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就任挨拶
第六管区会場保安本部長
野一色 修平
 
 本年7月16日付けで第六管区海上保安本部長を拝命しました 野一色 でございます。
 社団法人瀬戸内海小型船安全協会会員の皆様方には、この場をお借りして御挨拶させていただきたいと思います。
 日頃から、皆様方が訪船指導などを通じて小型船舶の海難防止、運航マナーの向上など安全で秩序あるマリンレジャーの普及と発展に多大なる貢献を果たされていることに対しまして、お礼申し上げます。
 私は、六管区の勤務として高松の巡視艇、海上保安大学校練習船こじまに乗船勤務しておりましたが、海上保安官生活そのものの始まりが、呉にある海上保安大学校への入学であります。
 従いまして、六管区は、私が海上保安官としての人生をスタートさせた、海上保安庁での生まれ故郷のような管区でございます。今回、再び六管区で勤務するにあたり、身の引き締まる緊張感とともに、私自身大変に嬉しく思っています。
 さて、海上保安庁は今年で54周年を迎えましたが、いつの時代も「激動の時代である。変革のときである。」と言われ続けてきました。そして、今もまさに、目まぐるしい早さで時代が変わってきております。
 その様な中、私ども海上保安官は、「治安の維持」、「海上交通の安全確保」、「海難救助」、「海上防災・海上環境保全」に努めるべくたゆまぬ努力を続けてまいりました。
 当管区は、我国の国土軸にあたる瀬戸内海や宇和海を擁しておりますが、大小の島々や岩礁があり、急潮流の狭水道が多く、また濃霧の多発により、我国有数の航海の難所と言われております。その海域を巨大船、旅客船、漁船、プレジャーボート等多数の船舶が行き交い、それぞれが多彩な海上活動を行っております。
 こうした状況から来島海峡及び備讃瀬戸海域の航行安全・海上防災や「憩いの海」の守り手として、海洋レジャーの安全の推進、更には密漁取締り、原子力発電所など重要施設の警戒、廃棄物・廃船の監視取締りなど当管区にとってはいずれも非常に重要な課題に今まで以上に迅速かつ適確に対応できるよう取組んでいくつもりでございます。
 管内における船舶海難の発生状況を見ますと、昨年は500隻であり前年に比べて64隻と大幅に増加しております。船舶海難が大幅に増加した要因は、プレジャーボート等の海難が前年の172隻から222隻と50隻増加したことにあります。このため、当本部としては、特にプレジャーボート等を重点対象として、安全指導等の海難防止活動に引続き取組んで参りたいと考えています。
 また、海洋レジャー活動中に事故に遭遇した人は、過去5年間の年平均61人であり、このうち18人が死亡・行方不明者であったことを踏まえ、海洋レジャー活動中に伴う死亡・行方不明者を減少させるために、「大切な命を自分で守る」をメーンテーマに、海洋レジャーにおける自己救命策確保として、「救命胴衣の常時着用」、「連絡手段の確保」及び「118番の有効利用」について指導を行っているところです。
 このような海洋レジャーの事故防止等を図るためには、官民一体となって取組む必要があり、貴協会のように組織的かつ統一的な安全活動を推進されている存在は誠に心強く、また、会員ひとりひとりの安全意識も非常に高く、今後とも、プレジャーボート等の海難防止活動の中核として、指導的役割りを担っていただき、組織の一層の充実強化と事業の活発な推進を期待しているところです。
 また、当本部といたしましても、貴協会と密接な連携を図りながら、プレジャーボート等小型船の海難防止活動を推進するとともに、貴協会の行う各種の安全活動に積極的に協力していく所存でありますので、貴協会及び会員の皆様方におかれましても、海難防止活動へのより一層の御尽力をお願い申し上げる次第です。
 最後に皆様方のご繁栄と海洋レジャーを安全に楽しまれますよう祈念して就任の挨拶と致します。
 
プレジャーボート海難の再発防止に向けて 【第2回】
●モーターボートの航走中の見張り不十分による衝突事件●
[広島地方海難審判庁]
はじめに
 近年、プレジャーボートを利用した水上レジャーの活発化に伴い海難も増加してきています。
 国土交通省において、プレジャーボート利用の適正化に向けた取り組みがなされているなか、海難審判庁では、平成8年から同12年の間にプレジャーボートが関連した海難526件(564隻)を裁決事例から系統的にとらえ、海難発生要因等からみた特徴について分析を行いました。
 なお、今回は「モーターボートの航走中の見張り不十分による衝突事件」についてご紹介します。
1 発生状況
モーターボートの航走中における衝突の8割は見張り不十分によるもの
見張り不十分による死傷者は衝突全体の7割
 
 モーターボートの航走中における衝突は103隻あり、そのうち8割に当る81隻は「見張り不十分」によるものです。
 また、「見張り不十分」が原因とされた事件の死傷者は181人(死亡14人、負傷167人)で、衝突の全死傷者の7割を占めています。
 
