日本財団 図書館


詩舞「西宮秋怨(せいきゅしゅうえん)」の研究
王昌齢(おうしゅうれい)作
 
(前奏)
芙蓉(ふよう)も及(およ)ばず美人(びじん)の粧(よそおい)
水殿(すいでん)風(かぜ)来って(きたって)珠翆(しゅすい)香し(かんばし)
却って(かえって)恨(うら)む情(じょう)を含(ふく)んで
秋扇(しゅうせん)を掩(おお)うことを
空(むな)しく明月(めいげつ)を懸(か)けて君王(くんのう)を待つ(まつ)
(後奏)
 
〈詩文解釈〉
 作者の王 昌齢(?〜七五六)は盛唐の詩人で「從軍行」や「出塞行」など辺塞詩にすぐれる一方、この作品のような閨怨詩にも傑作を残している。
 この詩に詠われている麗人は班(はんしょうじょ)といい、西宮(漢の成帝の太后の御所)で太后に仕える宮女で、彼女はかつて成帝の愛人だった。しかしその後、舞の上手な趙飛燕姉妹が現われて成帝の愛を失った。詩文の意味は『はすの花にもまさる美人の化粧姿、池に面した御殿に風が吹いてきて美しい真珠や翡翠の髪飾りが香るようである。しかし、いたましいことに彼女は帝(みかど)の寵を失い、秋になると扇が不要になるように打ち捨てられた事を思い悩み、その事を掩いかくすように、今宵も月の光を浴びながら、空しく帝のおいでを待っている』というもの。
 
〈構成振付のポイント〉
 一般の舞台とは異なり剣詩舞コンクールでは、衣裳・持ち道具などと、それにともなう振付に十分注意したい。コンクール審査規定では衣裳は和服、はかま着用となっているから、押し絵の様な古代中国風の衣装は使えない。又持ち道具も詩舞は自由となっているが、今回作品のテーマになっている宮女の団扇(うちわ)では和服に袴のスタイルとは不釣合なので今迄どうりの舞扇で振付を考えたい。
 次に人物設定だが、一般に男に捨てられた女の物語りでは、男の傲慢さに対する訴え、その原因になった別の女性への恨みなどと共に、本人自身が如何にして救われたか(例えば宗教などで)が述べられてきたが、この女性の場合は大変純情で、誰を恨むこともなく只ひたすら帝を待つだけだから、構成に変化をつけるためにフィクションを加えるとよい。また大まかな構成区分としては、前半が帝の寵愛を受けていた頃、後半は寵を失った現在といった分け方でもよい。次にその一例を述べてみよう。
 まず前奏から扇で晴れやかに登場、起句にかかると華麗な二枚扇で花を表現するような振と、自分の美しい容姿を誇るような演技を見せる。承句は前句を受けつぎながら風や雨などの扇の象徴振りと、体の動きが次第に重苦しい翳り(かげり)を見せ、瞬間扇を飛ばして倒れる。転句はやっと立ち上がり、扇を抱いて泣き、やがて天に向って祈る。結句は涙をはらい扇を開くと月の絵柄に変って(三本目の扇)その扇と自分の影を追うような余情を踊り、後奏で退場する。
 
〈衣装・持ち道具〉
 衣装は色や柄や衿、袖のふちに中国風なタッチをつけるのもよい。時代色を出すためにかつらひも(能の女物で使う鉢巻の一種)が効果的。扇は基本の二本と持替を使い分ける。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION