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(4)ヒューマンファクター概念に基づく海難調査
(1)海難調査の目的
 海難調査の目的は、USCGに関する規則において「民事又は刑事の責任を確定することを意図するものではない。」と規定されているが、このことは、海難調査を制約するものではなく、調査は、海難原因の確定、再発防止のための法規の改廃を含む勧告の提示及び船員の不正行為による免許等に関する処分のための証拠の収集並びに海事調査委員会(Marine Board of Investigation)の調査へ移行するための判断資料の収集のために行われるとされている。
 このように、USCGは、原因判断とともに、懲戒処分という法的判断も行っているが、これらは俗にいうところの海難調査官(以下「調査官」という。)プロセスと行政法判事プロセスという別々のプロセスで行われることになっており、相互に影響を受けたり、支障を来たしたりすることはないという。
 すなわち、USCGが調査を行う目的は、海難事故が発生した場合、何が起こったのか、何故起こったのかを明らかにしなければ、是正措置の是非を決定することができないので、推定原因(Probable Cause)、根本原因(Root Cause)、寄与原因(Contributing Cause)の特定が先ず第一に行われ、それに基いて安全勧告(Safety Recommendation)が出されるが、それは調査官によって行われる。そして、仮に船員に不適切な行動があって、それが直接原因に関係するものであれば、その船員の免許に対して懲戒処分が取られることになるが、それは船員の処罰が目的ではなく矯正が目的であって、これは行政法判事(Administrative Law Judge)によって行われるのである。ただし、その件数は不詳であるが、ほとんどはドラッグ関係であってCasualtyのケースは少ないという。
 なお、政府によって民事罰(Civil penalty)が正当とされた場合は、調査官がその処分に着手することになるうえ、刑事罰(Criminal penalty)が正当とされた場合は、調査官は起訴に備えてそのケースを司法省に送致することになるが、刑事的な事案は、年間5件ぐらいという。
 
(2)海難調査の主体
 USCGは、海難事故を認知したときは調査官が予備調査(Preliminary Investigations)を行い、NTSBが調査することに定められている海難であればこれをNTSBに通知するが、それ以外の海難事故、及びNTSBがUSCGから通知があっても調査を実施しない海難事故はUSCGが調査を行う。
 ただし、USCGも、調査を実施するかどうかの選択権を持っている。(USCGとNTSBの調査の分担等については、NTSBの項で詳述する。)
 
(3)海難調査の客体
 海難調査の対象となる船舶は、合衆国の領海内で事故に関係した公用船(Public Vessel)以外の合衆国及び合衆国以外の船舶並びに合衆国の領海外で事故に関係した公用船を除く合衆国の船舶である(CFR46 §4.03−1)。
 また、調査の対象となる海難(Marine casualty or accident)は、偶発的乗揚及び船体、艤装、索具又は貨物に関係した損傷若しくは人の死傷の生じた船舶に関する出来事、それ以外の衝突、乗揚、沈没、荒天損傷、火災、爆発、機器故障及び船舶の堪航性に影響するその他の損傷並びに船舶から潜水作業に従事して水中呼吸具を使用している者の死傷とされている。
 
(4)海難の報告義務
 船舶所有者、代理店、船長、運航者(Operator)又は担当者(Person in Charge)は、海難が発生したときは、直ちに最寄の海事安全事務所(Marine Safety Office)、海事検査事務所(Marine Inspection Office)又は沿岸警備隊グループ事務所(Coast Guard Group Office)に通知しなければならないばかりか、5日以内に一定の書式による海難報告書(written report of marine casualty)を海事安全事務所(Marine Safety Office)又は海事検査事務所(Marine Inspection Office)に届けなければならないと定められている。
 
(5)海難調査官
 海難調査は、調査官によって行われる。調査官は、USCGの士官又はその他の職員であって、長官(Commandant)、管区司令官(District Commander)又は海事検査担当官(Officer in Charge, Marine Inspection)から船舶検査官として指名を受けた有資格者及び海事検査担当官であるが、個々の調査官が有している資格は様々で、海技免許を持っている者もあれば、弁護士の資格を持っている者もいる。ただし、ほとんどの調査官は4年制大学の学位を取得している。
 調査官は、現在全国で175名在籍し、44箇所の海事安全事務所(Marine Safety Office)、3箇所の海事検査事務所(Marine Inspection Office)及び20箇所の分遣隊(Detachment)に配置されている。
 そして、1人の調査官は、年間平均29件の調査を行い、また、USCG全体としては、年間総計約5,000件の調査を行っているが、これにはプレジャーボート関連の事故のうち、商船が絡んでいる事故を含み、プレジャーボートのみの事故は州政府が担当しているので含まれていない。
 また、漁船と適切な検査を受検していない引き船との事故が、海難事故の大きなウエイトを占めている。







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