中国派遣・日本語教師
北京体験交流会レポート 2003,3,23
教育上の視点から
1, 今までの日語教育は、日本での嘗ての「英語教育」と同じ
黒竜江東方学院 903 井上昌人
授業;本科の1クラス27名 精読8時間 会話2時間
専科の2クラス36名、37名 会話2時間×2 合計14時間
教科書:精読・「新編基礎日語」(上海訳文出版社) 会話・日語口訳教程(商務印書舘)
日本語コースは設定されてから、まだ二年しかたっていない。担当するクラスはいずれも2年生。3分の2が本校に入ってから日本語を習い始めた者であり、ほとんどが聞き取れないとか。その割に教科書はとても難しい。「新編基礎日語」などはかなり難しい内容だが、それを1年間で2冊やってしまっている。の2年の初めに第3分冊に入った。今までの日本語教育は、たぶん私の年齢層が受けた英語教育と同等のものと思われ、解釈中心、文法中心。しかし、出来る者はたとえ1年間でもびっくりするほど会話ができる。
2ヶ月した頃、学生から文法をもっとやってくれとの要求が強く出た。それ以後は文法中心に切り替えた。朝鮮族の学生ほど文法にこだわるという。文法をやっていれば安心するというような感じを受けた。
コピーについては自分で購入したスキャナ(1,000元)とプリンター(1,880元)で間に合わせ、とても重宝している。
2, 教師側で教科書の選択ができる
長春師範学院 893 岩田孝雄
現在一年生(閲読と会話)、二年生(閲読・听力・会話)、三年生(閲読・技巧)を担当している。週18時間と一般的にはやや多めに感じるが、三年生の技巧(一級をうけるための模擬試験的授業)が、11月末で修了するので、その後は週16時間となる。生徒たちは真面目で純真、意欲的かつ積極的に学習に取り組んでいる。病気以外では欠席することはほとんどない。授業時間の経つのが速く感じられ、もう少し長く教えたい気持ちです。一クラスの人数はどの学年もだいたい20人から30人ぐらいで理想的な人数といえる。日本語関係教材は入学時に一括して購入させられていて、その中から日本語主任が決めたテキストを使用することになっている。私の場合、指定された三年生の閲読本が途中で生徒には不適切だと思ったので、別のテキスト(既に生徒全員が所持)を採用したところ生徒たちには好評のようであった。つまり、教師側で教科書の選択が可能である。
長春は朝鮮族が多いためか、日本語学習が比較的盛んのようで、日本語を学びたい生徒は遙か南方からも来ていて、教える側としても、予習が必要となる。
持参した方が良いものは、広辞苑の入った電子辞書、日本語文型辞典、日本事情、童謡・流行歌の歌詞本(テープがあればなおよい)、ワープロ(パソコン)、なお、短波ラジオはこちらで安価にて購入できる。
3, 早稲田の学生とコンピューター上で意見交換
北京大学国際関係学院 86 7赤松 衛
国際関係学院の学生は北京大学の中でも、特に優秀であると言われている。私は大学院生の一年と二年を担当している。学部時代は他の大学に在籍していた学生もいて、地方出身者が多い。今年度は北京出身者はひとりもいない。1クラス10人程度、2クラスを担当。英語の成績等で選抜されてきているため、一年生は「あいうえお」から教えている。学生の質は高く、学習意欲に燃えている。日本語を教える側としては、中国語か英語ができると、学生の要求にこたえ易い。私の学生は、日本語科の学生のように日本語で職業につこうとは考えていないようである。日本語を学ぶ目的は二年生終了時、40日間程、日本を訪問することが決まっているから、その折、修士論文の資料収集にこまらないように、ということである。二年時優秀な学生は1年間新潟大学に留学する。1名のみであるが、今年から三年時試験を受けて、早稲田大学の博士課程へすすむ人はすでに決定している。日本語教師として、私は、自分の学籍のある早稲田大学との遠隔授業を実施している。CU See Me sessionと呼ばれるもので、私の学生と早稲田のVictoria Muehleise助教授の学生とでおこなっている。コンピューター上で相手の顔を見ながら意見交換するもので、今学期は11月1日から、再開した。授業時間帯が違うことや、学生の人数が限られることで、支障はあるが、週1回1時間を目途に今後も実施したいと考えている。コンピューターに日本語対応がされていないために、英語のsessionとなっているが、先学期は、Muehleisen助教授の配慮もあり、ローマ字ではあるが、日本語での意見交換もできた。こうして学生は日本理解に励んでいる。
4, 苦労して中国語で捕捉説明
東北財経大学 860 加藤文彬
東北財経大学は、重点大学ではないが、「市場開放政策」の時流に乗って大連では三指に入ると言われ、特に会計学部が有名である。私は国際商務部外語学院(各学年は英語科クラスと日語科1クラス)の三年生(「日語新聞選読」(5))と二年生(「会話」(4)・「日本事情」(2))を現在受け持って、5、5コマの11時間を担当している。現在四年生は在学していないので、教科の持ち方が変則的である。後期には一年生(「会話」(4))が増える予定である。
