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吟剣詩舞の若人に聞く 第46回
林綾香さん(二十六歳)●東京都目黒区在住
(平成十三年度全国吟詠コンクール決勝大会青年の部優勝)
妹:林万紀子さん
母:林煌月さん
師(父):林煌成さん(吟詠煌成会会長)
 
林綾香さん
紆余曲折の末につかんだ栄冠。
家族全員が喜びを噛みしめた
 これが初めての全国大会優勝とは思えない、根っから人前で歌うのが好き、そして明るく屈託のない性格の林綾香さん。そんな彼女の今の心境やこれからのことなどを、師であるご両親と妹さんを交えてお聞きしました。
 
昨年のことになりますが、優勝おめでとうございます。
綾香「ありがとうございます」
まずは優勝の感想からお聞かせください。
綾香「正直なところ驚きました。幼年の部から長い間出ていますが、これまで最高が二位で、初めての優勝なので思わず泣いてしまいました。」
優勝までの間の感想などはありますか?
綾香「いいかげん辞めようかと思いました(笑)。たしかに自分の練習不足もありましたが、向いていないのではと思ったこともありました。でも、今度はちゃんとやってみようと・・・」
これまでは、ちゃんとやっていなかったのですか?
綾香「はい」(大笑)
煌成「何年か前に青年の吟道大学がありましたが、あれに参加してから、本人が変わってきたように思います」
吟道大学で得るものがあったのですか?
綾香「そこに集まった人たちと、同じことをしている同士としての仲間意識が生まれ、個人的に話ができたので、そこからいろいろなことが得られましたし、優勝への意欲も一段と強くなりました」
普段はお父様である会長が教えられているのですね?
綾香・煌成「はい、そうです」
娘さんを教えることはどんなものですか?
煌成「身内を教えるのは、厳しくなるか甘くなるかのどちらかで、私は厳しい方でしたが、それが長く優勝できない理由でもあるのではないかと思いましたし、反省するところでもあります。まあ、優勝できましたので、これからは甘くしたいと思います」(笑)
綾香「よかった」(大笑)
なぜ詩吟をしようと思いましたか?
綾香「両親が詩吟をしていましたから、物心ついたときから、生徒さんたちとお稽古へ一緒に行くのが習慣になっていて、気づいたら大会などに出ていましたから、なぜと言われてもわかりません(笑)。また、小学校のときは詩吟をしていることが恥ずかしくて、コソコソやっていましたね」(笑)
娘さんの吟に対する資質はいかがですか?
煌月「小さい頃から人前で歌うのが好きなようで、病院などに行っても、この子が歌うと人だかりができて、詩吟に限らず、そういうことが好きな子でしたね」
綾香「いま妹も私もバンド活動をしていますが、歌は両親の影響で本当に好きです。歌は自分にとって一番得意な分野だと思っていますが、詩吟はなかなか自分の中に定着できませんでした」(笑)
定着できたのは、いつ頃からですか?
綾香「二十歳過ぎてからですね。十代の頃はいろいろ関心事があり、ひとつに集中できず、紆余曲折していました」(笑)
煌成「私は詩吟バカですから、そういうことがわからず詩吟をさせていましたから、本人の中で反発もあったでしょう。申し訳ないと思っています」
 
応接間でインタビューに答える、左より林煌月さん(母)、林綾香さん、林煌成さん(師・父)、林万紀子さん(妹)
 
