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詩舞
「短歌・白鳥(しらとり)は」の研究
若山牧水(わかやまぼくすい)作
 
 
〈詩文解釈〉
 作者の若山牧水(一八八五〜一九二八)は明治十八年、宮崎県東臼杵郡東郷村に生まれた。延岡中学時代から文学に親しみ、校友会雑誌や地方の新聞に短歌などを投稿したが「牧水」の号は中学時代から使われていた。さて早稲田大学に入ると、同窓の北原白秋と親交を深め、土岐善麿、石川啄木、窪田空穂とも交流し、また『新声』歌壇の選者尾上紫舟に師事して彼独特の感受性から、青春のかなしみと喜びをうたいあげ、その美しい調べは好評をもって世に迎えられた。
 ところで短歌「白鳥は」は若山牧水が二十二歳のときの作品で、彼の処女歌集『海の声』の中に「幾山河」などと共に掲載され、牧水の青春時代を代表するものとなった。
 さて詩文の解釈であるが、字句そのものを中心に訳せば『白鳥は空の青さにも、海の青さにも染まらずに波間をただよっていて、悲しいとは思わないのだろうか・・・。』ということになる。
 ところで当時の牧水は某女と大恋愛におちいり、「女ありき、われと共に安房(あわ)の渚に渡りぬ。われその傍らにありて夜も昼もたえず歌う」と述べた頃の作品だから、恋愛の影響も大きく、「白鳥は」の場合も、海面を飛ぶ白鳥を見ては、その白鳥に自分を想像して、人を恋することの愛(いと)しさとか、寂(さ)びしさを、海と空との間に、青く染まることもなく漂う白鳥の言い様のない不安感が、それがまた人間の恋愛感情によるものととらえたのであろう。
 
〈構成振付のポイント〉
 今回この作品が幼少年の部に割り当てられて戸惑いを感じたが、それは青春期における恋愛感情を幼少年期に置き換えることのむづかしさであった。しかし最近は、こうした人を愛することや、自然に親しむことに、子供らしい想像が割合自由に見られるので、抽象性を含めて上品にこのテーマと取り組んでみよう。
 まず、前奏から短歌一回目の前半は、二枚扇で波の動にして舞台を大きく回って登場、扇による数種の振りを見せ、後段の歌では扇を風車に回して再び舞台を大きく回る(これは逆でも可)後段の終りで扇を舞台に投げて置く(鳥が水面に浮んだ気分)。短歌二回目の変りから前段は格調高く能構えで四方に動き(扇を片付ける)。後段では扇を羽に見立てて、白鳥の羽の演技で反(そ)り身などを見せ、海上に浮んだ姿で終る。退場は後奏による。
 
若山牧水(38歳頃)
 
〈衣装・持ち道具〉
 着付も袴も、白か淡いグレー系シルバー系べージュ系で白鳥のイメージを作る。扇はブルーのパールがよい。女児は髪結びに工夫が欲しい。







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