2 航走中における見張り不十分のエラー内訳
「見張り不十分」の半数以上は、「見張りの態勢についてはいたが衝突直前まで相手船を認めなかった」によるもの
 
 「見張り不十分」のエラーの内訳をみると「見張りの態勢についてはいたが衝突直前まで相手船を認めなかった」が45隻(55.6%)、「見張り行為なし」が19隻(23.5%)、「相手船の動静監視不十分であった」が17隻(20.9%)となっています。
 
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3 衝突直前まで相手船を認めなかった」エラーの分析
半数が「一方向のみしか見ていなかった」ことによるもの
4割が夜間に発生、自船の針路保持に気をとられ相手船の灯火を発見する余裕がない
 
 見張り行為を行っていたにもかかわらず相手船を発見できなかった事件の特徴は次のとおりです。
●相手船を直前まで認めなった45隻について、その理由をみると、「相手船を視認できる方向以外の他の一方向のみしか見ていなかったもの」が25隻55.6%と最も多く、次いで「死角を補う見張りを行わなかったもの」が10隻22.2%、「相手船以外の第三船に気をとられてその方向のみを見ていたもの」が10隻22.2%となっています。
●相手船を視認できなかったものの相手船がいた方向をみると、45隻中34隻75.6%は船首方に存在しています。
●発生時刻を昼夜別にみると、4割が夜間に発生しており、他の「見張り不十分」のエラーとは違った傾向を示している。これは、夜間という環境の中で目的地まで航行するため、如何に自船の針路を保持し、如何に予定した地点に転針するかなどに気をとられ、その目安となる対象物等のみを見ているなど、周囲を見回す余裕がなかった状況がうかがえます。
 
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事例分析
 
 相手船を視認できる方向以外の他の一方向のみしかみていなかった事件を分析すると、次のようになります。
 
[海難の種類]
 モーターボートと貨物船が衝突
[海難の概要]
 夜間、強風の中17ノットの速力で帰航中の1人乗りのモーターボートが、前方のみの見張りで進行したため、前路を左方に横切る貨物船の進路を避けず衝突した。
●直接原因
 両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、モーターボート船長は、周囲の見張りが不十分(前方のみしか見ていなかった)で、前路を左方に横切る貨物船を避けなかった。
●背景要因
(1)外部の環境及び影響
・帰航する海域は、多くの貨物船等が往来する通航路であることを知っていた。
・長時間釣りに没頭し、帰航時は夜間となったが夜間航行は始めてであった。
・風力4の風が吹き、操舵室前面の風防ガラスに波しぶきがかかり、前面が見えにくい状況にあった。
経験不足から生じる不安の発生
(2)速力に対する認識
 釣り場から20ノットの全速力で帰航していたが、辺りが暗くなってきたので、少し不安となったが3ノットばかり減じ、17ノットの速力で帰宅を急いだ。
夜間、高速運航時の見張りの困難さの認識不足
(3)見張り不十分となった動機及び見ていた方向
 初めての夜間航行で、周りは暗く風の影響で風防ガラスに波しぶきがかかり、前方が見えにくい状況であったため、進行方向が最も危険と思い、前方ばかり気をとられ周囲を見張る余裕はなかった。
見張りに関する経験・技術不足
 
 なお、「衝突直前まで相手船を認めなかった」見張り不十分のメカニズムについて図示すると次のようになります。
 
航走中のモーターボートの「衝突直前まで相手船を認めない」見張り不十分のメカニズム
 
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4 見張り不十分の分析結果
「全方位にわたり」、「対象物を特定せず」、「継続して繰り返し」などの見張り行為の基本を理解すること
 
 モーターボートの航走中の見張り不十分による衝突事件をまとめると次のようになります。
●夜間、不案内な海域、天候の悪化などの厳しい条件下において操船する時、経験不足から不安感が発生しています。
●その結果、特定の対象物への監視行為等に長時間没頭してしまい、周囲の見張りが不完全となることが多くなっています。
●減速すべき危険な海域の状況の認識が不足しているため、身近に迫っている相手船との危険に対して、何ら措置をとることなく衝突しています。
●操舵室内には、船長と同乗者が共にいることが多く、特に友人が同乗している場合、見張りの邪魔になっていても遠慮から何も言えなかったり、自ら長時間雑談したりしている例が多く、見張りの重要性についての認識が不足しています。
●安全運航についての知識や海難回避に必要な技術を習得する機会の少ないモーターボート船長に対しては、見張りによる実践的な海難回避の方法(「全方位にわたり」、「対象物を特定せず」、「継続して繰り返し」)を広く教育、指導していく必要があります。
 
なぜ見張りが必要なの?
 
●他船を発見し、「相手船の位置、船種、進路、速力等の確認」から「方位の変化」を認識して、状況に応じた適切な衝突回避措置を行う必要があるため。
●海上における障害物、航路標識、陸岸等を早期に発見し、船位の確認と併せて障害物、灯浮標、養殖施設等との衝突や陸岸接近による乗揚などの防止をはかる必要があるため。







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