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詩舞
「清明(せいめい)」の研究
杜牧(とぼく)作
 
 
〈詩文解釈〉
 この作品の作者杜牧(八〇三〜八五二)は晩唐の詩人で、三十代前半までは、エリート官僚として洪州・宣州・揚州・洛陽などに勤務し、その間に杜牧は軽妙な持ち味で、よく知られている「江南の春」や「山行」などを詠んだ。
 この「清明」は杜牧が池州(安徽省貴池県)の長官を勤めた四十二、三歳の頃のものと推定されるが、それは池州が杏花(あんず)の景勝地であり、また酒の名産地でもあった。
 さて詩文の内容は『作者が清明節(春の盛りの4月5日頃)というのに雨に降られ、外出した道の途中で、いささか気が滅入ってしまった。そこで気分転換に酒でも飲もうと、近くにいた牛飼いの子供に居酒屋の在り処をたずねたら、子供は彼方に見えるあんずの花咲く村を指さして教えてくれた』というもの。
 
〈構成振付のポイント〉
 幼・少年の指定吟題であり、舞踊構成のポイントとしては牛飼いの子供がクローズアップされることを心がけて、行人(路を行く旅人でも作者でもよい)と子供との対話の情景を自然体で描きたい。
 前奏から起句にかけては、牛の綱を引いた子供が降り出した雨をさける様に、牛をむち(扇の見立てでもよい)で追立てて登場するが、牛はなかなか動かない。子供が諦めると役替りした旅人が扇を笠に見立てて、迂回した動きで雨宿りができそうな大樹を想定して駆込んで来る。承句は旅人が雨に濡れた着物や髪を拭いたり、ぬかるみに足をとられて、ゆるんだわらじの紐を結び直すなどの仕ぐさを見せる。空を見上げると頭上の枝から雫が落ちてきて襟首(えりくび)に入り、思わず身ぶるいをする。
 転句以降は、前句を受けつぎ「酒でも飲んで温まり、うさ晴らしがしたい」とパントマイム風な芝居をして、辺りを見回し牧童を呼んで酒屋のありかを聞く。すぐ子供に役変りして、無邪気な仕ぐさで、遠くに見える白い杏(あんず)の花の咲く村を指さす。白または青い旗がゆらいでいるのが居酒屋だから(江南の春に詠われている“酒旗の風”が当時の酒屋の看板であった)白扇の見立てで教えるのも面白い。再び旅人に役変りしていそいそと退場していく。
 
牧童図(横山大観)
 
杜牧(画)
 
〈衣装・持ち道具〉
 大人(行人)と子供(牧童)の二役をするので着付は春らしい草色系やべージュ系の無地が無難であろう。役変にたすきをかけるのも一つの工夫。扇は牛の見立て、笠には茶系がよく、雨や杏花や酒屋の旗の見立てなら白がよいから二本を使い分ければよい。







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