、
(1)危険な操縦の禁止 (2)酒酔い操縦の禁止 (3)救命胴衣等の着用(子供、水上オートバイ) (4)ふくそう水域、水上オートバイについての有資格者による自己操縦等を明確化するとともに、遵守事項の違反者に対する再教育講習の制度を設けることとしました。
(次号で詳細を紹介します:事務局)
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