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まえがき
 船舶は、洋の東西を問わず、古来から人の往来や物資の輸送、水産資源の採補等に活用され、また、近年では、海洋レジャーやスポーツに利用されるなど、人々の生活や文化の向上に貢献して参りました。
 それに伴い、我が国における海難調査も、明治9年に初めて海員審問が制度化されてから同30年には「海員懲戒法」が制定され、第2次世界大戦終了後の昭和23年には新憲法の発布の下、「海難審判法」が施行されて現在に至っています。
 
 海難審判法は、海上交通の安全という公共の福祉を目的とする反面、旧法と同様、審判に関係する個人の権利を保護する一種の航海警察法規の性格も併せ持ったこともあり、その運用も個人の過失に重点を置いたものとなったまま今日に至っているところです。
 
 ところで、近年においては、あらゆる産業において、人間工学、心理学等の学際的研究により、ヒューマンファクター概念に基づく調査手法が進展し、また、こうした概念に基づく事故の予兆(インシデント)情報を積み上げて分析を行い安全対策を構築する手法が広がりを見せつつあります。
 
 船舶分野においても、従来は海上交通三法を遵守しシーマンシップを発揮していれば安全性は確保されるとしてきたところですが、昨今では、多種、多様な船舶が輻輳化している海域で安全を確保するためには、日常運航の中から不安全要素を抽出し、それらにヒューマンファクター概念を導入して科学的な調査・分析を行い、有効な安全対策を構築して行くことが急務となっています。
 
 このような認識の下、当協会においては、平成14年度に日本財団の助成を受けて、「ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究委員会及び同検討作業部会」を設置して、効果的、効率的、経済的な観点からヒューマンファクター概念に基づく海難調査・分析手法を開発するとともに、各海事関係者が心理的抵抗や法的・経済的・社会的デメリットを伴うことなくインシデント等の危険情報を共有化し有効活用していくための環境整備上必要な事項について、調査研究を開始しました。
 
 調査研究を進めるに当たって、委員、関係官庁及び関係団体各位に多くの貴重なご意見、ご指導、資料等をいただき、また、毎回の長時間にわたり、委員会、検討作業部会において活発なご審議をいただきました。
 ご協力を賜った関係各位に厚くお礼を申し上げる次第です。







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