「プレジャーボート等海難防止対策調査専門委員会(機関故障)」報告書から
事務局
九州北部海域におけるプレジャーボート等海難のうちでも、機関故障海難が最も多く発生しています。このため、(社)西部海難防止協会、(社)九州北部小型船安全協会では、平成12年度から13年度にかけ、学識経験者、海事関係者、関係官公庁職員で構成された「プレジャーボート等海難防止対策調査専門委員会(機関故障)」を設置され、広範囲かつ詳細な調査研究が実施され、この程、報告書がとりまとめられました。当協会では、各協会のご了解を得て、本調査研究に基づく「機関故障海難を減少されるための対応策」及びアンケート調査に記載された自由意見の一部を転載させていただくこととしました。
【調査研究の概要】
第七管区海上保安本部で集計された過去10年間の機関故障に関する海難事例及びプレジャーボート関係者に対するアンケート調査結果を基に分析・検討が行われました。アンケート調査は(社)九州北部小型船安全協会会員5,498名を対象として、平成13年3月から4月にかけて実施されたもので、短期間の配付、回収であったため、有効部数は1,536通であったとのことです。
これらを総合的に検討された結果、
I 機関故障海難については、整備不良及び老朽衰耗に起因するものが大半を占めている。
II 機関故障については、実海難より潜在的な事例が圧倒的に多いこと。
III 燃料系、起動系、冷却水系の3系統の故障事例が7割を超えている。
IV 目視点検等注意を払うことで未然に防止できる事例が多く存在すること。
V 機関が故障した場合であっても簡単な分解整備や予備品の交換で対処できる事例が多く存在すること。
が判明したので、この結果を踏まえて機関故障海難を減少させるための対応策について、回避可能なものと回避困難なものとに分けて検討が実施されるとともに、プレジャー関係者への提言、ユーザーへの注意喚起として取りまとめが行われました。
【アンケート調査による機関故障の有無・救助の有無・海上保安庁への連絡の有無】
(1)回答者の約半数が機関故障を経験している。
(2)機関故障が発生しても個人的に対処して救助を必要としない(不要救助)、いわゆる潜在的な機関故障事例が7割近く存在する。
(3)機関故障で救助された回答者のうち、95%は海上保安庁へ連絡しておらず、潜在的な機関故障事例が多く存在することが認められる。
【アンケート調査分析による機関故障海難を減少させるための対応策】
I 回避可能な機関故障海難への対応策
発航前点検により回避可能な機関故障海難への対応策〕
●発航前点検により回避可能な機関故障海難の抽出
*点検による機関異常→整備等の対処→機関故障に至らなかった分析
I 機関異常の感知箇所
燃料系、冷却水系、起動系の異常感知が74%である。
II 機関異常の感知理由
目視点検、起動しない、異常音及び温度上昇が高い割合
*対応策の絞り込み
分析結果から、目視点検、起動しない、異常音及び温度上昇によって感知されることが多い、燃料系、冷却水系、起動系の箇所に絞って発航前対策を考察することが有効である。
↓
●対応策
*発航前に次の重点箇所を点検する
[ディーゼル機関]
・燃料の残量
・燃料系パイプからの燃料漏れ
・冷却水排出口からの出水、冷却水温度系示度
[電気着火機関]
・燃料の残量
・燃料系パイプからの燃料漏れ
・冷却水排出口からの出水、冷却水温度系示度
・バッテリー電圧、バッテリー液高、バッテリーターミナルの緩み
【提言】発航前の重点事項は、機関種類別にシール化を図り、プレジャーボート等の運航者に配付することが有効と思われる。
【初歩的知識により回避可能な機関故障海難への対応策】
●初歩的知識により回避可能な機関故障海難の抽出
*機関異常・故障状況の分析
I 機関異常・故障箇所
・燃料系、起動系、冷却水系が70%を越えている。
II 機関異常・故障の感知・発見理由
・起動しない・・・20%
・機関停止・・・20%
・異常音・・・19%
・温度上昇・・・17%
*対応策の絞り込み
分析結果から、燃料系、冷却水系、起動系(電気着火機関)の海難及び起動しない、機関停止、異常音、温度上昇(ディーゼル機関)により感知できる機関故障海難に絞って対応策を考察することが有効である。
↓
●対応策
*初歩的知識でチェック、修理可能と思われる箇所 ※アンケートによる高割合箇所
