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'03剣詩舞の研究(三)
幼少年の部
石川健次郎
剣舞「豪雄義経」
詩舞「短歌・白鳥は」
剣舞
「豪勇義経(ごうゆうよしつね)」の研究
松口月城(まつぐちげつじょう)作
 
 
〈詩文解釈〉
 作者の松口月城(一八八七〜一九八一)は「名槍日本号」「青葉の笛」「坂本竜馬」などの作詩家としてよく知られ、特に戦記に関するものが有名である。
 この作品は源氏の武将源義経の武勲を称えたもので、詩文の内容は『源平合戦の中でも特筆される寿永三年の一の谷合戦で、義経は六甲山の鉄拐の峰から平家の陣屋がある一の谷に通じる鵯越(ひよどりごえ)の急坂を馬でかけ下り、所謂「逆おとし」の奇襲攻撃で敵陣を壊滅させた。また海上に逃れた平家を義経は更に攻めたのが「屋島の合戦」で、平家の船団と浜の源氏との矢合戦は壮絶(そうぜつ)であった。逸話として義経の弓流しや、那須与一の扇の的があるが、平家は屋島をあとに西海へと落ちてゆく。
 この様な義経の超人的な戦略を平家は「鬼か神」の仕業と恐れたが、「常盤孤を抱くの図に題す」(梁川星巌作)で知られている如く、幼児の義経(牛若)は母に抱かれ、雪の大和路を逃がれたときに乳が欲しいと泣き叫んだとは、思いもよらぬことであろう。』と云うもの。
 
〈構成振付のポイント〉
 今回の詩文解釈は、構成振付の参考になるように、少々筆を走らせたが、つぎに振付の具体的な構成のポイントを細かく、然も幼少年を意識して考えてみよう。
 
鵯越の先頭に立つ馬上の義経(錦絵)
 
雪中母に抱かれた牛若(右は乙若)
 
 全体の配分としては前半は「一の谷の合戦」後半は、「屋島の合戦」と義経像を描く。
 まず前奏から起承句にかけては、役の心得として、源義経が馬に乗り先頭に立って攻める。平家物語によれば『鵯越の搦手(からめて)(裏から攻める軍勢)に廻った義経は、敵陣を見下ろす断崖に立つ。義経、鞍置馬を二匹追い落されたりければ、一匹は足折りてころび落つ。一匹は相違なく平家の城のうしろへ落ちつき身ぶるいして立ったりける』とある様に、上手から馬に乗った気分で大きく旋回して中央奥に立ったら、扇で眼下の様子を指し、納得した仕草の後、義経はまつ先に駆け下る。『大勢やがてつづけて落す。あまりのいぶせさに、目をふさぎてぞ落しける。おおかた人のしわざとはおぼえず、ただ鬼神の所為(しょい)とぞ見えたりける。』つまり鵯越の逆落しは、舞台の奥から前に進んだ方が迫力が出る。場合によっては別人に変って再度逆落しの型を演じ、着地と同時に一回転、抜刀して敵陣に斬込む。転句のイメージは平家軍が舟で海上を屋島に逃れる動作から始める。扇又は刀を櫂(かい)に見立てて、にじり足で舞台を大きく回る。途中から櫂の見立てを扇から刀に変えて平家軍から追跡する源氏となって斬合となる。この最中に扇を弓に見立てて海中に落し、刀と鞘で防戦しながらこれを拾い上げる「弓流し」の逸話を舞踊化する。最後は拾い上げた扇を胸に抱き、祈りを込めた後に、扇を兜に見立て、かぶった型で馬に乗り上手に退場する。この場合は具体的な雪中の牛若は登場しない。
 
屋島の合戦(平家の船団)
 
屋島の合戦(浜に陣どる源氏)
 
〈衣装・持ち道具〉
 コンクールでなければ、侍大将義経の衣装は金襴織がよいのだが、規定としては黒又は紫の紋付きがよいだろう。とにかく武將の品格が必要である。鉢巻、襷は使用可能である。
 扇は義経の持ち物らしく、金、銀、赤の無地か、源氏の家紋の「笹竜胆(ささりんどう)」でいずれも黒骨がよい。







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