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吟詠・発声の要点 第六回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
 今回から各論に入ります。総論では考え方の基本と、それぞれの芯になるところだけを記しましたが、各論では初心の方にも理解できるよう、解りやすく説明することに主眼を置きました。
 掲載する順序は総論と多少変わりますが、一回目は「姿勢」です。
(1)姿勢
 これから、ある吟題を吟じ始めようとするとき、準備として大事なのは精神の集中、そして″姿勢″である。(立って吟じる場合を中心に進める)。
 一番よい姿勢とは−
(1)声(よく響く声)を出しやすい
(2)呼吸を思うように(コントロール)できる
(3)安定していて、見た目に美しい(礼に適っている)
(4)身体に余分な負担をかけない(疲れにくい)
 の四点を満たした姿勢ということができる。それぞれの説明が、頭の中で一応解っても、それを自分の体に覚えこませ身につけるには、かなりの練習量が要ると思っていただきたい。これらができて初めて重心が定まったよい姿勢が備わることになる。この四点の中身はお互いに関連し、重なり合っているが、整理しやすいように分けて考えてみよう。
 
(1)声(よく響く声)を出しやすい
 四つの中でこれが最も難題だと思われる。何故なら、よく響く(共鳴する)声は力が入りすぎて硬くなった筋肉からは生まれない。その半面、姿勢を保つためと、声量を維持するために、筋肉には適度の緊張感が必要で、しかも力強さが度々要求される吟詠では、腹筋や括約筋などにかなり強い力を入れざるを得ない。こうした一見相反することを同時にやらなければならないからである。
 声を出すときの身体の様子については″発声″の項で触れるとして、それまでに先ず、余分な力が入らない姿勢をとらなければならない。
 最初に考えるのは、声が作られて大きく育つ場所、つまり首、喉、口、鼻、頭の部分などの筋肉に余分な負担や緊張をかけない姿勢について。
 一口で言えば上半身をどのように保つかだが、身体の上から順に−
−かなり重量がある頭を、首の骨と筋肉で支えているのだから、(普通の状態で、首の骨は前方に少し傾いている)頭が必要以上に前後に傾くとそれだけ首の負担は重くなる。筋肉は余計に緊張するので硬くなり、声帯やその周辺に、よくない影響を与える。また、声が通る道を広く保ち、喉、口の中の共鳴と、鼻の中(鼻腔)の共鳴をバランスよくする意味から、頭を前傾しすぎても、後ろへ倒しすぎてもいけない。
 「頭のテッペンから糸で引っ張り上げられている感じ」という言葉が参考になると思われる。(これは次の、背筋を真っ直ぐに、の項でも通用する)
 〔試してみる〕初めに頭をやや後ろへ倒し、「アーー」と声を出しながら頭を少しづつ前へ戻し、声が最もよく通り、首に負担をかけない場所を探して覚えるとよい。
 肩・胸・両腕−「姿勢を正して」というと肩をそらせ、胸を張る。吟詠のときは″過ぎたるは及ばざる″を思い出していただきたい。つまり、肩は前かがみにならない程度に張り、吊り上げない。胸は張るというより肺が膨らみやすいように、ゆとりを持たせる感じ。先に記した ″頭のてっぺんから、糸で引っ張り上げられている感じ″で、背筋を真っ直ぐにしてみる。
 〔試してみる〕丁度よい肩の張り具合をつくる一つの方法として・・・(ラジオ体操・深呼吸の一つの型と同じ)下げた両手を体の前を通って上へあげ、今度は横を通って静かに下ろし、肩の力を抜く。その状態が″張りすぎず、上げすぎず″に近い。
 両腕は白然に下へ下ろすが、胸を圧迫しないための一つの工夫として、両脇の下に卵を一個挟んだ感じで、卵を潰さず、落とさず、体側との間にゆとりを持たせる。
 こうした姿勢を保つために、初めはどこかの筋肉に硬さを感じるかもしれない。慣れるに従って、ごく自然にできるようになる。上半身で筋肉が強く緊張したり、緩んだりする場所は、声帯を調節する筋と、呼吸するための筋(別項目で詳述)だけで、あとは、しなやかな状態を保っていたい。
 腰・足−上体の重量を支えると同時に、声の支えをするのが下腹の筋肉と腰であり、さらに足がそれを支えている。腰は、頭、背筋から受ける重みを無理なく、腰の中心で受け止められるよう、引きすぎないことが肝心。(別項で詳述)両足の間隔は肩幅かやや狭いくらいが標準。爪先は女性はやや前つぼみ、男性は平行か、やや前開き。本来は男女とも前つぼみを勧めたい(それにより、尻の筋肉が柔軟になり、音質に豊かさが出る)が、外見上、男性らしさに欠けるきらいがある。
 膝の関節は伸ばすが、踏ん張る感じでなく、いくらかゆとりがある程度。
 
(2)呼吸が思うようにできる
 腹式呼吸の項で詳しく記すが、姿勢として気をつけなければいけないのは、腹を前へ出しすぎないこと。胸郭のあたりを、ふくよかに、肩を上げず、背中の三角の骨・肩甲骨を中心に寄せすぎずに保つ、の二点くらいで、あとは他の項目と重複する。
 
 椅子に腰掛けた姿勢
 稽古の時など、椅子に腰掛けて吟じることもあるので、そのときの注意点を挙げておく。
(ア) 椅子の高さは、上体、膝、下肢がそれぞれ直角、あるいは膝頭が少し下がる程度。腰が低くなるのは、胸、腹を圧迫するのでよくない。
(イ) 上体は″頭のテッペンから糸で吊り上げられているように″真っ直ぐさせるため、背もたれに寄りかからず、(前述した)共鳴と呼吸によい状態を保つ。
(ウ) 足裏は床面にしっかりと着け、腰の安定を図る。
 







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