・バッテリーターミナルの締め付け
・点火プラグの清掃、交換
・燃料こし器の水の溜まり除去
・クラッチレバー、スロットルレバーの中立位置確認
・潤滑油の補充、燃料の補充
・冷却水取り入れ口のゴミ除去、冷却水の補充
*自分で対応できる可能性のある事項 ※アンケートで対応可能な割合が低かった事項
・Vベルトの交換、緩み直し
・冷却水系こし器のゴミ詰まり除去、
・インペラの交換
*最低限度の対応知識を習得して対応する
・燃料の補充
・燃料コックの開放
・燃料タンクのエアー抜きの開放
・冷却水取入口のゴミの除去、冷却水補充
・バッテリーターミナルの締め付け
・点火プラグの清掃、交換(電気着火機関)
・燃料こし器の水の溜まり除去(ディーゼル機関)
・冷却水系こし器のゴミ詰まりの除去
・Vベルトの交換、緩み直し(ディーゼル機関)
・インペラの交換(ディーゼル機関)
【提言】機関故障に関するマニュアルはこれまでもメーカー、他の海難防止団体等が多数作成しており、普段からこのマニュアルを熟読していれば何らかの対処が可能であると思われるが、普段マニュアルを読まない者、特に初心者が、洋上で機関が故障した際、マニュアルが側にあってもそれを精査する時間的、精神的余裕はないと思われる。しかし、最低限度のチェック項目を示し、それに従って整備等の対処であれば、初心者でも可能であるしチェックしようという気持ちになると思われる。
そこで、これら初歩的知識により可能な最低限度の対応についても、発航前点検の重点箇所に併せ、機関種類別にシール化を図り、プレジャーボート等の運航者に配付することが、機関故障海難を減少させるために有効であると思われる。
アンケート調査の自由意見抜粋
1 機関故障関連
【出港前点検】
・出航前にエンジンを運転して音が悪い場合には、メーカーに電話して見てもらう。
・エンジンをかける前、燃料タンク室の換気をして、スタータースイッチを入れる。
始業点検を確実にすること。出来れば、終業点検時に重要事項をみておく。
・出港前の点検を確実に行っていれば、出港後に故障という事態には至らないと思う。要は常日頃の保守・点検をどれだけ実行するかということではないかと思う。
・エンジン等の整備を仕事としているので、ある程度の修理は自分で出来るが、(機関故障の大部分は事前点検で解消できる)難しい故障はメーカーとか業者に依頼しなければならない。出港後の海上での機関修理は初心者ではまず無理と思う。出航前は細部にわたる点検(自分でできない所は業者点検する)が一番良いと思う。
・私は10年を越えたが、あくまで素人なので自分で点検出来る事はチェックして出港する。また一人の場合も多いので、他の船が近くにいるところで釣りをする。帰港は予定より早くするよう心がけている。
・海難をなくすにはメンテナンスはもちろん、私はエンジンを始動してから5分くらいは様子を見る為に港から出ないようにしている。
・エンジンを掛けてからすぐ出港するのではなく、しばらく様子を見ること。調子が悪いようなら無理に出港しないこと。修理は専門家(業者)にお願いした方がいい。万が一の時に初心者でもある程度の知識は必要かもしれないが、今の機関は素人では修理が難しい。補機があるとよいと思うが、なかなか後からつけない。
陸上へ連絡出来るよう無線や電話を持っていて故障時の救助連絡が出来るようにしておく。確実に連絡先を記録しておくことが大切。
【日常の点検】
・整備には部品等がなければ海上では意味がない。日頃の点検が必要。
・私は暇な折に保船場に行き、機関の調子又は潮を見て船を試運転するようにしている。
・常日頃、船をいたわる気持ちが大事、エンジンの点検はもちろん、船体もていねいに洗い、ワックスをかける。
・事故の場合陸上と違うことを必ず頭に入れておくこと。事故を起こすまいと念頭において毎日が点検である。ゲージその他充分気をつけること。
・始業点検を縦続することにより、走行中の故障、スイッチの切忘れ(灯火類、GPS)によるバッテリーあがり、インペラ燃料系統、冷却水系等は防げると思う。陸と異なり、危険が大きいので、より以上の日常点検が必要。
・天候の状況により、修理困難な場合が多いので、始業点検及び日常の管理が大切だと思う。
・日頃から機関に関して勉強し、充分に理解することが必要である。運転時、帰港時に注意深く常に観察することが必要である。
