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'03剣詩舞の研究(六)
一般の部
石川健次郎
剣舞「涼州詞」
詩舞「芳野に遊ぶ」
剣舞「涼州詞(りょうしゅうし)」の研究
王之渙(おうしかん)作
 
〈詩文解釈〉
 作者の王之渙(六八八〜七四二)は盛唐の詩人で、長い間官職につかず民間の詩人として活躍した。ところで“涼州”とは唐の西北の国境(くにざか)いの地名で、楽府の題名でもある。従って「涼州詞」には、この辺境の地の風景や、国境警備兵の苦しさ、悲しみをうたった詩が多い。因(ちなみ)に、初唐の詩人王翰(おうかん)作の涼州詞も有名で、剣舞作品の参考になる。
 さて本題の詩の意味は、『黄河を遡(さかのぼ)った上流の、白い雲が棚引くあたりに、小さな砦(とりで)が一つ小高い山上に残されている。折から遊牧民の笛が“折楊柳”という別れの曲を悲しげに奏でているが、この辺境の玉門関までは、春の光さえ訪れないと云われているので、このような柳による別れの曲を聞いたところで、何の悲しみも起ってこない』というもの。但しこの詩で注意したいのは、何の悲しみも起ってこないと云う言葉とは反対の意味で、強烈な孤独感にさいなまれた兵士の姿が浮き彫りにされてくる。
 
山上の砦(涼州地方)
 
玉門関址と著者(左)
 
〈構成振付のポイント〉
 この作品は平成七年度のコンクール指定吟題で「詩舞」として取上げられたが、今回これを剣舞作品とするためには、剣技や兵士の振舞いなどを構成に組込むとよい。
 全体を前後二段に分け、まず前半は黄河上流の砂漠の荒野を、国境警備の兵士が馬に乗って登場。起句中頃で砂に足をとられ馬から転倒、前方一回転して立上り、ほふく前進しながら抜刀し、前方の敵情を窺う。承句からは情景描写で、高い山頂の砦に烽(のろし)の煙が上っているのを発見、しかしまたよく眼(まなこ)を凝(こ)らせば白雲の様でもあると云った兵士の心の迷いを見せる。
 後半は刀を背負ってもよく、ノイローゼ気味な孤独の男の耳に、遊牧民が吹く物悲しい別れの曲が聞こえてくる。始めはその笛の音で故郷を思い出したが、次第に気やすめの笛に耳を塞ぎ、狂った様な自虐的な動きで刀を拾い上げ(又は抜刀して)凍てついた空に刀身をかざして見上げる。
 
〈衣装・持ち道具〉
 詩文のモチーフ、登場人物を考えると、グレー系、茶系、又は黒がよいと思う。
 刀は普通だが、下げ緒の使用もある。扇は地味な配色、絵柄は抽象的なもの、古代中国の図案などを取入れても面白い。
遊牧民の吹く羌笛







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