基調講演
『東アジア太平洋地域の観光交流の現状と今後』
舩山龍二
社団法人日本旅行業協会副会長
東アジア地域は、今世紀には観光ビックバンが起きるといわれている。東アジア11カ国への域内からの到着者数は合計4,700万人。最大の送り出し国は日本で、二国間交流の現状は次の通り:日本・韓国間238万人対134万人。日本・中国間220万人対44万人。日本・台湾間84万人対83万人。今後は中国を軸に、東アジア太平洋地域の観光交流がさらに活発になるものと予測される。重要なことは、双方向の観光(Two Way Tourism)が活発になることである。
観光資源の絶対価値の存在や平和を前提に、外国旅行者の増加要因として次の3つが考えられる。1)経済力、2)供給・サービス体制の確立、3)適切な情報発信と交流がある。
まず、経済力。一般に、1人あたり国民所得が1万米ドルを超えると外国旅行熱が高まるといわれている。これは、1)生活が豊かになると、生活の価値観やライフスタイルが変化し、旅行は質の高い生活の一部となる。この気持ちが旅行への普遍的な高まりをもたらす。2)自国通貨レートが高くなることによる格安感。さらに経済の発展は、ビジネス客の増大や国際会議の増加をもたらす。
次に供給・サービス体制の確立。旅行を安全かつ快適にするための重要な条件。1)航空路線(目的地に到着しやすいか(乗り継ぎ便等)。便数や価格は適切か)。2)宿泊施設(さまざまな料金体系の宿泊施設があるか。多様な目的に応じたサービス体制が整備されているか)。3)出入国手続き(ビザの取得などが円滑に行われるか)。4)治安・衛生。5)受け入れインフラ(来訪者を意識したインフォメーション提供機能が充実しているか)。
最後に適切な情報発信と交流。旅は人間の好奇心から始まる。その好奇心はさまざまなメディアを通じての情報に刺激を受ける。限られた予算の中で、いかに効率よく情報を受け止めてもらえるかは難問であるが、インターネットは情報発信の強力な武器となる。最も重要なことは常に最新の情報を提供することである。インターネットとあわせてフェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションも引き続き大切にしてゆく必要がある。
日本の海外旅行市場について。2000年まで(数回の停滞時期はあったものの)順調に伸びていた日本人の海外旅行は、2001年9月の米国の同時多発テロ事件以降不振を続けている。テロ後、著しく落ち込んだ需要の回復を図るため、日本旅行業協会(JATA)は、官(国土交通省)・民(航空会社)と協力してFly Worldキャンペーン(ハワイ、米国本土や東アジア、東南アジア諸国に1,000人の旅行者を招待)を実施し、旅行に対する安心感を高める努力を行っている。
日本人海外旅行者の客層は、かつて最大の顧客層であった20代女性は、この年代の人口が減少していること、婚姻率の低下に伴いハネムーン旅行の数が減少していることから1997年以降マイナスに転じている。さらに、このセグメントは不況の影響を受けやすいということも低迷の原因の一つと考えられる。一方で有望なセグメントは50〜60代のシニアと修学旅行生客。日本の全人口の27%を占めるシニアは、時間的にも(仕事や子育てが一段落)経済的にも(日本の預貯金等の個人資産の70%はシニアが保有)ゆとりを持っている。また、学習カリキュラムの一環として100年の伝統のある修学旅行(修学旅行を実施している学校の割合およびそれに参加する生徒の数は90%を超える高率)の旅行先として外国を選ぶケースが増大している(外国への修学旅行を予定していた学校は1999年度の1,069校から2001年度の1,300校へと増加、参加生徒数も1999年度の17万人から2001年の21万6千人へと増加)。豊富な学習テーマを提供する海外への修学旅行は有望なマーケットのひとつと考えられる。若い時期の国際交流は生徒のその後の成長に大きな効果をもたらす。現在は一方通行のこのような国際交流を政府開発援助(ODA)などを通して、東アジア太平洋地域の若者にも同様の機会を提供し、双方向の観光にすることができるのではないか。
2010年には、外国旅行を行う豊かさに達する東アジア地域の人口は現在のほぼ2倍となる。海外旅行需要の大幅な増加が予測される。21世紀は観光産業が主要産業になると言われているが、実際に、観光産業として観光の世紀を実現するためには、観光についての広報活動を強化し、一般の人々にその認識を醸成させる必要がある。また一方で、観光に関わる者の意識を高め、社会的責任を果たす必要もある。
ここ十年の旅行形態の特徴は低価格化と個人旅行化である。
需要の増大に伴う低価格化はともすれば供給側に無理を強い、結果としてサービスの質低下へとつながり、産業の信用を失堕させることがある。Value for money(支払いに対して最も価値の高いサービスを供給する)という考え方を内外に周知させる必要がある。
個人旅行化に関しては、今や個人でも低額で旅行を行うことが可能となっている。このような状況に的確に対応すべく旅行業界は「少品種大量」から「多品種少量」へと商品のラインアップを切り替えている。個人旅行の増加に伴い、空港、駅、ホテル、タクシーなどでのインフォメーション設備の充実や道路、看板などのインフラの整備が急務となっている。さらにユニバーサルデザイン(バリアフリー化)への配慮も必要。健常者だけではなく障害者も楽しめる旅行を目指して、ハード面の改善を関係機関に要請する計画である。
日本では、日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)が発足した。そこでは観光産業に従事する諸産業・企業が集い、WTOと平仄を合わせた民間レベルでの活動を展開している。
当面の課題は、1)観光産業の重要性を経済効果測定等を通じて国民に啓蒙すること、2)訪日観光客の増大を図ること、3)休暇革命(「秋休み」運動)を起こすことである。
今後の観光交流促進に向けた課題を解決するためのキーワードは「オリジナリティ」。
旅行者は目的地のオリジナリティを求めて訪問することを考える時、その地域の習慣や文化のオリジナリティが強ければ強いほどグローバルな価値があるということができる。そしてこのオリジナリティが旅行者をいざない、結果として観光交流を促進することとなる。また、日本は、経済発展と引き換えに資源を損なってきたという苦い経験がある。エコツーリズムを通じて観光資源を持続的に維持することも非常に重要である。
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