日本財団 図書館


国家運輸安全委員会
プレジャーヨットMorning Dew号沈没事故
海難事故報告書(抜粋)
結論(Conclusions)
1. 船舶の船体、船体設計、主エンジン、燃料および燃料系統のいずれも事故の一因となったり、事故を引き起こしたりするものはなかった。
2. 事故当時、操船者と3人の乗客のいずれも薬物の使用はなかった。乗客の中に酒気を帯びた者は1人もおらず、操船者の検死鑑定と毒物検査結果は、死後のアルコール生成と一致していた。
3. 沿岸警備隊の監視員も、運航当直士官も当該事故当時疲労状態にはなかった。
4. Pearl Ace号(救助の叫び声を聞いた自動車運搬船)の船長と甲板長、そしてチャールストン港の水先案内人と通信指令係は当時の状況下で適切に行動し、海から叫び声が聞こえたとする沿岸警備隊への報告は時宜を得ていた。
5. Palmetto State号(Pearl Aceに先航していたパイロットボート)の運航者は、できる限りの範囲において海難事故で発生したかもしれない犠牲者を探索した。その探索は失敗に終わったものの、時宜を得た適切なものだった。
6. ウィンヨー湾を通る内陸大水路(ICW)のルートはICW海図や航行援助装置に記されており、それらを正しく使う船乗りであれば誰でもICWのルートを認識し、それに従って湾を通過することができるはずである。
7. 安全委員会は、Morning Dew号の操船者が内陸大水路からそれたのは故意によるものか、過失によるものかを見極めることはできなかった。しかし、操船者はある時点において船舶を海に出す意識的な決断を下している。
8. Morning Dew号も、操船者も、乗客のいずれも外洋に出ていくための十分な準備をしておらず、そのための装備も整えていなかった。したがって、遠洋航海を試みるべきではなかった。
9. 航行時間約13時間のうち9時間を海上で航行した後、Morning Dew号の操船者はおそらく自分の位置を正確に把握する判断力や能力が著しく低下するほど疲労困憊であり、また低体温状態にあったと思われる。
10. Morning Dew号に乗船していた操船者と3人の乗客全員は、おそらく北側防波堤との衝突はなんとか回避したものと思われる。
11. 監視員が、Morning Dew号からの0217遭難信号の聴取位置、時刻、天候など周辺状況を正しく分析していれば、その無線記録を再生することに思い至り、その連絡の本質を見極めることができたかもしれない。
12. Pearl Ace号の甲板長が報告した救助要請は、Morning Dew号の1人または複数の乗員からのものだった可能性が非常に高い。
13. Group Charleston号(USCG)の運航当直士官は、海上から救助要請があったという報告に対し何の行動も取らなかった時点で、明白な海難事故の状況をなおざりにした。
14. 0217遭難信号を受信した監視官、ならびに0628通話を受けた運航当直士官は、使用可能な手段があり、それを利用していればMorning Dew号の事故に対してより時宜を得た対応をすることができたはずである。
15. 沿岸警備隊の捜索活動は開始が遅れたものの、活動は適切であった。
16. 沿岸警備隊の捜索救助隊が当該事故のあらゆる状況について認識されていたならば、捜索救助活動が成功するために必要な一連の要素についての認識を高めることができたかもしれない。
17. 当該事故を取り巻く状況についての情報が普及することによって、他の船乗りたちはこのような不必要な冒険を試みることをしなくなり、ひいては将来似たような悲劇の発生を防ぐことになるだろう。
18. 当該事故を受けて発足した緊急司令システムに沿岸警備隊が参加しなかったため、沿岸警備隊の事故後の活動は他の緊急事態対応者の活動とうまく連携が取れていなかった。
19. 沿岸警備隊は、Morning Dew号の事故に関するすべての捜索救助関連情報をサウスカロライナ州天然資源局に直ちに提供しなかったという過ちを犯した。そして、情報提供を受けなかったために同局の事故調査は円滑に行われなかった。
20. 捜索救助情報の発表に関する沿岸警備隊の新しい基準は、そのような情報の公表を差し控える条件の特定や制限を設けていないため、正当に権限が与えられた機関や個人に関連情報が提供されない可能性が依然として残る。
21. ボーティング事故(boating accident cases)における沿岸警備隊と州との間の効果的な連携を実現するためには、沿岸警備隊とそうした事例を管理する州との間の取決めを定期的に共同で見直し、更新して最新のものとし、適当な立場の者がその内容を知っていなければならない。
22. 沿岸警備隊の通信センターにおける安全性と業務を向上させるための施策は、効果的な解決策として、ただ職員の配置というだけでなく、監視官の仕事内容、交替勤務時間の長さ、交替勤務のローテーションといった体系的な検討が必須である。
23. 経験の浅い無線監視官に、正式な学校教育の場や実務訓練中に教わっていることを実践し、熟練者レベルに達するまでに自分の知識や技能を定期的に発揮できるような機会が十分に与えれば、沿岸警備隊の捜索救助交信活動にとって利益となるだろう。
24. 分析に基づく意思決定力の向上を目指した特別トレーニングにより、沿岸警備隊監視官が、公共の安全に影響を及ぼす事柄について適切な判断を下すことができるようになる可能性がある。
25. 監視官と当直士官の業務は、沿岸警備隊通信センターにおいて、無線交信記録と電話の会話記録を定期的に調べ直すことを含む効果的な管理監督プログラムを設けることによって改善することができるであろう。
26. 沿岸警備隊通信センターの行動態勢には改善の余地があり、定期的な行動態勢監察により業務が少しずつ低下するのを防ぐことができるであろう。
27. 無線交信を即座に再生する機能があれば、無線監視官の任務遂行に役立ち、ひいては沿岸警備隊の捜索救助活動の有効性を高めることができるであろう。
28. 沿岸警備隊が遭難連絡に効果的に対応する、そしてその結果救命するという能力は、かかってきた電話の位置を特定する方向探知(DF)システムの設置やDFデータを記録、検索、点検する機能によって大幅に改善されうる。
29. 監視官が職務を遂行するために必要な機材は、作業の実施を容易にし、過失や不作為の可能性が最小限になるような形で設置されなければならない。
30. Group Charleston号およびGroup Mobile号にある海軍水上戦センターのカーデロック(Carderock)研究所によって明らかにされたものと類似した問題が、国内の他の沿岸警備隊グループにおいて存在する可能性がある。
31. 職員(personnel)に対する沿岸警備隊の薬物・アルコール検査手続きは、職務遂行能力が事故につながる可能性がある職員(personnel)に対する検査が、すべてのケースで規定されているとは限らず不十分である。
 
推定原因(Probable Cause)
 国家運輸安全委員会は、レジャー用帆船Morning Dew号の沈没の推定原因は、操船者が外洋を航行することの既知のリスクを正しく判断し、そのための準備を行い、それに対応できなかったことにあり、その結果チャールストン港入口の防波堤に衝突したことにあると判断する。この事故で命が失われた一因として、捜索救助活動を開始するにあたって米国沿岸警備隊の対応が標準を下まわっていたことにある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION