'03剣詩舞の研究(七)
一般の部
石川健次郎
剣舞「偶成」
詩舞「江雪」
剣舞
「偶成(ぐうせい)」の研究
雲井龍雄(くもいたつを)作
〈詩文解釈〉
作者の雲井龍雄(一八四四〜一八七〇)は幕末・維新期の志士。この名は変名で米沢藩士中村総右衛門の次男として米沢袋町に誕生した。米沢藩士としては文武に励み、その学才は早くから知られていたが、しかし、幕末期の天下の形勢が自分の意見と異なり、当時薩長連合の専制に強い不満を抱いた。彼は薩長打倒のために奥羽連合を提唱するなどしたが受け入れられず、その後不平士族と謀って明治政府を倒す計画をたてたが発覚し、捕われて明治三年十二月二十八日に小塚原で処刑された、二十七歳だった。
雲井龍雄が生きた幕末から明治維新は、世の中が大きく変ったときである。いつの時代でもそうだが、その主流に乗るグループと反対派との争いで流血を見ることが多い。しかしこの詩文には、そうした具体的な事件には触れず、作者龍雄自身の心象で、彼の若者特有の真面目な独走的意識が充満している。
一先ず詩文に沿った解釈を次に述べよう。『世の中の情勢についての世間の人達の意見は大変まちまちで、自分としては正義にはずれたこうした意見を、腹立たしく悲しんでいるだけではいられない心境である。従って自分は生死をかけても、こうした問題を解決すべきだと決意した。
男子と生まれたからには、自分自身の事など返り見ず、国の為に尽して名をあげることが貴く大切なのである。
平和な時代ならば、成することもなく生涯を送る英雄もあるだろう。
しかし、たとえその様なときでも国家のためには、しまってあった伝家の宝刀が、自然と鞘(さや)のなかを走って、音を立てて鳴る様なことがあるであろう』と作者雲井龍雄の心境を詠んでいる。
〈構成振付のポイント〉
前項でも述べた様に、この詩は作者の具体的な体験や事例が全く述べられてなく、従って対人関係についても何んの記述もない。
詩文の主としたものは作者の心象によるものだから、舞踊構成では、これらの詩文を抽象または具象の表現に置き変えて、作者の心の中に燃焼するイメージを創造してみよう。
まず全体を二つに分け、前段では作者が当時の情勢に腹を立て、大いに怒り狂う様子を、抽象表現で見せる。
前奏から起句にかけては、帯刀のまま扇、または拳(こぶし)を握りしめて堂々と登場、中央に立てひざで構え、刀を前に置いて、詩文からは左右に攻めと受けの議論の攻防を、身軽に、徐々に自己主張の動作を増幅する。
承句では更に燃焼(エキサイト)して、太極拳や空手(からて)的な拳の技や、体を渦巻状に回わし、前方回転などの動作で悲憤慷慨の極致を表わす。
後段からは剣技を中心にした動きで詩意をまとめる。
転句からは改まった形に戻り、帯刀した後に刀を手入れする作法を簡単に見せ、納刀した処で、敵襲のリアクションで素早く居合いの型を見せる。
結句は前句を受け、いくつかの連続した型を演じるが、最後は手負いの振りで終る。
なお史実によって捕われの形で退場してもよい。
〈衣装・持ち道具〉
幕末の志士らしく黒の紋つきに地味な袴がよい。鉢巻はあってもよいが最後はとる。
扇は銀無地黒骨がよい。
|