日本語を受講する学生は、今までは中学(三年)・高校(三年)と、既に6年間も日本語を学習してきた「朝鮮族」の子弟が多かった。しかし、今年から逆転して、27名の学生の内、大学に入ってから初めて日本語を学習する学生が3/4を占めるに至った。それで、前年度の後期から一年生が初めて「会話」を学習する時には、初級と中級の二クラスに分けて指導することになった。ところがその学生達が、二年生になると二つに分けないで一緒に「会話」を指導してくれとのことである。日本語の修得の差に大きな開きがある初級と中級を一緒に教える指導上の困難さに現在ぶつかっている。また、日語を初めて学習してから一年足らずの学生に「日本事情」を教えるのも無理な話である。学生達は語彙力が全く少ないので、説明しても殆ど分からない。三年生の「新聞選読」も日本語で説明しても分からない所は「日中・中日電子辞典」を使用して中国語で説明している。(日本語で説明するだけでなく、中国語で説明するとなると、下調べに倍以上の労力を必要とする。私は中国語はほんの少ししか分からない。)
学生達は非常に真面目で出席も良く、親しみやすい学生達である。三年生の内に、相当数の学生が日語一級の資格を取るようである。大連の開発区にはだいきぼな日本の工業団地があるので、卒業生はほとんど日系や米系の企業に就職し、数人が日本に留学するようである。中国のどこの大学もそうであるかもしれないが、悩みの種はコピー、印刷等が自由に出来ないことと、その費用を学生から徴収しなければならないことである。
5, 教師を育てる総合大学の中の日語科
長春師範学院 930 綿貫 亮
1978年に創立した教師を育てる総合的な国立大学である。その下に人文学院、数理学院、外国語学院、科学生地学院、体育学院、成人教育学院、計算機科学技術学院及び美術学部、音楽学部がある。外国語学院の中の日語科には、1年生36人(2クラス)、2年生52人(2クラス)、3年生41人(1クラス)が在籍している。男子学生は少なく、殆どが女子学生で全寮制となっている。
私が担当しているのは、1年生の聴解、語音学、会話、2年生の聴解、そして3年生の聴解と日本概況である。週16時間の持ち時間であるが、すべて午前中に組まれているので、午後は学生を呼んで指導したり、教材準備をしたりなど自由に使える。
1年生のクラスは既に中学・高校で日本語の学習経験のある学生で、もう1つは初めて日本語を学ぶクラスである。この初級クラスの学生は英語の学習経験があるので、語音学の授業は英語併記のテキストを使用している。聴解、語音学、会話の授業はLL教室で行っている。
6, 気の抜けない初級の授業
青海師範大学 859 尾崎洋右
ことばの修得とはどうゆうことか、といえば、それはことば学びの積み重ねの結果である、ということです。日本で国語教育を担当しているときには、このようなことをあまり意識したことはありませんでした。日本語をつかう場で育つ人の場合には、日本語そのものを幼児期から繰り返し繰り返し耳にしたり、話したりする環境にたっぷりひたっているのですから、普通の日本語力が身につくのは、ごく当たり前のことなのです。
しかし、日本語をまったくつかうことのない環境の中にあって、五十音から始まって日本語を学んでいく人の場合には、教える側の意図的、計画的、継続的な毎時間の積み重ね、それに学ぶ本人の努力があって、日本語力が身についていくのです。
今年度も英語主専攻生に履修科目としてある日本語を3クラス(4年生1クラス、3年生2クラス)週二コマずつ、計12時間担当しています。
初級者に日本語への興味・関心を持続させながら、日本語を少しでも正しく話したり聞いたり、書いたり、読んだりすることができるようになってほしいと願って、このやりがいのある仕事に全力を傾けているところです。
7, 日本語のおもしろさにはまりこんでいる
天津商学院 836 久下順司
中国で日本語を教え始めてから2年目になる。かなり慣れてきたとはいえ、まだまだびっくりすることは多い。授業に行ったら学生が一人も居なくて、10階建ての棟を探し回ってやっと教室の変更がわかるというようなこともあったし、授業を始めようとしたらどかどかと大勢の学生が入ってきて、今日のここでテストがある、と言う。そんなはずはないここは日本語の授業だというと、ああ、日本語の授業は今日は無くなりました。と言われて唖然としたこともあった。何故担当の教師に連絡が来ないのか・・・それは多分中国だから、であろう。
授業は折れやすいチョークの他はOHPもスクリーンもプリントもその他の教材も全部自前である。ただ救われるのは勉強熱心で明るく、日本が好きな学生がいっぱいいることである。すべての悪条件を差し引いても余りが来るほどで、授業そのものが楽しい。
私の授業は夜の講座が中心で1クラス80人ほどの学生を相手に2クラス8時間やっている。しかもこれは半年で終了というクラスなので「あいうえお」をすでに6回、昼のクラスを合わせるともう10回は教えているだろう。それでも毎回、あれっ、ということが出てきて日本語のおもしろさにはまりこんでいる。
