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詩舞
「胡隠君を尋ぬ(こいんくんをたずぬ)」の研究
高啓(こうけい)作
 
 
〈詩文解釈〉
 作者の高啓(一三三六〜一三七四)は元(げん)の末から明(みん)初期(我が国の南北朝時代)にかけての詩人で江蘇省蘇州近郊、即ち江南地方の出身である。彼はこの地の水郷をこよなく愛し、その情趣を多く作品に取上げた。
 さて詩文の意味は『あちらで川を渡り、こちらでまた川を渡る。そしてあちらで花を眺め、またこちらで花を眺める。このように心地よい春風の吹く川のほとりを歩いているうちに、いつのまにか君(胡隠君)の家にたどりついてしまった』というものである。なお胡隠君とは、胡という姓のご隠居(いんきょ)さまの意味で、現代で云うならば定年もすぎ、俗事をはなれて悠々自適の生活をしている人であろう。
 
〈構成振付のポイント〉
 作者がこの詩を詠んだのは三十代中頃とされているが、さて彼が訪ねた相手(胡隠君)との関係や年齢などが全くわからないから、舞踊構成の上では訪ねる人を含めて、独自の想定のもとで、起句から転句までは詩文に従って春の景色を讃え、結句は春風の如く飄々とした情感を現わすことにすればよい。
 但し、本課題曲を今回は幼少年向と指定している関係から、出演する演技者に相応しい登場人物を設定すると云った考え方も大切な要因である。そこで以下発想を転換して、主役は幼少年の男児又は女児とし、彼等が隠居している祖父を尋ねることにしてみよう。
 例えば前奏から起句の前半は川の流れを扇で見せ、後半は川を舟で渡る子供自身の動きを見せる、勿論扇による櫓(ろ)の見立などで舟の中の振りを見せるとよい。承句の前半は花を見つけて花を摘み、後半は扇で花そのものの開花の様子を、例えば二枚扇の手法や色柄の持ち替えで情景の色彩変化も見せたい。転句は花びらが舞うと云った情景を風の表現に取り入れ、舞台を大きく移動する三人称的な振りでアクセントをつける。結句は無心にはしゃいでいた子供が、ばったりと祖父に出合い(又はぶつかりそうになって)、慌てて挨拶をして士産の品や摘んだ花を差し出し、女児なら祖父に舞いを少し見せて別れを告げ、再び舟に乗って退場する。結句は登場人物を子供にしたため少々意釈を試みたが、皆さんも詩心を損なわない範囲で研究してみて下さい。
 
江南水郷(イメージ画)
 
〈衣装・持ち道具〉
 春の情景にふさわしい、そして子供らしい気分の衣装を選び袴との色の調和を考える。扇は前項で述べたような見立ての使い方が多いから、水色、黄色、淡いピンク系などで無地または霞模様などがよい。







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