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資料2−2
国家運輸安全委員会
水陸両用客船Miss Majestic号 沈没事故
海難事故報告書(抜粋)
 
結論(Conclusions)
 
調査結果(Findings)
1. 保守係が耐水性のrubber bootを止める止め具をしっかり止めていなかったため、最初に、driveshaftとshaft housingの隙間から浸水した。

2. Miss Majestic号 が沈没したのは、DUKW(ダック:水陸両用車)に耐水性の防壁や予備浮力装置がなかったため、また、強力な排水能力を持つように設計されたヒギンス・ポンプが作動しなかったためである。

3. Miss Majestic号 のキャノピーが大きな障害となり乗客の死亡につながった。

4. Land and Lakes Tour社の船舶保守は長年不適切な状況にあり、それが直接Miss Majestic号 およびその乗客の安全を損なうこととなった。

5. Miss Majestic号 に対する沿岸警備隊の検査計画はずさんで不適切なものであった。

6. 沿岸警備隊がDUKWの検査に対する指導や研修を行わなかったために、Miss Majestic号 の検査が充分に行われなかった。

7. 特殊な水陸両用船の保守や検査、運行を改善するため、業界ならびに沿岸警備隊の検査官は、あらゆる種類の水陸両用船の一般的基礎情報や安全に関する特有の問題について精通する必要がある。

8. ブートの不具合、船体プラグの隙間、船体の損傷、衝突、座礁、機械系統の不具合、保守の不備その他により、予備浮力装置(reserve buoyancy)の無い水陸両用船には、短時間で浸水・沈没する重大な危険が依然としてある。

9. 浸水時に浮揚状態を維持できない水陸両用客船の場合、天蓋(canopies)が乗客の安全にとって大きなリスクになる可能性がある

10. 天蓋(canopies)が取り外されている場合、船が水没する前に救命衣を着用していれば、適切な予備浮力装置が無くてもDUKW上の乗客の安全は増す。

11. 天候、薬物の服用や飲酒、運航者の疲労は、Miss Majestic号 沈没とは関係がない。

12. 今回の事故の状況を見る限り、運航者は死亡事故にいたる結果を回避または緩和する措置を講じることはできなかった。
 
推定原因(Probable Cause)
 国家安全運輸委員会(NTSB)は、Miss Majestic号 の如何ともしがたい浸水と沈没について考えられる原因は、「Land and Lakes Tours社(船主)によるDUKWの修理および保守が不適切であったこと」と判断する。沈没の寄与原因は、DUKWを客船に転用した時の設計の瑕疵、すなわち、浸水しても船が浮いていられるような適切な予備浮力装置が無かったことにある。Miss Majestic号 が危険な状態になった寄与原因は、沿岸警備隊の監督不充分にある。多数の人命が失われた寄与原因は、天蓋の屋根がそのままになっていて、沈没する船の中に乗客が閉じ込められたためであった。
 
勧告(Recommendations)
新しい勧告(New Recommendations)
 
米国沿岸警備隊ならびにニューヨーク州知事とウィスコンシン州知事に対して
 
 水陸両用客船の運航者に対し、防水区画やビルトイン式の浮上装置、またはそれに相当する措置などのpassive手段を用いた予備浮力装置を整備することを義務付け、定員数の乗客・乗員が乗船している時に浸水しても、真っ直ぐに浮いているようにすること。(M−02−1)
 
 船主が水陸両用客船に充分な予備浮力装置を整備し、定員いっぱい乗船している時に浸水しても真っ直ぐに浮いているようになるまで(M−02−1)、以下を義務付けること。
 
 水上運行時に天蓋を外すか、または沈没時に横方向の避難も縦方向の避難も妨げない、沿岸警備隊認定の天蓋を取り付けること。
 
 不必要なアクセスプラグは常時閉じ、必要な全てのthrough-hull penetrationを運行に必要な最低のサイズに減らすよう各水陸両用船を改良すること。
 
 動作可能なヒギンス・ポンプまたはそれと同等以上の力を持つ排水ポンプを補足するため、残っている最大の貫通財(penetration)で船の排水ができる電動ビルジ・ポンプを個別に設置すること。
 
 個別の動力で動くビルジ警報機を4台設置すること。
 
 through-hull penetrationを除去または取り外す度に、水中で船を検査すること。
 
 航海に出る時に、水中における船の防水状況を確認すること。
 
 Navigation and Vessel Inspection Circular 1-01の残りの規定全てに準拠すること。(M−02−2)
 