・業者にお願いし月一度は点検整備を行っているので、故障は今までない。
・出港時は特に点検も良いが、暇あるごとに点検をしておくと良い。メーカーが来た時に点検をしてもらう。
・定期的に整備点検すれば機関故障は未然に防げると思う。
・常に注意して点検を怠らず、面倒でも早めに修理しておくとよい。
・消耗する部品は常に働くよう交換することが重要。
・毎月1〜2日エンジンを始動し、点検すれば故障もなく、手入れもできると思う。
・出港前のチェックも大切であるが、帰港後のチェックを充分にやっておかなければ故障を防止することは出来ない。安易に海技免状を与えるがために海難事故は多くなるのではないだろうか。
・年1〜2回は専門業者にて点検する。
・エンジンはメンテナンスを時折受けて事故しないよう努力している。
・入港後、スイッチ弁等を指差呼称(切・締)の確認をすれば、忘れがなくなる。
切り忘れた経験があるので良く分かる。
・日常点検(整備・手入れ)に心がける。特にバッテリーの点検、燃料こし器の清掃、潤滑油系パイプの異常、冷却水パイプ、Vベルトの具合等。万が一事故にあったとき、クラブへの連絡体制(現在トランシーバー使用)が必要と思う。
・機関故障は日頃の整備と出港前の点検でかなりの部分が防げるのではないかと思われる。
【アドバイス】
・無知は事故につながる。己の船を熟知すること。ビニール等を吸着した際の除去のため特別の工具を作製している。船上から船底に廻し冷却水吸込口をこすり、異物を針金に掛けて除去。
・定期交換部品、オイル、冷却水等はメーカー指定を守って交換する。
・最近の新型高速エンジンは、非常に小型化し、素人では分解点検等できなくなっている。又メーカーも分解点検の必要はないと言っている。ただし、一時冷却水系及びバッテリーあがり等は常に注意してくださいと言っている。
・小型船の所有歴が40年になり、その間4隻程を交換・購入毎にエンジンも大きくなった。その間エンジントラブルも何回か経験したが、軸系、燃料油系、潤滑油系、冷却水系など、機械の古さからくる故障もあり、勉強不足、経験不足から起こるトラブルもあり、苦労が多かった。やはり、船を持つ以上、船体管理も必要だが、エンジンの知識も充分勉強しておくべきことを痛感している。
・機関修理等でメーカーまかせにせず、必ず立ち会っていれば、次の故障の時に役立つ。又なるべく自分でするようにした方がいい。各フィルターは、特に早めの交換がいい。Vベルトの状態、ゴムパイプの取付バンド、スタンチューブの縮め具合、水、オイルの量、初歩的な点検を必ずすること。船体、機関に少しでも心配があれば出港せず、必ず点検することが事故防止の第一。
・5年に1回はインペラの交換をした方がいい。
・免許は(海技免許)職業船員だが、知識はサンデー船長、ここに問題がある。機械の知識がなければ原則として不良箇所の発見は無理、船長は機械のことを勉強せよ。
・私が耳にするトラブルは、燃料系統で特に備え付けのタンクは水滴から来る汚れによるキャブレターの詰まりが多い。携帯できるタンクの場合は、錆によるキャブのトラブル、またストレーナを別付けしている場合、ストレーナ内の金属の腐食によるキャブ詰まり等が多い。
・マリーナを運営しているが、各自が最低の定期メンテを出来るレベルになって欲しい。機関メンテは自分の命を守るためという自覚が欲しい。
・冬場など船を動かさない月が多くなるとバッテリー電圧に気を付けること。波等による振動のためボルトの緩みには気を付けること。
・販売店に修理をしてもらいながら一緒に箇所を見ておく。
・機関は定期的に専門家に見てもらうこと。インペラは2年ごとに替えること。小型船、ボート等においては、喫水が浅いため航海中に於いて浮遊物、特にビニール等には注意を要す。キングストンヘの付着。オーバーヒートの恐れあり。
・エンジンが回転(始動)しない場合、バッテリーの元スイッチの切り忘れが多い。電圧が無くなることが多い。
・水面上、水面下の浮遊物への衝突、ペラへの巻き込みによる航行不能、機関故障の経験がある。見張り、直前注視が必要。避けられないこともある。ビニールシートの巻き込み(2回)でクラッチの焼き付き、ロープの巻き込み(3回)など。鋸鎌は必需品。安全航行には二重三重の対策を取るようにしている。
(以下次号)
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