ただ、併設されている裏千家短期大学の方へも出講したりしているので授業時間数が多く、少々疲れを感じることもある。
8, 授業は学生・教師で創るもの
瀋陽薬科大学 896 安藤知恵
本校は5年制の大学で、創立80周年を迎える伝統校である。学生は中国全土から来ていて、三分の二くらい女子学生に占められている。
日本語は3年生になって、集中的に学習するシステムになっている。3年生600名の中、60名が日本語クラスに属している。日本語教師が10時間、中国人教師が6時間授業する。1年間で「標準日本語」初級上・下、中級上・下の4冊を終了する。しかも、日本語検定4級取得が義務づけられている。かなりスピーデイな授業の中に、歌、折り紙、ストレッチ、早口言葉、ロールプレイ、短文づくり、作文、文通、学生を活かすこと、日本文化なども盛り込んでいる。
”授業は、学生と教師でつくるもの”
純真でさわやか、思いやりある熱心な学生の熱気に押され、私は全身汗だくになり授業をしている。また、心の交流も深まりつつある。
4年生は2時間の授業で、12月に日本語1級試験に挑戦する。
彼らは実力が定着し、会話ができるとともに、日本人らしさ(やさしさ、ふるまい)が見られるようになる。
中国では、コピー代金、視聴覚教材が皆無にひとしい。チョーク1本と黒板だけで授業する中国人教師に脱帽せざるを得ない。
9, 単元終了時に「自己評価」テスト
重慶医科大学 921 杉原 直
6月に当センターより、「担当者、FAX、TEL、教学内容1、日語基礎、2、博士生日語課程、週課時14課時、授業対象老師」の案内を貰った。出発までに東京図書出版会「診察室での中国語」ジャパンタイムズ社「初級スキット」等や新聞の切り抜き、歌の本等を準備した。
授業は9月19日に始まった。57名が紹介された。この中には当センター先輩から10年程前に西南農業大学で基礎を学んだ人や、留学経験のある人等も含まれていたことがあとでわかった。講習会で使った教科書で始めた。
今は日曜、水曜日が休日、月火木曜が夕方7,00から9,15頃まで、金曜が午後2,30〜4,45頃、土曜が午前9,00〜11,15頃までの5日間の授業を行っている。
いつも30分前に出かけ、教室で準備をする。壁絵や楽譜等を貼ったり、OHPの準備やオモチャ等小道具の準備、早く来た人とのコミュニケーションをとる。
初めの頃、進度が早すぎるとの声があり、相談の後、今は「標準日本語」のノルマにとらわれず、あせらず、復習を加えてのんびりやっている。
いつも、最後の5分間程、歌を歌っているが、教室を明るくしてくれて良いと思っている。「十五夜お月さん」「雨」「象さん」・・・等々子供の歌の歌詞のわかりやすいものを選び、教科書に合わせるようにして来た。歌の上手な先生方もいて結構もり上がる。
単元が終わる毎に自己評価テストを行って、点数だけ無記名でもらう。「これは私のテストですから」と言って、やってもらっている。
進度の遅れた人を対象に一日もう一度おさらいする日、又、水曜日の何時からか、私の部屋で「まず、フリートーキングから」のセミナーを開きませんか、の提案をしたが、それぞれの仕事の都合などあって、現在検討中
10, 忙しい中で日本語を学ぶ
山東中医薬大学 913 高橋和子
本校は漢方医を育てる学校である。修士課程に本科生とすでに医師として働いている在職研究生がいる。修士課程の授業は週6時間であるが、研究生の中には仕事のある時は欠席する人がいる。また本科の中にも、すでに医師として従事していたが、漢方医として技術向上のため、妻子を郷里に残し勉学している人もいる。そのため年齢差、日本語の学力差が激しい。それに加えて、学生の学習の中心は漢方である。学ぶことが多く、日本語を学習する時間は少なく、さらに日本語を難しくしているようだ。教科書は「大学日語3、4」を使っている。内容は古いし、学力差のある学生には難しい。その本のヒヤリングの問題は、生活習慣の違いと、速い読みのため特に難解である。口頭で詳細に説明する必要がある。6月の中国全国日語検定4級試験合格が修士号取得の条件となっている。そのテストでもヒヤリングの点数の占める割合が大きい。そこで、ヒヤリングは9月当初からネックであったし、前任者からも聞いていたので夜間の学習会を4時間入れた。博士課程の人のほとんどが昼間医師として働いている。そのため授業は、土、日曜日の午後4;00〜6;00である。会話中心の内容である。
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中国人の日本語教師もいるらしい。打ち合わせの必要性を感じ、紹介してほしいと頼んでも、未だにない。 |
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コピー機が自由に使えない。コピー担当が決まっている。その人は土、日と休日。授業は月水金土とあるが、土曜日と月曜日の教材は金曜日の午前中には仕上げなくてはならない。急いで持って行っても、勤務時間に常に常駐しているわけではなく、とても不便。 |
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