講演
『観光目的地としての日本および来訪需要の特徴』
三瓶文博
国際観光振興会(JNTO)総務部次長(企画調査担当)
1964年以来、日本の来訪外客の数は順調に伸びたが昨年は9月11日のテロ事件の影響で前年比わずか0.3%増の470万人であった。来訪外客の内訳は査証べースで、観光目的が約57%、その他はビジネス。地域別シェアは、経済力の成長、それに伴う域内の観光の促進によりアジアが年々拡大している。北米からの来訪客数は減っていないが、シェアが落ちている。今年の上半期の外客数は256万人、前年同期比8.0%の伸びであり、世界的に不透明な経済、テロ事件等を考慮すると、順調な滑り出しと言える。今年は日韓共催のワールドカップサッカーの影響で欧州からの外客が非常に伸びたことも注目される。来訪外客数のトップ5は上から韓国、台湾、米国、中国、香港で、2001年の5カ国総計は約328万人と全体来訪外客の約7割を占める。JNTOではウェルカムプラン21を掲げ、来訪外客を2007年までに800万人に増やし、インバンドに対する日本人のアウトバンド比率を現在の約1:4から約1:2とすることが目標。
来訪外客数トップ5マーケツト(米国を除く)
1. |
昨年、韓国の海外旅行者数約600万人中18.6%の約113万人が来日。観光目的は約57.6%でビジネス目的の来日が多い。東京を訪れるケースが全体に比べて低く、大阪の比率が高い。平均滞在日数は6.3日。個人旅行が多く、特に若年層が圧倒的に多い。日本の大衆文化への興味が強いことも特徴。日本・韓国間では、2006年までに来訪外客数1,600万人増を目指すイーストプランと2国間観光振興協定がある。 |
2. |
台湾の海外旅行者数は、2001年、約719万人。内約87万人が来日。観光目的が、87.7%と非常に高い。訪日場所はディズニーランドや、また地理的な影響から沖縄が多い。平均滞在日数は一週間前後。団体旅行の割合が47.2%で家族単位の旅行が多い。日本の四季の変化、大衆文化、ショッピング等に興味を持っている。 |
3. |
2000年度、中国の海外旅行者数約480万人中約39万1千人が来日。観光目的が18.4%と少なく、ビジネスが19.0%、その他(視察旅行、企業関係など)が62.6%を占める。平均滞在日数はJNTOの調査で27.4日と非常に長い。団体旅行が45.7%と高い。観光客は富裕階級。ショッピング、日本料理等に関心を持っている。中国では海外旅行が全面的に認められず渡航先が指定され、日本へは2000年に、団体旅行が制限付きで許可された。また、日中国交正常化30年の今年は様々な交流が行われている。日本へのビザ発給は現在北京の大使館のみだが、上海での発給が可能になれば、更に観光客が伸びると予想される。 |
4. |
香港は海外旅行人ロが全体の約70%、480万人であり、内昨年26万2千人が来日。観光目的の訪日が86.5%と非常に高い。訪問地は、東京が非常に高く、千葉(恐らくディズニーランド)も29.0%と非常に高い。平均滞在日数は5.8日、比較的個人旅行が多い。若年層。また家族旅行も非常に盛んである。日本に対する興味としては、ファッション、自然、四季、日本食等である。 |
2007年までに800万人の誘致を目指すウェルカムプラン21の目標達成のために官民上げて取り組んで参る所存である。
講演
リチャード・ゴードン
フィリピン政府観光省大臣
アロヨ大統領が大統領に就任するまでのフィリピンは国内問題の解決に集中するあまり、国際観光業成長のチャンスを逸してきた。アロヨ大統領のリーダーシップのもと、観光業は同政権の重要政策の一つとして位置づけられ、各種施策が実施されてはいるが、ここ数年間市場シェアは低下を続けている。
フィリピンは、英語を話す人口が世界で3番目に多くキリスト教徒が大半を占める、長い民主主義の歴史を有する国である。豊かな才能に恵まれた国民は、ホスピタリティ精神に富んでいる。医療、観光業他のサービス業セクターの成長は目覚しく、地理的条件に恵まれた、多彩な観光の名所や行事やイベントがある。フィリピンヘの陸路、空路などのアクセスは容易で、インターネットなどの通信インフラも整備されている。
フィリピンは、昨年来の対テロ政策を維持し、米国との戦略的協力関係を拡大し、国軍の対テロ訓練を継続している。全国の警察組織も整理統合され、5,670人の警官が新たに国内に配備されている。そのうち1,000人は観光専門の警察官で、マニラのような大都市だけではなく、あらゆる地域に配属されている。すべての海岸リゾート地区には警察、軍隊、地方自治体との協力で警備プランが布かれている。
フィリピンの観光ビジョンは、フィリピンが世界有数の観光目的地であることを広く知らしめることである。フィリピン政府が観光業を推進するのは、単に平和安定や相互理解のためだけではなく、雇用と収入の創出というより現実的、経済的理由のためである。魅力(attract)、安心(assure)、説明責任(accountability)という3つのAキャンペーンによって、国家の威信をかけて観光ビジョンの達成を目指し国民が一丸となって取り組む所存である。
昨年は、観光関係業の成長のための施策等を審議するための会議が結成され、現在の取り組みや課題についての協議を行なった。関係者は政府とそれぞれの機関や組織の役割や責任について確認した。「Wow Philippines」というスローガンの下に、初めで地方自治体やフィリピン芸能関係者の参加も得てこれまでの観光促進キャンペーンを超えた活動を展開中である。
来年は「Visit Philippines 2003」キャンペーンを展開する予定である。それにそなえてマニラに新空港や新しいクルーズ・ターミナルが建設され、NAIA(ニノイ・アキノ国際空港)からの新しい幹線道路などの整備も進められている。「Visit Philippines 2003」期間中は、毎日のように全国でイベントが開催される予定である。スポーツ、芸能、文化イベント、各種会議、アラムナイ関連の会合、国民の祝日を祝う行事などである。たとえばマニラでは、古い城壁都市を会場として、16の各地域が1ヵ月毎にパフォーマンスとプレゼンテーションを順番で実施する予定である。
フィリピン政府が観光業の推進に取り組むもう一つの理由は、貧しい国民一人一人に生きるチャンスを与えたいと考えるからである。世界のあらゆる国で、自国民に機会を付与するために観光を推し進めるのは適切な政策であると考える。特にアジアにおいて、観光産業は成長し続けるべきであり、テロリストなどに屈してはいられない。フィリピンは、観光産業を成長させるための課題に前向きに取り組んでいる。行動こそが解決策である。
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