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資料3−1
米国沿岸警備隊
ばら積み貨物船Bright Field号衝突事故状況調査報告書(抜粋)
VI. 結論(Conclusions)
1. この事故の直接原因(proximate cause)は、主軸受に対する主機関の潤滑油の油圧が下がり、その結果として主機関がトリップし、推進力と舵効速度が失われたことにある。回転数低下、面舵一杯、後進プロペラ回転最大という一連の現象が、いずれも舵が制御できる水流量を減少させ、水力学的な失速を引き起こし、水先人と船長がBright Field号の制御を立て直す妨げとなった。
2. 主機関がトリップするに至った状況(すなわち主軸受に対する潤滑油の油圧低下)ゆえに、船長も機関長もこれを回避して推進力を保つための措置を講じることはできなかった。
3. 主軸受に対する潤滑油の油圧低下は、潤滑油に大量の微粒子が含まれていたために第二潤滑油フィルターが詰まったこと、そして潤滑油に気泡が混入したために潤滑油ポンプが圧力を維持できなくなったことが重なり発生した。
4. 衝突の直前に、主機関がトリップしたのではなく、自動的に減速したという機関士の証言を裏付ける証拠はない。
5. 第二主機関の潤滑油ポンプが待機モードになっていなかったことも事故の寄与原因である。そのため、ポンプは自動的に始動せず、自動トリップの設定ポイントよりも潤滑油の油圧を高く保つことができなかった。第二主機関の潤滑油ポンプは、機関士の一人が手動で始動させた。しかし、事故の後で行った圧力スイッチ試験によれば、たとえ第二主機関の潤滑油ポンプが待機モードになっていたとしても、自動的に始動しなかった可能性がある。
6. 潤滑油ポンプの油圧センサーの較正(calibration)が不適切だったため、潤滑油ポンプの油圧が落ちていて、主機関のトリップが迫っていることをテラサキ製の監視警報システムが機関室にいた機関士たちに警告できなかったことも事故の寄与原因(contributing cause)である。
7. COSCO(中国遠洋運輸総公司 China Ocean Shipping Company)および船舶の乗組員が、主機関の以前から(少なくとも6ヶ月前から)存在した問題に適切に対処せず、そのために潤滑油に大量の微粒子がたまったことも事故の寄与原因である。
8. エンジン・メーカーが定めた粘度および水分含有量の規格を満たしていなかった潤滑油を継続して主機関に使用していたこと、および潤滑油の微粒子汚染が著しく進行していたことは、技術装置の運転が不適切であり、保守が不十分であったことを示している。
9. 事故発生時にmain engine sumpに潤滑油が少なくなっていたことも事故の寄与原因である。main engine sumpの潤滑油が減ったことを知らせる警報機は作動可能な状態にあったが、通常の警報作動点に達しても警報を発せずに運転できるように調整されていた。
10. COSCO(中国遠洋運輸総公司 China Ocean Shipping Company)とDNV(Det Norske Veritas:ノルウェー船級協会)が、この船舶のオートメーション・システムが正常に機能するようにできなかったことも事故の寄与原因である。COSCO(中国遠洋運輸総公司China Ocean Shipping Company)は、オートメーション・システムの保守と検査を行うという、船舶の運航者としての自らの責任を放棄し、DNV(ノルウェー船級協会)が行う調査を通し、オートメーション・システムが正しく作動していることの確認をDNV(ノルウェー船級協会)に頼った。同様に、DNV(ノルウェー船級協会)はCOSCO(中国遠洋運輸総公司China Ocean Shipping Company)が積極的な保守や検査を行うための要件を省くことを許した。
11. 第二潤滑油フィルターの油圧差警報機が適切に作動しなかったことも事故の寄与原因である。すなわち、衝突の際に油圧差が正しい設定値である0.9kg/cm2よりもはるかに高い、少なくとも1.3kg/cm2に達するまでそれは作動せず、その結果として船舶の機関士たちはこの危険な状態への注意を喚起されなかった。
12. 投錨したとしても、船舶の速度への影響はわずかであったと思われ、投錨しないという決断は衝突において大きな役割を果たしていない。
13. 検査した警報チャンネルに対するテラサキ製WE3監視システムのプログラミング(主に警報の設定ポイントと時間遅延)は、おおむねメーカーの設計や仕様と合致していた。警報チャンネルのプログラミングが適切でなかったことが事故の寄与原因となったという証拠はないが、システムがプログラミシグの変更を記録できておらず、センサーの較正記録(calibration records)が存在しないため、不適切なプログラミングが事故の寄与原因であるという可能性を完全に拭い去ることはできない。
