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1. 根本原因(root causes)および寄与原因(contributing causes)を裏付ける結論は次のとおりである。
 
a. 浸水の異常な速さ:Miss Majestic号は、電動のbilge pump3基を合わせた処理能力のほぼ10倍に相当する220gpmの速度で、船尾にあるshaft housing内のannulus(輪)から浸水した。
 
b. PFD(Personal Flotation Device)の着用:救命衣を着用していたら天蓋の下をくぐって避難することができず、死者が増えたものと思われる。

コメント:この結論については部分的に同意見である。沈没する前に、乗客と運航者が救命衣を着用して安全に船から離れていれば生存者が増えた可能性は高い。しかし、運航者が危険な状態に気づき船を放棄する決断をした以上、救命衣を着用していたら乗客が自由に動いて船から無事に避難する能力が大きく損なわれることになったと思われる。船の沈没速度が速かったため、浮上装置を装着していれば水面に向かって浮上し、天蓋の構造にはまり込んでしまっただろう。船の中を泳ごうとしたら、救命衣の浮力で動きの自由が大幅に妨げられたことだろう。それでもやはり、船から脱出できた場合、浮上装置または救命衣を着けていたら生還に役立ったと思われる。泳げない人や行動能力を奪われた場合はなおさらである。
 
c. DUKWの設計の特徴:DUKWには、従来の商業用小型客船よりも安全性が低いという特徴が本質的にある。その特徴は以下のとおりである。

(1) 金属のシャーシやホイール・ドライブシステムが重く、浮力がきわめて少ない
(2) 動く部分が付いた複数の外部付属品があり、防水膜の一部をなしている
(3) shaft housingのスムーズなシール表面上に使われているバンドクランプは一つである
(4) 大きなthrough hull fittings(縦貫通財)に相当するものに海水弁がない(shaft housingの貫通材)。DUKWのshaft housingとboot sealの配列は、第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)182.720(d)(3)の貫通材や遮断弁の要件に相当する安全性を確保するものではない。
(5) 船体のメッキが薄く、消耗による穴が早くでき、修理が難しい
(6) この54年間DUKWが建造されていないことが大きく災いし、製造されたパーツが簡単に手に入らない

コメント
:この結論については(4)を除いて異論はない。第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)182.720(d)(3)は、取水や排水など、船体への管の貫通について具体的に規定したものである。取水にも排水にも相当しないshaft housingは、シャフトやラダーポストの貫通と比較すべきものであり、この規則の範疇には入らない。
 
d. 小型船のSurvivability:第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)179の規則は、65フィート未満または乗客定員49名以下の小型客船についてはSurvivabilityが義務付けられていない。本件は、本質的に浮力がない船舶についてはSurvivabilityが必要であることを示している。
 
e. MISS MAJESTIC号の本質的な状況:船底のリアドライブ軸の上にあった穴は大変小さく、事故に大きく寄与していない。通常の航行の場合、この小さな穴から水が入っても電動bilge pumpで処理できる程度と思われる。この穴とboot sealで発見された穴が、事故2日前にHiggins bilge pumpが作動した原因となった可能性は高い。
 
f. 船の保守訓練:船尾のboot sealが運航中に外れないように船尾のshaft housingに固定するための金属のバンドクランプをMike Oliver(修理工)がしっかり締めなかった可能性はあるが、同人が、機械係として故意にまたは知っていながら自らの職務を怠ったことを示す証拠はない。
 
g. オーナー/運航者による規則遵守:Land & Lake Tours社は、規則の遵守に必要な指導は沿岸警備隊の検査官が全てしてくれるものであると頼り切り、第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)サブチャプターTを遵守する責任感が全般的に欠如していた。沿岸警備隊の船舶検査の受益者負担金や船舶の安全に関する規則遵守に対する沿岸警備隊との協力的取り組みが原因で、沿岸警備隊に過剰に依存するようになったものである。今回の調査では以下が明らかになり、さらに詳しい調査を実施するために沿岸警備隊第八管区司令官に報告された。

