栽培センターからの便り(6)
サザエの二〇ミリ種苗づくり
技師 花崎元裕
サザエは、生まれてから満二年すると、成長の特に早いものでは漁獲サイズの約五〇mm(殻高)にもなります。しかし、一般的な成長は二才で二〇〜三〇mm、三才で四〇〜五〇mm、四才で六〇〜七〇mm、五才で八〇mm以上であり、寿命は七〜八年と言われています。最も成長する時期は、海水温が高い夏から秋であり、その期間は一ケ月で二〜三mmも成長します。このように成長が早いため、放流後の移動・分散が少なく漁獲しやすいことと相俟って、サザエは栽培漁業に向いた種苗とされています。
京都府におけるサザエの漁獲量は、ここ数年、年間一七〇t前後で横ばい状態です。一方、以前から府内漁業者の種苗放流要望が強いという実態がありました。そこで当センターでは、全国に先駆けて平成七年に本格的にサザエの中間育成事業として、好適放流サイズである二〇mm種苗の大量生産を開始しました。
現在、当センターでは放流種苗づくりに先だって、まず前年七月に親貝からの採卵を行い、それからほぼ一年かけて数mmの種苗を約一〇〇万個生産しています。これらを次年六月頃に屋外の水槽へ移し、ここで六〜一二ヶ月かけて、最終的におよそ五〇万個の二〇mm種苗を生産しています。
さて、本題である放流用二〇mm種苗の飼育方法について以下に記します。
飼育水槽として、当センターの屋外に設置した円形FRP水槽(直径二m、深さ〇・七m)二八槽と、キャンバス水槽(直径二m、深さ〇・七m)一四槽を用いています。その水槽の中にトリカルネット製のカゴを入れ、いわゆる二重底にして、カゴ内に種苗を収容して育成します。こうすることによって、糞やエサの食べかす等が網目から落ち、カゴ内が汚れにくくなるのが、このやり方の利点です。
エサは魚粉・海藻粉末・その他栄養素が含まれるあわび用の配合飼料です。時折、これに生のテングサ等の生海藻を与えていました。「いました」というのは、実は一昨年迄のことで、その後はテングサを入手しにくくなったため、平成一二年からは全く与えていません。ですので、現在は、配合飼料のみという状態です(サザエにはすまないが・・・)。サザエがエサを食べる時刻は日没から深夜にかけてですので、それに合わせて夕方一回与えます。
水槽掃除は二日(低水温期の二〜三月は三日)に一度の割合で行います。水槽中の海水を全量抜き、糞や残餌等の洗い流しを行っています。それ以外の日には飼育水を抜かずに、水槽の底から数分間エアレーションを行い、糞や残餌等を舞い上がらせて、排水とともにそれらを流し出しています。
飼育期間中の注水量は、六〜七月で毎時二・一m3です(水槽容量一・二m3)。これは収容当初は種苗サイズが小さいことから、流されないように水量を押さえている水量です。
そして高水温期の夏から秋には、サザエもかなり大きくなっているので、毎時二・八m3に増加させています。
当センターの飼育の特徴としては、先述のうに二重底の円形水槽で飼育していることがあげられます。これには、水槽に角張った部分が無いことから、飼育水が全体にスムーズに流れるため、新鮮な水が効率良くいきわたるというメリットがあります。他県では角型水槽でのカゴ飼育や海面でのカゴ飼育の例が多いと聞いています。
飼育密度は、他県のカゴ飼育では、六〜一五mmサイズを二〇mmまで育成するのに、一m2当たり四千個〜八千個の範囲です。当センターの円形水槽の場合は、一m2当たり七〜八千個です。このように、円形水槽を使うことにより、他県より飼育密度を高めにすることが可能となっています。その場合でも成長・生残には遜色がありません。現在では、生残率を高めるとともに、成長を更に促すために収容密度を幾分低くして飼育しています。
ところで、サザエを育成していく中で、いくつかの注意点があります。その一つは、水槽の中でサザエは、端の方で一箇所に何重にも重なっている場合が多く、このため重なったサザエの下に腐敗したエサが残りやすく、これをきれいにうまく除去してやることです。この時ていねいに残餌を洗い流すと同時に、稚貝をたもあみ等ですくって分散させるような心がけが必要です。
もう一つは、水槽掃除時の注意する点です。水槽の水を全量抜いた時、夏の場合は気温が高く日差しがきついので、数分間そのままにしているだけでも稚貝が乾き切ってしまい、死ぬことがあります。また、冬の場合は雪が降っている時に稚貝の上に積もってしまい、そのままにしておくと、冷えて死ぬことがあります。稚貝は乾燥したり、水温が一〇℃以下にさらされると極端に弱ってしまうのです。
大量生産ということで水槽がたくさんありますので、一つの水槽を掃除しながら同時進行で次の水槽の水抜きも行います。その際一つの水槽の掃除に時間がかかると、上記の様な心配事が出てきます。ここでは迅速かつ的確な作業が求められているのです。
サザエの二〇mm種苗を、年中行事の様にして府内・外の多くの地域に配布しているのですが、毎年ほぼ同じ漁協から数を増やしながらの要望があります。このことはサザエの放流効果が現れている何よりの証拠と言えましょう。事実毎年、大量に放流をしている漁協の職員や漁業者からも「放流効果がある」とのうれしい声が聞こえており、担当者としても大いに飼育のし甲斐があるというものです。配布先で府外の遠い所では、三重県や長崎県があります。もちろん府外への配付は府内配付を優先させた上で対応しているのは言うまでもありません。
今後の課題としては、飼育の省力化・簡素化があげられます。現に今は水槽掃除に時間がかかっていますが、これを徹底的に省力化しかつ、無駄な部分を省くことによっていっそうの大量生産が図れるはずです。このことによって、一人の飼育担当者による生産数が大幅に増え、結果として府内の漁業者により安価な種苗を配付出来るようになるものと考えています。
円形FRP水槽
育成中の20mmの種苗
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