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'03剣詩舞の研究(二)
幼少年の部
石川健次郎
剣舞「日本刀」
詩舞「胡隠君を尋ぬ」
剣舞
「日本刀(にっぽんとう)」の研究
大鳥圭介(おおとりけいすけ)作
 
 
〈詩文解釈〉
 この詩の作者の大鳥圭介(一八一七〜一九一一)は赤穂の医者の家に生まれ、旧幕臣として蘭学・兵学を修め戊辰(ぼしん)戦争では榎本武揚らと五稜郭にたてこもったこともあったが、明治新政府のもとでは外交家として活躍し、また教育にも尽力して学習院院長等をつとめた。
 ところで大鳥圭介がこの詩を詠んだ背景には、幕末の動乱期を戦って来た武人としての日本刀に対する賛美の気持と、共に戦場をかけ巡ってきた日本刀への愛着が強烈に感じられる。
 さて詩文の意味は『日本刀を作り上げるまでに、刀鍛冶(かたなかじ)は何百回となく鋼鉄(はがね)を火で熱しては打ちきたえ、そして研ぎだす苦労を重ねたことであろう。だから刀身には少しの汚れもなく、玉の様に澄み、霜の様に光った見事な業物(わざもの)になった。この様な日本刀だからこそ、鋭い切れ味であることは疑う余地もなく、そしてこの日本刀によって世の中の乱れが正されて来たのである』というもの。
 
〈構成振付のポイント〉
 この作品も幼少年には少々難解であろうが、それと云うのは日本刀に対する現代人の意識の変化によるものであろう。
 
「鍛冶師」
 
 かつて日本刀に対する逸話には、兜(かぶと)を真っ二つに割った話とか、敵陣に突撃した将兵が相手の機関銃を切断したなどと云うものがあって、日本刀の恐怖感とも神秘性とも考えられるものがあった。
 この詩文ではその様な具体的な事例はないが日本刀賛歌の精神が強く流れているのは、作者の見識として彼が教育者でもあったからであろう。詩の前半では特に錬磨された日本刀を見る眼に、教育者として人間育成に相通じるものが感じられるから、こうした精神面も構成に含ませたい。
 ところで刀を製作する過程は“鍛冶師(かじし)”によって素材の鉄を真赤に熱し、大小の槌(つち)で打つダイナミックな作業をくりかえす。これには火勢を盛んにする“ふいご”の操作も大切であり、又形が出来上ると“研師(とぎし)”によって磨き上げ刃付けをする作業に分けられるが、両者とも“勘”と“熟練”を必要とする。従って振付にはこれ等の動作を巧みに取り入れるとよいが、例えば能や舞踊の「小鍛冶」などでは挿絵「鍛冶師」に描かれた様な動作がリズミカルに演じられるので参考になるだろう。
 
「研師」
 
 さて後段では、作者の人物像を含めて、武人の気迫を表現すれば、特に結句で世の中の乱れた事件(作者は五稜郭の戦いを意としている)を具体的に表現する必要はないであろう。
 さて以上を考え併せて全体をまとめてみると、まず前奏では無念無想に刀剣を捧げて登場する。起句は幾通りもの振りが考えられるが、一例としては鞘つきの刀剣を、槌(つち)に見立てた扇で打ち、次の承句で抜刀し研磨の動作と、その美しさを讃える剣の型を見せる。さて転句は日本刀の偉力を見せるため、前述したような、兜や銃を切断した逸話を含めて、迫力ある斬り付けの型を中心に山場(やまば)を作る。結句は前句を発展させた剣技を見せてきまる。後奏による退場は、帶刀しないで登場と同じように捧げ持ちして、題名の日本刀を印象づけたい。
 
〈衣装・持ち道具〉
 衣装は黒紋付きが最適だが、白又は紫でもよい。扇は振りによるが、小槌や兜などの見立てに使うなら、白無地茶骨(溜め塗り)などがよい。







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