詩舞

　

　

　作者の柳宗元（七七三〜八一九）は中唐の文章家、詩人で幼少から利発、二十歳で進士、翌年には博学宏辞の試験に合格し、役人として出世コースを歩む。しかし晩年には柳州の長官に赴任し、そこで没したが人望が高く、州の人達は彼の廟を建てて祭ったと云う。

　また柳宗元の文章力は偉大で、唐宋八大家に名を列ね、詩は陶淵明を範とし特に山水の叙景に優れた。

　この柳宗元の詠んだ「江雪」の世界は、凡てが雪にうずもれた大自然の中で、老人が只一人静かに釣り糸をたれた孤独の心象風景を描いたもので、詩文の意味は次の様である。

　

　

　『日頃、多くの山々の間を飛び交う鳥の姿は見えず、また道を行き来する人の足跡も雪のためにとだえてしまった。

　こうした雪にとざされた中で目を転ずれば、一そうの小舟を浮かべて、蓑（みの）と笠をつけた老人が、寒（さむ）ざむとした川で只一人釣り糸をたれている』と云うもの。

　さて、この詩で気がつくことは、詩舞作品を振付ける上で詩文に動きが殆んどないことである。まずは空には鳥も飛んでいない、道には誰も歩いていない。川に浮んで停った舟には老人が動こうともせず釣り糸をたれていて、凡てが静止した、然も一面雪の真白と黒の墨絵の世界なのである。

　

　前項で述べたように、凡てが静止した世界の中で、唯一動きのあるのは降る雪だけであろう。

　詩文の前段では、先ず前奏から二枚扇で雪の降る情景を描き、それも細やかな雰囲気を見せる。

　起句は敢えて詩文を否定することになるが、日頃見かける鳥の飛ぶ様子を、同じ二枚扇か、または袖を使って（例えば日本舞踊の鷺娘の羽ばたきの様な）ゆるやかに舞台を転回し、低くから山に向って飛び去り、または反対の動作をくり返す。

　承句も起句に習い、降る雪の中を孤独に歩み続ける人物像を多彩に描く。

　後段は表現としてはやや具象的だが、前段の影響は引き継いで、転句からは舟をこぐ振りを、櫓（ろ）や悼（さお）を操って見せる。

　結句は舟の中で釣をする老人のポーズを最後にして、役変りして立上がり、扇を画帖に見立て、作者が「寒江独釣図」を描く人物になって、会心の表情見せて退場する。

　

　前段、後段に共通する衣装としては、淡いグレーが適している。扇はもみ銀白骨がよい。