(1) Land & Lake Tours社が、非常時に迅速に避難ができるように客室からの避難方法を2つ定めている、第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)177.500に違反した証拠がある。
(2) Land & Lake Tours社が、簡単に入手し、短時間で外すことができる、命綱に取り付ける救命浮環(ライフブイ)を格納しておくことを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)177.70に違反した証拠がある。
(3) Land & Lake Tours社が、1999年3月11日までにビルジ用ハイレベル警報機を設置することを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)182.530に違反した証拠がある。
(4) Land & Lake Tours社が、乗務員の非常時訓練を四半期に1回実施し、かかる訓練について記録することを定めた第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)185.400に違反した証拠がある。
(5) Elizabeth Frances HelmbrechtとLand & Lake Tours社が、乗客全員の人数を書面に記載し、船舶の通常の停泊場所で空き状況について分かるようにその数をオーナーに伝えることを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)185.504に違反した証拠がある。
(6) Elizabeth Frances HelmbrechtとLand & Lake Tours社が、救命衣の着用方法や非常時の避難方法といった乗客向けの説明を行うことを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)185.506(b)に違反した証拠がある。
(7) Land & Lake Tours社が、火災、悪天候、および船から人が水中に落下した場合などの緊急時対応の説明を掲示するか閲覧できるようにすることを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)185.510に違反した証拠がある。
(8) Land & Lake Tours社が、船の放棄や人が船から水中に落下した場合に備えた訓練を実施しその記録を取ることを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)185.520に違反した証拠がある。
(9) Land & Lake Tours社が、船体の修理や船尾にあるshaft housingのhinge部分の取り外しといった、船舶の安全性に影響を与える修理や改造を行う場合には公認のOCMI(海事検査担当間:Coast Guard Office-in-Charge, Marine Inspection)から承認を得ることを義務付けている第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)176.700に違反した証拠がある。

コメント
:この結論の導入部分については部分的に同意見である。Land & Lake Tours社の経営陣が、同社の船舶の保守や運行に関して第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)サブチャプターTで規定されている責任を知らなかったことは明白である。また、同社が船舶の安全性確認を沿岸警備隊の検査官のみに依存し、安全に関する自らの責任を認識していなかったことも明白である。しかし、沿岸警備隊の船舶検査の受益者負担金や船舶の安全に関する規則遵守に対する沿岸警備隊との協力的取り組みが、Land & Lake Tours社による沿岸警備隊に対する過剰依存の原因であったとする点には同意できない。運行者は、第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)サブチャプターTで規定されている自らの責任を認識することを怠っていたのである。
 
h. 沿岸警備隊のDUKWの検査方針:沿岸警備隊が、第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)サブチャプターTの規則によって従来の船舶に実施しているレベルの安全性を確保できるような検査、保守、運営に関する国内基準が、DUKW客船についてはない。CWO3 Collinsは、DUKWのコンポーネントの重要性について認識していなかったこともあり、船尾のshaft housingのhingeがなくなっていることに気付かなかった。

コメント:この結論については部分的に同意見である。沿岸警備隊にはDUKWに関する検査、保守、運営に関する国内基準がないという点について異論はないが、「DUKWについては従来の船舶ほどの安全検査が行われていない」と結論付けるのはいかがなものか。タイプが特殊で証明を受けている船舶も多く、それらの全てに、その独自性に対応する国内検査方針があるわけではない。第46連邦規則集(46 Code of Federal Regulations)サブチャプターTは、多くの特有の船舶タイプに対応できるように規定されているものである。証明対象船舶の安全性を保証するのは、担当する現地のOCMIの責任である。OCMIは、対応できない事態が生じたら上からの指導を仰ぐことができる。
 
 
i. MSO(Marine Survey Organization)Memphisの検査文書:Miss Majestic号の検査ファイルは、ファイルを使用する検査官や調査官に大いに誤解を与えるものである。なぜならば、このファイルまたはMSIS(Marine Safety Information System)には、発見された不具合が記載されていなかったからである。MSO Memphisは、不具合を記録せず、趣旨どおりにMSDS(Marine Safety Deficiency Summary)を適用しなかった。発見された不具合を正式に追跡していれば、1999年5月1日以前にhinge用ハイレベル警報機が設置されることになっていた可能性が高い。また、不具合を正式に追跡していれば、MSOの上層部は、警報機の設置が進んでいると考えるのではなく、「警報機の設置が予定通り進んでいないこと」に気付くことができたと思われる。

コメント:この結論については部分的に同意見である。アメリカ合衆国法典(United States Code:USC)第46編3313(b)(1)号では、指摘された不具合(瑕疵)を是正する文書による命令が認められているが、検査時点で警報機は規則によって義務付けられておらず、瑕疵は存在しなかった。船主の措置を根拠として、沿岸警備隊の検査官は、適切な措置が講じられているものと考えた。後日の検査で、1999年3月11日までに警報機が設置されないと思われたら、短期CG−835の交付が適切だったことだろう。しかしながら、結論2dのコメントでも指摘したように、ビルジ用ハイレベル警報機がCG−835に入っていたとしても速やかに設置されていたかどうかは疑わしい。
 
4. 以上の例外はさておき、沿岸警備隊から免許や認定を受けた担当者に訴えうる違法行為や職務の軽視、過失、故意による法律や規則違反があったという証拠はない。
 
5. 以上の例外はさておき、沿岸警備隊が検査または認定を行い、本船舶の建造や運営で用いられた設備や材料に瑕疵があったという証拠はない。
 
6. 以上の例外はさておき、沿岸警備隊その他政府機関の担当官、または他の個人が今回の事故に寄与したことを示す証拠はない。







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