講演
『域内観光の発展における政府の役割』
ヴェン・セレブッス
カンボジア政府観光省上級大臣
アジアは多様性に富む観光商品が提供できる。この多様性は域内観光の成長のためには不可欠な要素である。今日の観光客は観光商品の質に対する要求が高く、人生経験を深めるような休暇を求める傾向がある。例として、エコツーリズムや農村部を基盤とした観光ベンチャーが提供するような、その地域のライフスタイルを経験できる観光等。政府の役割は、観光商品のリソースである素晴らしい資源を保存し保護するための政策を整備することである。
現代の生活では労働時間が長くなり、充実したレジャー活動をする時間が少なくなってきている。アジアはこの問題の解決策として、多くの国々が国境を接しているという地理的有利性を生かして、短期間の地域内観光を提供することができる。
しかし、それは必ずしも観光産業が成長することを保証するものではない。出国・入国手続きの合理化や、効率のよい道路、鉄道、空港設備を整備し、インバンドとアウトバンドの双方向の大規模な観光客の流れを作り出す理想的条件を整備することが必要だ。
その一つとして、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の政府は、空路の開発や増強を目指して、オープンスカイなどの自由化政策を検討すべきである。
観光情報の収集については、顧客が益々インターネットに頼るようになっている現在、潜在顧客を逃さないよう、効果的かつ正確で見つけやすいホームページを作成する必要がある。
11月に開催されるASEAN首脳会議で域内観光協力強化協定が署名されることにより、ASEAN諸国の経済統合と国民相互の理解と連帯を促進するために、観光産業が大きな意味を持つことが首脳レベルでも再確認されるだろう。協定の7つの主要目標は次の通り。
1. |
ASEAN地域外から内へ、またASEAN地域内の旅行の促進に協力する |
2. |
ASEAN加盟国の観光産業間の協力を強化し、効率と競争力を高める |
3. |
観光及び旅行サービスにおける規制を大幅に緩和する |
4. |
観光及び旅行サービスの統合ネットワークを確立する |
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グローバルスタンダードの施設(文化財など)と名所のあるワン・ストップ観光目的地として、ASEAN地域を開発し促進する |
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観光業に携わる人材開発分野の相互支援を強化する |
7. |
観光サービスや観光施設への投資など、観光業成長のための官民協力 |
ASEAN諸国の観光担当大臣は、ASEAN+3(中国、日本、韓国)という枠組によって観光に関する協力をさらに強化できると認識し、この枠組を観光交流の促進、経済的結束の強化、社会的相互補完関係の強化手段として歓迎している。また、来年1月にプノンペンで開催されるASEAN観光フォーラムで観光における持続的な地域協力について話し合われることにより、ASEAN域内観光の機会がさらに拡大されるだろう。
ASEANの観光市場の成長は、ASEAN地域内、及び東アジアのパートナーと緊密な連携を構築できるかどうかに大きく依存している。
地域内観光は観光マーケットの構築に不可欠で、将来の成功の鍵を握る要素である。遠くのマーケットが行き詰まっているときだからこそ、身近な、隣のマーケットに目を向けるべきなのである。
講演
『域内観光の開発と振興』
プラデーツ・パヤカビチェン
タイ国政府観光庁顧問
大メコン圏(GMS)、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一員として、タイ国政府は域内観光の振興をはかるとともに、地域への玄関口としての地位を確立しようと政策を推し進めている。今回のセミナーは、確固たる持続可能な開発に向けて、アジア太平洋地域の協力関係を築くための一つのステップとなるだろう。
タイヘの観光客の送り出し国は、日本、マレーシア、台湾、中国、シンガポール、韓国、香港、イギリス、アメリカ、ドイツが上位10カ国を占めている。観光収入について言うと、東アジア諸国からの観光客は平均5.26日の滞在で平均4,200バーツ(95米ドル)をタイ国内で消費し、観光収入合計2,990億バーツ(67億米ドル)の約45%を創出している。
アメリ力で起きた9月11日のテロ事件により、観光産業は世界的な規模で甚大な被害を受けたが、今度の10月12日のバリ島の爆発事件によって、その低迷傾向にさらに拍車がかかることは明らかである。
ASEAN及びGMS域内だけでなく、他地域との旅行及び観光の推進は、タイ国政府観光庁(TAT)の観光開発政策の中核を成している。このため、タイ国政府は、数々のフォーラムやさまざまな協定を通じて近隣諸国と協力することによって、域内外からの観光客の増加に努めている。
ASEAN関係では、まずASEAN訪問キャンペーンを推進することで、地域全体を一つの観光目的地として位置づけ、地域内外からの観光客数の増加をはかっている。また、2002年11月プノンペンにおいてASEAN観光協定(ATA)1が調印されれば、ASEAN10カ国は域内旅行を推進するために緊密な協力を行うことが可能になるだろう。
GMS関係では、TATはメコン観光活動調整機関(AMTA)の必要性を提唱し、創設にこぎつけており、現在、諸国間でさまざまな協定が協議・実施されている。
民間部門のイニシアチブも重要である。TATは基本的にはマーケティング機関であり、観光産業の協力なしには何ほどのこともなしえない。タイにおける観光産業発展のためには官民の協力が不可欠である。
域内観光が直面している間題点の一つとして、まずビザ及び越境手続きが挙げられる。9月11日のテロ事件以降、近隣諸国の不穏な政治情勢のため、現在、この地域におけるビザ発行や域内移動は規制が厳しくなっている。中には、当局が一部の国からの訪問者に入国制限を課す国も出てきている。安全を確保することが最優先である以上、今の情勢では、観光業の振興は難しいといえる。
またインフラや施設が不十分であることも問題である。一部の国においては、交通インフラやその他の関連施設の不備がネックになって、陸路の域内旅行及び観光の発展が阻害されている。こういった問題を解消するには、加盟国間の緊密な協力が必要である。
域内旅行及び観光の将来を確かなものにするためには、1)ASEAN加盟各国が合意に達した後も、政府はその合意を実現するため、具体的なプロジェクトや活動に継続して取り組む 2)官民のパートナーシップを構築する、という二つの点が重要であるというのが私の意見である。
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