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事業の実施内容
1. 事業の目的
 本研究事業は、平成13年度の事業から引き続いて実施したものである。始めに事業の目的を明確にし、平成13年度の結果を受けて設定した平成14年度の事業目標について述べる。
 
 宮城県沿岸、特に北部沿岸はリアス式の複雑な海岸線のため、湾の閉鎖性が高く波が穏やかで栄養塩に恵まれていることから、カキやホタテガイをはじめとする有用魚介類の養殖が盛んに行われてきた。しかし近年は、長年の使用による漁場老化の進行や陸上を含む周囲の状況の変化による環境の悪化が認められる。湾は沿岸住民にとって生活の基盤となる重要な場所であり、今後も継続して使用するためには環境改善の必要性は高い。したがって、湾内海洋環境(以下環境)の現況に関する正確なデータを早急に集めて解析し、今後の対策をはかることが緊要である。
 実際に環境改善に取り組むためには、具体的に「何を」、「どのように改善するのか」ということが明らかにならなければ取り組みは進まない。「何を」を明らかにするためには、多数の環境要因について調査し、現状を把握する必要がある。また、「どのように改善するのか」ということを考えるためには、正確で詳細な情報が必要になる。これらの情報は、とくにその場所で生活する沿岸住民にとって重要である。
 さらに、沿岸住民が環境の状態を常に把握しておくことも重要であり、そのためには正確で詳細な情報というだけではなく、誰にでもわかりやすい、しかもはやく手に入る情報が必要となってくる。わかりやすい情報とは、調査結果の数値だけでなくその情報が何を示しているのかということが容易に理解できる情報である。また、そうした環境情報の多くの人々への迅速な伝達を可能にするためにインターネットを利用した情報の提供を試みようと考えた。
 このように本研究では、モデル海域を定めて環境改善の基礎となる多様な環境情報を収集し、それらの情報を沿岸住民へ提供することによって、沿岸海洋環境と沿岸住民の生活の改善に寄与することを目的とした。
 平成13年度の事業では、前述の目的のもとで環境改善に取り組むため、環境要因の現況とその季節変動を2ヶ所のモデル海域を定めて調査した。そしてそれらの情報をまとめ、湾の現況を撮影した写真を含めてデジタル化したが、インターネットを利用した情報提示には至らなかった。平成14年度は、昨年度の調査結果をふまえ、環境の悪化が認められたモデル海域では調査定点を増やし、重要度の高い項目についてより精度をあげて調査を実施した。この詳細な調査によって得られる情報は、その水域を漁場としている沿岸住民にとって特に有用であると考えられるので、より迅速に情報を処理し、沿岸住民の要望の高い情報についてインターネットを利用して提示することを目標とした。
 
2. 事業の遂行に関する内容
(1)概要
 本調査研究では、閉鎖性水域の研究モデルを宮城県本吉郡唐桑町の舞根湾(図1)と宮城県牡鹿郡女川町竹ノ浦(図2)の2水域に設定した。舞根湾は、気仙沼湾北東側の奥に位置する非常に閉鎖的な湾である。一方女川湾は舞根湾ほど閉鎖的ではないが、近年環境の悪化が懸念されている水域である。両水域はカキやホタテなどの養殖が盛んであり、養殖生物とその周囲の環境に対する漁民の関心が高く、本事業の目的に適していた。
 昨年度の事業では、予備実験的に5つの項目について調査を行ったが、本年度はその結果をふまえて、調査海域の性質を知る上で特に重要と考えられた水質および底質と、この他にカキ類の稚貝の成長状況について詳細に調査を行った。これは、昨年度の調査の結果、舞根湾では夏季から秋季にかけて一時的に水質の悪化が認められたことから、その状況を広範囲に把握し、舞根湾内外の水質とその水質が養殖生物に与える影響について調べる必要があると考えたからである。このため本事業で調査を実施した定点は、舞根湾3ヶ所と女川湾竹ノ浦1ヶ所の合計4ヶ所である(図1、図2)。今回新たに調査をおこなった舞根湾外の2ヶ所(St.2、St.3)は、水深が25m〜30m程度と深い水域である。
 水質は、7月から12月まで毎月水温、塩分、溶存酸素、栄養塩(ケイ酸態ケイ素、リン酸態リン、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素)、クロロフイルa、フェオフィチンの6項目の調査を重点的に行った。水温、塩分、溶存酸素については、各水域で表層から海底上まで水深1m間隔で詳細に測定し、その水質状況を鉛直的に把握しようと努めた。
 底質調査は、舞根湾(St.1のみ)と女川湾竹ノ浦で、実験用の筏の直下とその筏から約7m以上離れた周辺の海底について行った。調査水域の水深は約10mである。二枚貝類などの養殖漁場の海底と、本来の海底の状況を比較すると、海面養殖が海底や周囲の環境に及ぼす影響を知ることができる。調査は実際のカキ養殖漁場で行うのが望ましいが、カキ養殖漁場の水深は約30mと非常に深く、潜水作業に危険が伴うので、底質調査は当研究所で所有する実験用筏(舞根湾)や、東北大学大学院農学研究科水圏動物生理学分野が所有する実験用筏(竹ノ浦)の直下と周辺海底で行った。
 分析用の底泥は、直径5cm、長さ50cmのポリカーボネイト製の円筒を使用して採取した。潜水し、円筒を海底に突き刺し、上から蓋をして抜き取るという採泥方法は、泥の層を保持できる最良の方法である。この方法によって、底泥の表層から0cm、5cm、10cm、15cm、20cmの深さの泥を層ごとに採取して、泥中の有機炭素量、全窒素量、硫黄量について分析した。また、採取直後に泥温と酸化還元電位の測定も行い、底質状況を把握しようと努めた。これらの調査は舞根湾と女川湾竹ノ浦でそれぞれ年2回実施した。また、底質調査の際には、調査海域の様子や海底状況、そしてそこに生息する生物の水中写真を撮影した。
 昨年度の調査において、舞根湾では秋季に溶存酸素の低下が認められた。舞根湾の水質は、この時期に採苗されるカキ類の稚貝にとって厳しい環境であると考えられたので、カキ類の稚貝を舞根湾の内外3ヶ所の水域に垂下し、その成長と生残を調査することによって舞根湾の水質がカキ類の稚貝に及ぼす影響を調査した。カキ類の稚貝は、測定後に写真撮影した。
 調査終了後、調査水域の状況を把握した中で環境の悪化が認められる場合、対応策を考えるために重要なのは、正確で詳細な情報をわかりやすい形で提示することである。海洋環境調査はこれまでも関係機関によって多くの水域で詳細に行われている。しかし、その結果として示されているのは多くの場合一次情報である。そこで、本研究では収集した調査結果をより使いやすい二次情報へ変換する。さらに写真などの画像とともに、沿岸住民にわかりやすい情報をインターネットで提示する方法を提案する。本年度の事業では、平成14年4月に開設した財団法人かき研究所のホームページ(http://www.kakiken.or.jp/)の中で調査結果を公開した。このような方法は本研究で調査を行った水域に限らず、他の多くの水域においても適用でき、その有効性は大きいと考える。







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