14. 水先人と船舶の乗務員の連絡はうまくいっており、乗務員の一次言語が英語ではなかったことがこの事故の寄与原因とはなってはいない。
15. 推進力が失われる前、水先人と船長は、一般的な状況で船舶の制御を維持するのに適切かつ必要な速度を保っていた。
16. 水先人と船長の行動は、当時の状況から見て妥当であった。Bright Field号が、付近に係留されていた客船ではなく、埠頭に衝突したのは偶然的であった。
17. 海上人命安全条約(SOLAS条約)規定は、定期的に無人となる機関室のためのオートメーション設備を装備した船舶に対し、その船舶の国籍のある国の政府または船級協会が承認した船上総合オートメーション検査手順を備えておくことを特に義務付けてはいない。
18. SOLAS条約規定は、定期的に無人となる機関室のためのオートメーション設備を装備した船舶に対し、オートメーション・システムの自動減速または自動停止機能に対するオーバーライド処理の使用、ならびにオーバーライド機能の使用に関する定期的な研修や訓練の必要性に対応するための標準業務手順書を備えておくことを特に義務付けてはいない。
19. SOLAS条約規定は、VER(Vessel Event Recorder)を装備することを特に義務付けてはいない。Bright Field号にVERが装備されていたとしたら、Marine Boardの事件の順序に対する理解、ならびにBridge Resource Managementがこの事故で果たしたであろう役割を著しく高めていただろう。
20. 機関室に人を配置することを義務付けるCOSCO(中国遠洋運輸総公司China Ocean Shipping Company)の方針は、主機関がトリップした後で推進力を回復させるために迅速かつ効果的に行動する結果につながった。
21. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)164は、タンカー以外の船舶が制限水域または操船水域にいる時に機関室に人を配置することを義務付けてはいない。
22. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)164.11(k)は、エンジニアリング・オートメーション・オーバーライド機能の使用可否、およびそのための手順を水先人に伝えることについての要件を定めていない。
23. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)164.11(o)は、船舶がアメリカの可航水域を航行中に錨の詳細(anchor details)が必要とされるかどうかについて明示していない。錨の詳細(anchor details)の要件に関する国の方針はそれ以外に公表されていない。
24. 1996年12月14日に主機関の問題を示す警報は鳴っていない。
25. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)164.258(a)2は、定期的に無人となる機関室のためのオートメーション設備を装備した船舶に関するSOLAS条約第II章1項パートEによって義務付けられている機能拡張警報機(extension alarms)が、出発前に試験すべき警報機に含まれるかどうか明らかにしていない。
26. 沿岸警備隊のポート・ステート・コントロール船上点検には、船舶のエンジニアリング・オートメーション・システム、またはこれらのシステムに関係する訓練や保守の記録の検査は通常含まれない。
27. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)164.33は、船舶の技術系統に関係する試験手順、マニュアル、その他の文書を搭載する要件を含んでいない。
28. 第33連邦規則集(33 Code of Federal Regulations)165.810は、規制航海水域を航行する船舶にGovernor NichollsまたはGretnaの灯台オペレーターに連絡を取るためにVHF−FMの67チャンネルを使用することを特に義務付けていない。
29. 高性能VTS(Vessel Traffic Service)システムがあっても衝突を防ぐことはできなかったであろう。しかし、沿岸警備隊の灯台オペレーターが取った迅速かつ効果的な行動は、このような事故の影響を緩和するためにVTSシステムが果たすことのできる役割をはっきりと示している。
30. 現在のところ、沿岸警備隊の海洋安全情報システムに入っている船舶事項記録へ容易にアクセスできる手段がない。







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