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資料2−1
米国沿岸警備隊
Miss Majestic号沈没事故状況調査報告書(抜粋)
結論(Conclusions)
1. MISS MAJESTIC号は、航行開始時に船尾のshaft housingのshaft boot sealがずれて浸水したことが、明らかに今回の事故の根本原因である。
 
2. 事故の寄与原因(contributing causes)は以下のとおりである。
 
a. Boot Sealの整備:Miss Majestic号が水上航行を開始する時に、船尾のshaft housingからboot sealが外れた。軸が落下したためにshaft housingに沿ってさらに長く伸びることになり、boot sealにかかる圧力が増すことになった。以下のような場合であれば、船尾のshaft housingからboot sealが外れることは無かったものと思われる。

(1) shaft housingの後端に、前端にあるような一段高いringがあった場合
(2) 船尾のshaft housingに付いていたboot sealの金属のband clamp(締金)がもっとしっかりと締まっていた場合
(3) 船尾のshaft housingのhinge部分があるべき場所に付いていた場合
(4) 後部の差動装置が適切に設置されておいて、前部の軸が落下できないようになっていた場合
(5) 船舶が営業を再開する前に、水中で操作をして船尾のsealの試験を行っていた場合。
 
b. 運航者の経験(Operator Experience):水が排出している位置が死角になっていたことと、観光ガイドに神経が集中していたこととが重なり、Ms. Elizabeth Frances Helmbrecht(船長)は前方の電動bilge pumpから水が排出されていることに気が付かなかった。また、船尾の電動bilge pumpから水が排出されていることについても、その位置が船尾だったために気が付くことができなかった。Higgins bilge pumpから大量の水が排出されていれば気が付いていたことだろう。観光ガイドを行わない乗組員がいれば、不測の浸水に早くから気付き、犠牲者の数も少なくてすんだ可能性が高い。

コメント(USCG長官の意見 以下同じ):この結論に異論はない。しかしながら、すでに規則で義務付けられているビルジ用ハイレベル警報機を設置すれば、本船の浸水の早期発見にはより役に立つ。
 
c. Higgins Bilge Pump:Higgins bilge pumpは、shaftの鍵穴にキーが差し込まれておらず作動しなかった。キーが無かった原因は分からないが、ポンプに堅い異物が入って羽根車(impeller)の羽根が壊れて、そのために取れたか落ちたかした可能性が高い。異物は、濾過用スクリーンのなくなっている部分から吸い込まれた可能性もある。こうしたことが発生したのは、1999年4月29日にHiggins bilge pumpを短時間作動したときか、または1999年5月1日に浸水が始まった直後と思われる。Higgins bilge pumpおよびその付属部品には様々な損傷があり、並々ならぬ衝撃があったことを物語っている。このHiggins bilge pumpが作動していたら、浸水に対応できていた可能性、または少なくともMiss Majestic号を接岸できる時間的余裕があった可能性が高い。Higgins bilge pumpが放水を開始していたら、喫水の上昇は数インチで収まり、ポンプが短時間作動した数日前と同様、ビルジ内に水があっても船舶の操縦性が損なわれることはなかったと思われる。

コメント:shaftの鍵穴にキーが差し込まれていなかったためにHiggins bilge pumpが作動しなかった点について異論はない。また、このポンプの放出管が所定どおりに接続、固定されておらず、ビルジ内の水が船外に排出されず再循環されることになったことも考えられる。入手できる証拠からは、ポンプが正常に作動しなくなった正確な日時は判断できない。
 
d. ハイレベルのビルジ警報機(High Level Bilge Alarm):事故前、ビルジ部分にハイレベルの警報機は設置されていなかった。Land & Lake Tours社(船主)は、最近の規則を把握しておらず、期限前、そして事故前にこの警報機を設置していなかった。その一因は、CWO3 Collins (USCG検査官)とMr. Woodall(修理工)の意思疎通の不良にあった。CWO3 Collinsは、「Mr. Woodallは、警報機の設置に必要なコンポーネントを持っていて、規則で定められた期限が1999年3月11日であることを知っていて、期限までにビルジ用のハイレベル警報機を設置するよう作業を進めている」と考えていたが、現実はそうではなかったのである。Mr. Woodall(修理工)は、規則で期限が定められていることを知らなかった。そして、当時、蒸気検出器に対応しなければならなかったこともあり、「CWO3 Collinsに合格と認定されていない」と考えていたアイテムを取り外さなければならない可能性を回避するために当該コンポーネントの設置を先送りしていたのであった。CWO3 Collinsが、明確なCG−835ではなく略式のワークリストを使用していたことも意思疎通の悪さに輪をかけることになった。CG−835を使用していれば、重要度が高いことが分かり、期限も記載されていたものと思われる。ビルジ用のハイレベル警報機が設置されて作動できる状態であったならば、Ms. Helmbrechtも早く浸水に気付き、船舶を接岸させるか、あるいは乗客を避難させる時間があったものと思われる。ビルジ用のハイレベル警報機については、高さに関する規定はない。しかし、Higgins bilge pumpが排水を始める前とは言わないまでも、排水開始直後に鳴るように設置されていたものと思われる。この警報機が設置されていて作動できる状態であったならば、水上航行を開始してから2分足らず、つまり、操縦性が損なわれ、乾舷が失われるよりも充分前に警報機が鳴っていたことだろう。

コメント:この結論については一部賛同する。CG−835に掲載されていた承認済みの蒸気検出器を所定期限内に設置することについて問題を抱えていたことを考えると、ビルジ用ハイレベル警報機がCG−835に入っていたとしても速やかに設置されていたかどうかは疑わしい。
 
e. 区画化:耐水性区画や浮揚性材料が採用されていたら、Miss Majestic号が沈没することはなかったか、または沈没に時間がかかったため、乗客が船から避難する時間は充分にあったと思われる。

コメント:この結論に異論はない。ただし、明快を期して次のように記載すべきである。「耐水性区画や浮揚性材料が採用されていたら、Miss Majestic号が沈没することはなかったか、または沈没したとしても時間がかかったため、乗客が船から避難する時間は充分にあったと思われる。
 
f. 乗客が閉じ込められたこと:風防ガラスや前方のビニール製の窓が開いていたら、船が沈んでいく時に乗客の大半または全員が避難していたものと思われる。防風ガラスは外からボタンスナップが掛けられていたため、内側から短時間で外すことができなかった。この種のスナップは、かけている側から外す場合でも力を合わせなければ外せない場合が多い。

コメント
:非常事態であっても乗客が肉体的に敏捷に動けることやパニックにならないと仮定してはいるものの、部分的には同意見である。風防ガラスや前方のビニール製の窓があったために、沈んでいく船から自由に浮いて脱出できなかったことについては同意する。しかし、風防ガラスやcanopy(天蓋)が開いていたとしても、船から避難しようとする人にとってボトルネック(遮るもの)はあっただろう。沈没する前に乗客と運航者が安全に船から離れていれば生存者が増えた可能性は高い。







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