今回、優勝できた最大の理由はなんですか?
綾香「詩吟に集中する時間が取れるようになったこと、いろんな人の吟を聞いて、自分に欠けているものがわかったこと。また、今までは、言葉の意味を理解しないで、ただ吟じていたり、落ち着いて吟じられなかったり、技術がないから通らないのではと思い、技術に走ったりしましたが、今回は基礎を念頭において、しっかりと基本的なことを踏まえて吟じたことが良かったのではないかと思います。少し自信が出てきたことも、良い結果に結びついていると思います」
自信が出てきたきっかけは何ですか?
綾香「東京で全国大会が開かれるということが大きいです。大阪などは自分としては、サッカーではないですが、アウェイに行く感覚で、精神的にプレッシャーを受けて、力が出し切れないという感じでした。ここ二年ぐらいは東京なので、ホーム感覚で気持ちにゆとりができたり、社会人になって自分から詩吟と取り組むことができるようになったりしたことが、自信につながっています」
妹さんはいつ頃から詩吟をしていますか?
綾香「同じ頃からです。これまでは妹のほうが良い成績でした」
煌成「姉のほうが、いつも泣いていました」(笑)
綾香「そのうち悔しくなって、どうして私のほうが悪いのか、そうとう考えましたよ」(笑)
煌成「技術的には姉のほうですが、いい時と悪い時の波もあります。妹は常に安定した吟をしますね」
綾香「私はチャキチャキしていますが、妹は落ち着いているという性格が吟に出るのでしょうか」(笑)
お姉さんが優勝したことについてどうですか?
万紀子「今回はよく練習していましたから(笑)、優勝するであろうとは思っていました」
煌月「小さな時から、順調にきたわけではありませんでした。切れそうな凧のようで、切れたら終わりというのが現実でしたね。完全な状態で大会に臨めることがなかなかなく、体調面や気分的なものも含めて、今日まで大変でした。大会の前などでも早く寝るということができず、そんなことから生活を変えていかなくてはなりませんでしたから、本当に大変でした」
 
トロフィーを中心に優勝を喜ぶ、写真前列左より林綾香さん、師で父の林煌成会長、後列左より母の林煌月さん、妹の林万紀子さん
 
綾香「苦労かけました」(笑)
煌月「結果が出たことは嬉しいのですが、それにも増して、辞めないでやってきたことがなによりです。この経験は、これからも決して無駄にはならないと思います」
ここまで詩吟をしてきて、いま総括をするとしたらどうなりますか?
綾香「ひとつのことを続けられることは、自分にとってプラスですし、詩吟を通じて知り合った方々との交流は大切なことだと思っています。伝統芸能ということで、自分が次の世代に詩吟を伝えたほうが良いのではとも思えてきましたので、自分自身の向上を含めて、がんばりたいと思います」
余談ですが、バンドでは何をしているのですか?
綾香「ボーカルです。できればメジャーに進みたいと思っています(笑)。詩吟をしているアーティストってカッコよくありませんか」(笑)
ボーカルが詩吟に役立つことはありますか?
綾香「もちろんあります。音感がよくなり、音のズレもわかりますし、音程も安定し、ちょっとしたミスがなくなりましたね」
ご両親から、綾香さんへアドバイスなどはありますか?
煌成「まだ上がありますが、日本一を取ってくれたことを一区切りとして、まずゆったりとして、それから詩吟に取り組んでくれたらと思います。これからは安定して詩吟と取り組めると思いますし、これをきっかけとして、ずっと続けてくれることを願っています。若い人たちがしてくれなければ、詩吟も駄目でしょうから」
煌月「子供もがんばったけれど、親もがんばったなというのが正直な感想です(大笑)。これで満足することなく、出場の機会を与えていただければ、がんばって欲しいと思います。出場の機会を大切に、積極的に詩吟と取り組んでください。とにかく続けることが大切だと思います」
万紀子「姉だけでなく私も含めて、東京の詩吟をもっとアピールしたいと思っています」
最後に、綾香さんから一言お願いします。
綾香「これまで苦労かけまして、ありがとうございます(笑)。優勝したので、これまでのことは、ひとつチャラということでお願いします」(大笑)
今日はインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。詩吟に歌に、全力でがんばってください。期待しております。
 
林綾香さん
 
綾香さんの優勝を喜ぶ林さんご家族。(写真前列左より林綾香さん、師であり父の林煌成さん、後列左より母の林煌月さん、妹の林万紀子さん)







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