日本財団 図書館


2003/06/07 産経新聞朝刊
【主張】イラク新法 次善の策として制定急げ
 
 日本が他国から武力攻撃を受けた際の自衛隊の対処方針や首相の権限などを定めた有事関連三法が成立した。これを受けて、政府はイラク復興支援に自衛隊派遣を可能とする新法のとりまとめ作業を急ぐ考えである。
 先の主要国首脳会議(エビアン・サミット)ではイラク復興への協力が共通課題であることを確認した。イラク戦争終結後、イタリア、ポーランドなど三十カ国以上が軍隊の派遣を表明し、すでに米英軍のほか韓国などは部隊を派遣している。日本としても即応するために自衛隊派遣を規定した包括的な法整備が強く求められるが、イラクへの派遣は時間的制約があることから新法を制定し対応すべきである。
 これまで政府内では、国連平和維持活動(PKO)協力法による自衛隊派遣が検討されてきた。しかし、戦後のイラクは米英軍による暫定統治を受けており、紛争当事者の停戦合意などを必要とするPKO協力法の参加五原則が満たされないことなどから新法を制定する方針に転じた。
 検討中の新法は、イラクへの経済制裁を解除した国連安全保障理事会決議(一四八三)を派遣の根拠とし、米英艦船などへの物資・燃料補給を可能としたテロ対策特別措置法を下敷きに時限立法とする方向だ。活動地域は「非戦闘地域」と定め、輸送機による水、食糧など支援物資の輸送など後方支援が中心となる。
 武器使用基準の見直しについては「国会対策上の見地から言えば、かなり時間をとる可能性がある」(山崎拓自民党幹事長)として、国際基準並みへの緩和は行わないという。しかし、イラクの現地情勢はなお不安定である。政府・与党内には、正当防衛などの場合に限定した武器使用基準のままでは隊員の安全確保は難しいとして、緩和を求める意見が根強い。
 今国会は十八日で会期末を迎えることから、新法を今国会中に成立させるには会期延長が必要となる。ただ、延長幅をめぐっては、自民党非主流派が国会閉会後の内閣改造を狙って大幅会期延長に反対している。こうした動きと絡め、早期成立にこだわるあまり、他国の部隊に比べ隊員の活動を大きく制約させる内容になるとしたら、本末転倒である。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION