開会挨拶
フランチェスコ・フランジアリ
世界観光機関(WTO)事務局長
第38回東アジア太平洋地域委員会は、非常に充実した会合となりました。WTOとしては、加盟諸国から提起された意見や問題の指摘をしっかりと受け止める所存です。インドネシアのバリ島で起きたテロ事件によって、昨年の9月11日の米国同時多発テロ事件以降ゆるやかな歩みながらも着実に回復を遂げてきた国際観光業の復興・成長に影を落としています。本セミナーでは、この悲劇的事件が東アジア太平洋全域に対して与えた影響について考えるとともに、この事件以降の観光業界における様々な問題について論じます。
2000年は、いわゆる「ミレニアム」効果が観光業の将来の成長にもたらすポジティブな変化を確信する、意気揚揚とした雰囲気がありました。一方翌2001年の観光業績は、2つの大きな出来事の影響を受けました。1つはこの年の前半に主要な需要送り出し国ですでに見られていた景気の悪化です。景気の沈滞により、消費者は長距離旅行よりも地域内や国内旅行を選びます。そして9月11日の米国におけるテロ事件です。この事件以来、世界情勢は不安定になリ、人々の関心は何よリ「安全性」に向けられるようになりました。
同時多発テロ事件まで、東アジア太平洋地域そして南アジアにおいて、国際観光客の到着率の伸びは前年度(各9.9%及び1.2%)に比べてやや緩慢であるとはいえプラスでした。ヨーロッパのインバンド市場とアウトバンド市場の両方に影響を及ぼした景気後退の影響がすでにある程度現れていました。ただしアジア太平洋地域では、価格競争力が高いことと観光商品が多様であることから、他地域ほどの影響は被っていませんでした。
2001年の9月から12月にかけては、東アジア太平洋地域の国際観光客到着数が10.3%減少しましたが、年初の数カ月が好調だったため、全体としては2001年の成長率は3.8%になりました。一方南アジア地域は、壊滅的といってもよい状況でした。
9月11日のテロ事件から1年以上経過した現在、2002年末に向けて、観光業は危機からの回復力と適応性を再び示しています。しかし多くの旅行情報では、紛争地域に近いなどという理由からアジアのいくつかの観光目的地に対する評価は低いものとなっています。一方、WTOは観光復興委員会の設置によって、観光業を再び軌道にのせられるよう、現実的で実行可能な解決策を加盟国に提供できるようになりました。
テロ事件の影響を受けながらも2001年に東アジア太平洋地域の観光業が3.8%の成長率を維持した理由は主に2つあります。第一に、この地域は1990年代末期にアジア経済危機を経験したおかげで、開発や経済成長の戦略を見直し、業界を合理化していたからです。
2つ目の理由は、私たちの目下の関心事である、域内観光の開発と推進です。自由主義経済と消費能力の拡大によってアジア太平洋諸国の経済が急成長したことは、アジアの域内観光が経済活動の重要な資源となる前触れです。
観光業の生き残り、あるいは持続的発展を確保するために、アジア太平洋地域もヨーロッパと同様に国内及び地域内観光の振興に力を入れる戦略を採るのが適切とWTOは考えています。情報を交換し、マルチ目的地の旅程にふさわしいテーマを発見し、2、3カ国をまとめた目的地の設定、アジアの観光業は成長することができるでしょう。WTOは、アジア太平洋地域の観光業が予測通り、また可能ならばそれ以上に成長するために、力の及ぶかぎり、加盟国を支援する所存です。
開会挨拶
柚木治憲
(財)アジア太平洋観光交流センター理事長
おはようございます。本日は、WTOと私共アジア太平洋観光交流センターの共催で、セミナーを開催しましたところ、多数こ出席頂き有難うございます。
当センターでは、WTOを支援すると共に、観光交流による地域の国際化を促進するため、各種の事業活動を実施してきております。日頃から、奈良県、奈良市を始めとする自治体や、経済界等関係の皆様には大変お世話になっておりますが、この場を借りまして、厚くお礼申し上げます。
さて、本日のセミナーのテーマは、『東アジア・太平洋地域の観光交流』となっております。近年世界の観光は目覚しい発展を遂げ、国際観光客到着数は、2000年には、約7億人と過去最高の水準に達しております。昨年は、9月11日の同時多発テロ事件による逆風を受け、82年以来のマイナス成長となりましたが、中長期的には、更に伸びていくことが予想されております。
中でも、東アジア・太平洋地域は、昨年も世界で最も高い成長率を記録しましたし、最近のバリでの爆弾テロ事件等懸念される要素もありますが、今後も、世界の平均を上回る率で増加していくものと見られています。そして、2010年には、インバウンド、アウトバウンド共、米州を抜いて、ヨーロッパに次ぐ世界で2番目の地域になるのではないかと予測されています。
この成長著しい東アジア・太平洋地域の動向は、世界的にも観光関係者の大きな関心を呼んでいますが、特に、同地域の各国にとりましては、地域の国際観光発展の鍵となる、域内の観光交流をどう活発化し、これを自国への観光客の増加にどう結びつけていくかということは、非常に大きな課題と言えます。そして、そのためには、何が求められるのか、何をすべきか、そういうことを考えるための1つの手がかりとして、本日のセミナーを開催させて頂いたわけでございます。
本日は、まず、WTOのアジア・太平洋地域代表であるヴァルマ博士より、セミナーの趣旨、概要についてご紹介を頂き、続いて、日本旅行業協会(JATA)の舩山副会長に、総括的な基調講演をお願いしております。その後、日本を皮切りに、各国から、それそれのマーケットの動向などについて、講演を頂き最後に、パネルディスカッションを予定しております。
終わりに、本日のセミナーが今後の東アジア・太平洋地域における観光交流を促進する上で有意義なものとなり、観光関係者の方々の参考になりますことを願いますと共に、このセミナーの開催にご支援、ご協力頂きました奈良県、奈良市等関係者の皆様に改めてお礼を申し上げまして、私のご挨拶とさせて頂きます。
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