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2 国家運輸安全委員会における海難調査
(1)設立の経緯
 国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board以下「NTSB」又は「委員会」という。)の創立は、1966年4月である。この年、アメリカ連邦政府は、「運輸省設置法」(Department of Transportation Act)を制定し、それまで航空機事故の原因調査を担当してきた民間航空委員会(Civil Aeronautics Board: CAB)を廃止して、新設のNTSBに航空事故調査義務を承継させるとともに、新たに、ハイウェー、鉄道、パイプライン・危険物及び海上の4つの交通運輸の事故調査義務を併加するという発展的組織改革を成就し、運輸関連の政府組織の統合を実現した。
 その後、1974年アメリカ連邦議会は、新しく「独立安全委員会法」(Independent Safety Board Act)を制定し、運輸における安全を促進すべくNTSBを運輸省から完全に分離するとともに、他の連邦の行政部各省ないし委員会からも切り離された存在としたため、翌1975年4月1日をもって、NTSBは、唯一連邦議会にのみ責任を負う完全な独立政府機関となった。
 
(2)組織
 NTSBは、本部をワシントンD.C.に置き、ほかに、アメリカ全土に地域事務所(Regional Office)を6ヶ所(航空、ハイウェー、鉄道関係)、フィールドオフィスを4ヶ所(航空関係)置いているが、海事関係は本部のみに置かれている。
 2002年現在におけるNTSBの交通運輸に関する事故調査の組織体制は、航空、海上、ハイウェーのほかの鉄道とパイプライン、危険物が同じ組織に統合されて4部門となっているが(資料4)、NTSBの正式意思決定は、任期を5年とする5名の委員(Board Member)の合議(定足数は3名以上の委員の出席)で決定される。
 ボードメンバーは、大統領が連邦上院の助言と承認を得た上で直接任命・解任することになっているが、委員会の中立・公正を期するために、同一政党から3名を超える委員が選任されてはならないことになっている。
 また、委員会の専門性のバランスを考慮して、常にボードメンバーの中には、事故の復旧、安全技術、ヒューマンファクター、運輸の安全性又は運輸に関する規則といった分野についての技術的資格、専門的地位及び証明された知識に基づいて任命された委員が少なくとも3名は含まれていなければならず、それによって更に多角的な検討が加えられ、質の高い報告書が出されることになる。
 この委員の中から大統領が上院の助言と承認を得て委員長(Chairman)1名を選任し、さらに大統領により副委員長(Vice Chairman)1名が選任されるが、委員長及び副委員長の任期は2年である。
 ボードメンバーの下部機構は、大別して、12の局(Office)、それに新設されて間もないコミュニケーションズセンターと24の部(Division)があり、その下にいくつかの課及び地域事務所が配置されている。ただし、NTSBの実務担当組織はしばしば改編されてきており、決して恒常的なものではない。
 このうち、NTSBの委員長に直結するかたちで、すべての運輸事故の調査を担当し、その他重大事故についての公聴会の開催や事故調査報告書の公開準備、安全勧告の作成などを行う運輸事故調査安全担当部局として、航空安全局(Office of Aviation Safety)、海上安全局(Office of Marine Safety)、ハイウェー安全局(Office of Highway Safety)及び鉄道・パイプライン・危険物調査局(Office of Railroad, Pipeline and Hazardous Materials Investigations)の4つの局がある。
 なお、海難事故の調査を専管する海上安全局(Office of Marine Safety)は、「大事故調査課」(Major Investigations Branch)と「技術サービス課」(Technical Services Branch)の2課をもっている。
 
(3)業務
 NTSBの最大の任務は、広く運輸に関する事故についてその再発を防止する観点からこれを徹底的に調査し、事故の推定原因(相当の原因 Probable cause)又は寄与原因(Contributing cause)を解明、決定することである。
 これより、NTSBの業務は、すべてのアメリカ民間航空機の事故、5名以上の死亡を伴うハイウェー事故(鉄道線路の踏切事故を含む)、旅客列車が関係するか死亡又は甚大な財産損害を伴う鉄道の事故、死亡又は環境への重大な侵害ないしは甚大な財産損害を伴うパイプラインの事故、公用船とそれ以外の船舶が関連した一定の海難又はUSCGの安全職務が伴う重大な海難事故、及び人又は物の輸送に関連して発生した事故で破局的かつ再発のおそれがある事故を対象にして調査を行うなど、業務は広範囲に及んでいる。
 また、原因の究明とともにNTSBの重要な任務は、運輸の安全に関する勧告(Safety Recommendations)を作成し、被勧告機関である連邦、州等の関係政府機関(USCGを含む。)及び民間運輸関係者などに対して勧告の遵守や改善提案をなし、かつ、その受容実施につき継続してフォローアップすることである。
 更に、NTSBは、近年、航空機事故その他破滅的な運輸事故に巻き込まれた乗客等の家族や生存者に対し、航空会社等との連絡役となりメンタルケアその他さまざまな家族支援サービスを提供するという業務を開始した。この新しい任務は、もともと航空機事故を想定した任務であったが、その後、航空機事故以外の地上・海上の重大事故の場合にも適用が拡張されることになった。
 また、主要な任務として、NTSBは、USCGの長官及び連邦航空局(Federal Aviation Administration, FAA)による船員、飛行士・整備士の免許、証明書等の停止、取消などの行政処分を不服とする上訴に関し、いわば“控訴裁判所”として再審理を行うという業務がある。
 しかし、なんといっても最大任務は、事故調査による事故の原因解明と安全勧告による事故の再発防止にある。
 以下、主として海難事故を専管する海上安全局の調査手法等について記載する。







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