 適切な予備浮力装置が無い水陸両用客船の天蓋を取り外した場合、水上航行を始める前に乗客全員に救命衣着用を義務付けること。(M−02−3)
 
米国沿岸警備隊に対して
 
 全ての水陸両用客船を対象とした、Navigation and Vessel Inspection Circular 1−01と趣旨が類似するガイダンスを作成・公布すること。(M−02−4)
 
過去に出された勧告の本報告書における分類(Previous Issued Recommendation Classified in this Report)
 
 安全に関する以下の勧告が米国の水陸両用客船の運航者と修理改装業者30社に出された。
 
M−00−5
 即座に貴社の水陸両用客船を改造し、定員数の乗客・乗員が乗船している時に浸水しても真っ直ぐに浮いているように、防水区画やビルトイン式の浮上装置、またはそれに相当する措置などのpassive手段を用いた予備浮力装置を整備すること。
 
 安全委員会は、以下の企業については入手した情報にもとづき、安全勧告M−00−5(これまでは“公開:許容できる回答”に分類)を本書では“非公開:許容できる措置”に分類する:Cool Stuff。
 
 安全委員会は、以下の企業については、2000年2月18日付最初の書簡およびそれに続く2000年8月17日付の書簡に対する回答がなかったことを根拠として、安全勧告M−00−5を“公開:許容できない回答”に分類する:Aqua Traks, Inc.、Austin Ducks、Buffalo Point、Chattanooga Ducks、Chicago Duck Tours、Ducks Amphibious Renovation/Sales、Land and Sea Tours、Maui Duck Tours、Naples Land and Sea Tours、National Park Duck Tours、Outfitter Kauai、Ozark Mountain Ducks、Sterling Equipment、South Padre Water Sports/Breakaway。
 
国家安全運輸委員会  
MARION C. BLAKEY JOHN A. HAMMERSCHMIDT
委員長 委員
CAROL J. CARMODY JOHN J. GOGLIA
副委員長 委員
  GEORGE W. BLACK, JR.
  委員
採択:2002年4月2日
 
補足意見(Concurring Statement)
 John J. Goglia(委員)は、2002年4月9日に以下の補足意見を提出した。Goglia委員の以下の意見には、John A. Hammerschmidt委員とGeorge W. Black, Jr.委員も賛同した。
 
記録 7222B
GOGLIA委員の補足意見
 委員会は本書でいくつかの重要な勧告を行っている。しかしながら、今回の事故は、保守の不備に端を発しているものであり、勧告では、今回の悲劇的事故の発端となった保守の瑕疵について充分に対応しているものとは言えない。
 
 船上の一般市民の安全を確保するために、沿岸警備隊の管轄権の範囲内でこれまで以上のことを行う必要がある。NTSBの報告書は、保守面のガイドラインとして参考になり得るであろう。
 
 本船で行われていた保守は不適切であった。技術者に能力や資格を求める要件が無かった。本船で行われている契約保守について運航者が監視することもなかった。保守が適切に行われるように監督も行われていなかった。どのような保守が行われていたのかに関する記録もほとんどまたは全くなく、適切な保守手順、またその保守手順が守られている否かを記した文書も一切なかった。沿岸警備隊には、自らの船舶の運営に伴う保守基準や保守要件がある。沿岸警備隊が、客船の運航者に、沿岸警備隊で義務付けられている保守基準や要件に類する保守基準や要件を義務付ければ、一般市民の安全は向上すると思われる。
 
 また、沿岸警備隊に対する勧告1についてはスタッフの中に異論があったことも明記すべきであろう。スタッフの中には、委員会の先の勧告や報告書で述べられているpassive措置を既存のDUKW船舶に簡単に取り入れられることはありえないとする説もあり、「委員会は、過去にも業界に対して同様の勧告を行っているが、既存の船舶についてこの目標を達成した企業は現在まで皆無である」と指摘している。むしろ、こうしたスタッフは、今後Miss Majestic号 のような事故の再発を防止するには、ドライブシャフトの開口部にリストリクタやキャリア・ベアリングを設置したり、ドライブシャフトのブートにダブルクランプを使用したり、高レベルのビルジ警報機を追加で設置したりすることなど、沿岸警備隊が勧告した救済措置で充分であると考えている。
 
 これらのスタッフは、結論9ならびに「天蓋を外す」という勧告に全く賛成していない。そして、天蓋が乗客の安全にとって許容できないほどのリスクになるという点について同意していないことから、この結論を、「浸水時に浮揚状態を維持できない水陸両用客船の場合、天蓋が乗客の安全にとって大きなリスクになる可能性がある」とするよう要請した。







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