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1. 研究の目的
我が国の造船業は、厳しい国際競争に勝ち抜くために、次のような要件を満たす新しい造船工場に変革する必要がある。
(1)現状の工場においてさらなる生産性の向上
(2)製造コストの低減を図り、高品質生産の維持を指向
(3)高精度生産技術を工場全体に定着させ「むり、むら、むだ」を徹底排除
これらを実現するためには、数値情報処理技術を駆使したデジタル生産技術を造船現場に投入し、従来にない造船の高精度生産技術を確立する必要がある。造船現場に必要なデジタル生産技術を開発するためには、
(1)高精度な加工及び組立のための、船殻部材及びブロックの加熱変形推定技術と加熱変形制御技術の確立
(2)熟練技能者の作業知識の理論化または簡便な数値化及び数式化によるデジタル変換技術の確立
(3)各製造段階における部材の寸法形状を把握するための、熟練技能者の目に変わる三次元計測技術の開発
(4)上記1)〜3)項の技術を融合した数値情報処理技術の開発
が必要と考えられる。
造船は部材の剛性が低く、温度変化に対してもブロックが変形しやすい特徴を持つため、高精度に部材を加工し、ブロックを組立てることが、高精度生産技術のキーとなると考えられる。特に、剛性の面から精度確保が困難な工程は、外板に骨材などの内構材を組立てる中組作業であると考えられる。
造船現場では、曲がり部ブロック製作工数が、平行部ブロック製作に比べて単位重量当たり約3倍掛かると云われているため、造船のネック工程は曲がり部ブロック製作であると思われる。従って、曲がりブロック製作を高精度に行うことがネック工程の解消につながり、造船の生産性を大幅に向上させるものと考えられる。
本研究部会では、平成12年から3年間にわたって、「船殻ブロックのデジタル生産技術の基礎研究」を実施し、精度確保が困難な曲がり部ブロックの製作の中での曲がり加工から中組立までに至る、各ステージにおける高精度で高効率に加工・組立を行うためのデジタル生産技術の活用方法について検討した。特に、デジタル化にあたっては、現場ノウハウであるナレッジ(作業知識)を抽出し、得られたノウハウをデジタル化する試みであるナレッジ・エンジニアリング手法について取り組み、我が国の強みである造船の熟練技能の技術伝承の方法についても検討した。
本研究では、曲げ加工から中組立作業までを対象にデジタル生産技術の実現を図り、従来にない造船の高精度生産技術を確立するために、従来の作業者に依存した作業を技術的に理論化、体系化することにより、暗黙知であった作業知識を形式知化して明確化することで、デジタル化に必要なモデルの構築を検討するために、現場の現状調査を実施することにし、得られた知見を基にデジタル化を試行することで研究を進めた。
現状調査にあたっては、工場や作業者毎に作業の考え方が違うため作業者の言葉を我々技術者が理解できるように変換する必要があると考えた。そこで、技術者による文献調査、アンケート調査、ヒアリング、IEを取り入れた現場観測を実施し、暗黙知の形式知化を図り、その後、熟練技能者との討論会を実施して作業者と熟練技能者との作業知識を共有化することを試みた。
(1)板曲げ加工の現状調査結果
・曲げ加工の約7割〜8割近くが椀(皿)型の加工であり、椀(皿)型加工の自動化が出来れば、造船工場にとって効率化が図られることが分かった(図2.1−1)。
・板曲げの上流工程である現図展開との関係から、原理的には現図展開と板曲げは逆変換の関係にあり、展開時の伸ばし量が板曲げ加工時の収縮量になることが分かった。
(2)ロンジ曲げ加工の現状調査結果
・ロンジ曲げ加工のネック作業を調査した。その結果、ネック作業は捩れ加工であり、タンカー1隻当たりのロンジ曲げ加工の工数内訳の内、捩れのある加工が約8割強となることが分かった(図2.1−2)。
(3)中組立の現状調査結果
・工作精度から見た変形要因は、主に人為的因子、設備・機械的因子、施工的因子、部材的因子があることが分かった(図2.1−3)。
・中組ブロックには、ローラ芯とロンジ方向が異なる非対称の曲がりのあるブロック等、船首尾部分に、常に精度が悪くなるブロックがあることが分かった(要管理ブロック)。
図2.1−1 板曲げ加工形状の割合
図2.1−2 ロンジ曲げ加工工数
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図2.1−3 工作精度FTA図
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