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来賓挨拶
金澤悟
国土交通省総合政策局観光部長
 
 財団法人アジア太平洋観光交流センター主催の観光セミナーの開催にあたり一言ご挨拶を申し上げます。
 本日は、古い歴史と伝統を有する、日本の古都・奈良で大勢の皆様のご参加を得て、観光セミナーが盛大に開催されますことをまずもって心からお喜び申し上げます。
 今更申すまでもありませんが、21世紀は観光の時代といわれております。私どもの住んでおります、この東アジア太平洋地域は世界の中でも最も観光の成果が著しい地域とされ、世界観光機関(WTO)の予測によれば、国際観光客到着数の同地域の割合は2000年の17.3%から2020年には25%に成長が見込まれております。
 本日のセミナーは、近年益々発展が見込まれる東アジア太平洋地域の国際観光に着目し、同地域の観光交流の現状や、今後の課題について、日本、中国、韓国からの代表者により、問題提起をしていただき、その後のパネルディスカッションで、課題の克服に向けての方策を探っていただく予定と聞いております。
 我が国にとりまして、2001年は米国で起こった9月11日の同時多発テロの影響もあって、訪日外国人旅行者は伸び悩みましたが、2002年は現在まで明るい材料が多い年となっております。
 4月には新東京国際空港の暫定平行滑走路の供用が開始され、空港の発着枠が近距離のアジア路線を中心に拡大されました。
 5月には、日韓共同開催でワールドカップサッカー大会を開催いたしまして、1ヶ月間で約48万人の訪日外客がありました。この機会に開催都市は世界に向けて情報発信をすることができました。
 また、本年は日中国交30周年、日韓国民交流年にあたることから、日本・中国間、日本・韓国間で民間レベルも含め、様々な交流事業が進められており、今後、中国、韓国との間での相互交流の増大が期待されているところであります。
 さらに、来年は、日本・アセアン年であり、東アジア太平洋地域を中心に大きな交流の動きが期待されるところであリます。
 このような時期に、本セミナーが開催されることは、誠に意義深いものであり、これを機に地域内の交流に一層の弾みがつくよう、強く期待しているところであります。
 最後になりますが、セミナー開催にあたり、諸準備を進めてこられた皆様方、また、ご多忙中にもかかわらず、講師を引き受けられた皆様方に御礼申し上げ、さらにこのセミナーにご参加いただいた皆様方のご健勝と、益々のこ発展を祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。
 
WTO導入講演
ハッシュ・ヴァルマ
世界観光機関(WTO)アジア太平洋地域代表
 
 本セミナーの目的は、官・民レベルでの地域協力のあり方について討議することである。
 国内及び地域内の観光政策に基づいて、地域間及び国際観光政策は構築される。アジア太平洋地域は、全世界の16パーセントにあたる約1億1300万入の観光客を受け入れる地域である。又、この地域からのアウトバウンドにおいては、過去10年間の平均年間6.5%の増加を維持しており、2001年にこの地域の観光客が外国で使った金額は870億米ドルであり、国際観光収入全体の19%を占め、1到着あたりの平均消費金額は、770米ドルであり、世界平均の670米ドルを上回っている。
 これら個人海外旅行客が、観光業の成長に果たす役割は大きい。
 地域間の旅行は、費用のかかる、贅沢な余暇活動である。一方、域内の旅行活動の特徴は、短期間であること、旅行先をよく知っており、費用も比較的少なく済ませることができるレジャー活動である。平時においては、域外旅行は域内旅行に比べ成長が速いが、経済危機やテロなどの活動が懸念される時期には、域内旅行の方が成長する。
 2001年のアジア太平洋域内旅行業の平均成長率は0.6%、一方域外旅行は6.4%減少。これは、韓国と日本の旅行者が、それまで人気のあった米国やヨーロッパといった域外の旅行先から、東アジア域内の旅行先を選ぶようになったことによるものであると考えられる。
 例えばマカオは、域内旅行客に最も依存している観光地である。外国人旅行客の98%が、域内旅行客である。マカオ以外にも、ブルネイ、グアム、中国、マレーシア、香港への観光客の80%がアジア太平洋地域内の国からの観光客である。
 WTOは、今後も域内旅行は堅調な伸びを見せると予測している。この地域の経済は回復基調にあり、中産階級や夫婦共稼ぎ世帯が増え、可処分所得が増えていることがこの成長要因の一つとしてあげられる。
 この状況に乗じて、更なる経済成長を実現するためにも、アジア太平洋域内の各国は、魅力ある観光地として観光リソースの整備を進めるべきである。例えば、より安価な宿泊施設の整備や旅行関連サービス業の育成、さらに言葉の壁を解消するための様々な取り組みなどが考えられよう。
 さらに域内観光のみならず、域外からの観光客誘致の努力も各国は忘れてはならない。その場合、域外旅行業マーケットについての市場調査を行い、また信頼できる情報に基づいて、具体的な観光推進策を策定し、それを誠実に実行することが肝要である。
 しかし、アジア太平洋地域諸国の観光業の堅調な成長のためには、当面域内の観光促進に重点を置いて、まず国内の観光業者を育成し、社会的、経済的さらに環境的にも持続可能な成長を実現できるマーケットを構築することが優先されるべきであると考える。







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