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第1 はじめに
 海難事故は、海上交通安全システムの欠陥を示す最終結果であるが、一方では、安全システムが全体としてどのように作動したかフィードバックする指標、すなわち、安全システムのフィードバックのメカニズムでもあるといわれている。
 しかしながら、海難事故を最大限に活用して、有効なメカニズムを産出し、これを効率的、経済的に作動させるためには、海難事故の的確な調査と科学的な分析手法が求められる。
 近年、各界において、事故に対してヒューマンファクター概念に基いた調査・分析手法が取り入れられ、事故の再発防止に顕著な効果を発揮していることから、海上の分野においても、この手法を取り入れるべきであるとの声が高まっている。
 このような状況を考慮し、また、海難事故の防止に寄与できることを切望して、海外における海難事故の調査、分析、勧告手法の実体と海上インシデント取り扱いの現状を調査することにし、今般米国のUSCG及びNTSBを訪問したので、調査結果を下記のとおりご報告申し上げる。
 
第2 調査メンバー
ヒューマンファクター調査研究委員会 委員 黒田 勲
ヒューマンファクター調査研究委員会 委員 峰 隆男
財団法人 海難審判協会 理事長 小西二夫
財団法人 海難審判協会 研究部長 河野峯夫
 
第3 訪米日程
実施日程 平成14年12月16日(月)〜12月21日(土)
訪問先 アメリカ ワシントンD.C.
 
第4 訪問先
1 合衆国沿岸警備隊(United States Coast Guard, USCG)
(2100 2nd Street South West Washington D.C.)
 12月17日(火)午前10時訪問
 
Mr. Charles B. Barbee
U.S Coast Guard Headquarters
Office of Investigations and Analysis Marine Investigations
Division
Investigations Team Leader
 
2 国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board, NTSB)
(490 L'Enfant Plaza East SW Washington D.C.)
12月18日(水)午前9時30分訪問
 
Ms. Marjorie Murtagh
Director, Office of Marine Safety
National Transportation Safety Board
 
第5 訪米調査の概要
1 合衆国沿岸警備隊における海難調査
(1)設立の経緯
 合衆国沿岸警備隊(United States Coast Guard、以下「USCG」という。)の設立は、1915年1月28日である。この年、1790年に創設された合衆国税関監視船部(United States Revenue Cutter Service)と1848年に創設された合衆国人命救助部(United States Lifesaving Service)とが合併し、新たな政府組織としてUSCGが設立された。
 この合併は、1912年4月15日に英国ホワイトスターラインのタイタニック(titanic 46,328総トン)が沈没し、1,500余人の死者がでたとき、米国上院の商務委員会が調査報告書を提出し、北大西洋流氷域における国際パトロールを提案したのを契機としている。
 そのUSCGが本格的に海難調査に係わるようになったのは、1934年9月8日、ニュージャジー沖で、米国籍船ワードラインのモロキャッスル(Morro Castle)(11,520総トン)が炎上し、旅客・乗組員562人中134人が死亡する事故が発生したとき、この事故に関連して、商務省の海事検査航行局(U.S Bureau of Marine Inspection)に重大事故調査のための海難調査委員会(Marine Casualty Investigation Board)が創設され、司法省の関係官並びに海事検査航行局の職員及びUSCGの士官が重大海難を調査することになったのが始まりと言われている。
 その後、USCGは、1946年7月16日に合衆国海事検査航行局を併合することによって海難調査を行う機関となった。
 
(2)組織
 USCGは、第1次及び第2次の大戦において、「沿岸警備隊は、常に合衆国の一軍事部門及び軍隊の一翼であるものとする。ただし、海軍において職務をとる場合を除き、運輸省において職務をとるものとする。」という合衆国法典のもとに一時期海軍省の管轄下にあったが、通常は運輸省(Department of Transportation)に属し、本部(Headquarter)をワシントンD.C.に置き、管轄する区域を大西洋方面(Atlantic Area)及び太平洋方面(Pacific Area)の二つに分け、更に大西洋方面を5つの管区(District)及び太平洋方面を4つの管区に分けて管理している。
 また、日本、シンガポール及びイタリアに在外事務所を設置し、周辺海域の海難調査も担当している。
 
(3)業務
 USCGは、港湾の安全確保と警備、航路標識の設置と管理、水路図誌の刊行と整備、遭難者の捜索と救助、氷山の監視と海洋環境の保全、海事検査、海事免許法規の施行等を任務としているほか、軍事の準備と予備役の訓練を行い必要に応じて軍事部門の一翼を担うなど、その業務内容は非常に多岐にわたっている。
 海難調査は、海事検査の項で記されている、「USCGは、合衆国の商船等の設計、構造、設備及び保全のための各種安全基準の計画、処理及び施行を司る。これは合衆国が管轄する区域にある外国船舶に対しても適用する。海難調査は、合衆国の管轄区域にある商船から報告された海難、災害、過失等について行う。」旨の規定に基づいて行われる。
 以下、主として海難事故を専管する海難調査部門の調査手法等について記載する。







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