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栽培センターからの便り(4)
早期ヒラメ種苗順調に育つ
所長 本尾 洋
 
 毎年当センターの種苗生産のトップを切って始められる魚種がヒラメです。ヒラメ生産は例年三月中旬頃に産卵させること(採卵という)から始まります。それに続いてゴールデン・ウイーク明けの五月早々にはマダイ、真夏が本格化する七月上旬にサザエ、そして肌寒さを感じる一一月始めにアワビの種苗生産が始まるのが例年のパターンです。そしてこの間隙をぬって五月にナマコ、六月にクロダイの生産試験が行われており、これらの手順をまとめると栽培漁業センターの生産カレンダーになります。
 さて、表題のヒラメに話を戻して、従来は前記のように三月中旬にヒラメ生産が開始されていました。しかし、今年(平成一三年)はそれをさらに一ヶ月早めて二月一九日に採卵し、種苗生産を開始しております。天然の海水温度が一〇℃そこそこの時期です。外はまだとても寒いのに何故生産時期を早めたのでしょうか。その理由は、早期に生産を開始して早期に放流するのが良いことがわかってきたからです。普通、採卵を始めてからおよそ三ヶ月後にヒラメは全長六cmに成長し、放流に適する稚魚(種苗)になります。従って通常ですと六月下旬に放流が行われます。
 一方、天然の海ではヒラメの好惣の餌であるアミ類等が豊富に発生するのは五月頃ということが海洋センターの調査でわかってきました。そこでどうせ毎年五〇〜七〇万尾と大量に放流するのですから、餌がより豊富なこの時期に稚魚たちを放してやり、よりすくすくと育って欲しいというのが“人情”です。従来は前記のように、天然餌料の発生ぐあいが気がかりな六月の終わり頃に放流していたのです。そんなことから今年からは、より放流効果を高めようと、第一回目の生産時期を一ヶ月早めたというわけです。
 余談になりますが、採卵を一ヶ月早めると言うと簡単そうに聞こえますけれど、当栽培センターで一〇年以上も飼われているベテランのヒラメ親魚はそう易々とは産卵してくれません。産卵(受精卵ですから当然雄の放精も)を促すにはそれに先立つこと一ヶ月、新年早々の一月から飼育水温を天然の海水温度より徐々に高めて産卵まで常時二〜四℃高い水温で飼育して親の卵巣・精巣の発育を促します。これには飼育水槽に加温海水を注入する方法がとられるので結構コストがかさみます。そして厄介なことにこれだけではヒラメは産卵を早めてはくれません。もう一つヒラメに「もう産卵時期の春が来たよ」と錯覚をおこさすことが大切なんです。即ち、まだ暗い早朝や夕方に水槽の上から蛍光灯を照らして昼の時間を長く見せかける人間とヒラメの“かけひき”が産卵促進の鍵となります。この方は加温に先立って前年の一二月中旬から始まります。天然の時期より遥かに早い、早春期に産卵させるには、飼育担当者の暮れから、地道で長い作業が始まっているのです。
 さて、四月下旬現在、前記の二月中旬生まれの種苗(第一回目)は二・五cmに成長し六五万尾が、そして三月中旬に生まれた第二回目の種苗は一cmになり、八七万尾が順調に生育を続けています。先行する第一回目の種苗は既に生産棟から中間育成棟に移され、配合飼料で日に日に大きくなって来ております。
 終わりになりましたが、去る四月一日早朝のヒラメ生産棟の火災事故で、当時飼育していた前記第一回と第二回目生産の種苗の減少が、火災原因究明と再発防止・事後処理とは別に、とても気がかりでした。しかし、不幸中の幸いと申しますか、種苗に対しての当時の障害およびその後の後遺症的なへい死はほとんどなく、今も順調に生育していることを、本誌を借りてお知らせし、お詫びにかえさせていただきます。
 なお五月下旬に予定している第一回目種苗の由良川河口他への放流の様子等につきましては、“ヒラメ種苗その後”ということで、後日新聞紙上等で改めてお知らせしたく思っております。
 
サイズの選別と計数のために一旦陸上網生簀に収容されるヒラメ種苗
 
 
ふ化後2ヶ月経ったヒラメ種苗(全長約24mm)
 
 
ヒラメ種苗を中間育成棟に移しかえている様子
 
 
中間育成棟内(40トン円形水槽が8面ある)







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